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たまごろう一家と不思議の家。

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私が溺愛しているたまごろう一家と家財道具達の日常のまとめマガジンです。うちの植物、道具達は、私が見ていないところで、よく家族会議をしているようです。
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2018年9月の記事一覧

【短編】8月31日、切符を拾った。03

≪*夕方編*≫ ***sideおおきな”わたし”*** 西へ、西へ、西極《さいはて》へ…と雲たちが帰っていくような夕暮れ時だった。 「なるほど…」 「多肉ちゃんと朝顔が…」 お姉さんは、ただ、聞いてくれた。そして分かったような事も一言も言わずに「ジュースは体が冷えますから」とポットのお茶を分けてくれた。 真緒とまお。わたしとワタシ。おおきなわたしとちいさなワタシ。どこかのお姉さんに優しくされてさらにわぁわぁ泣いた。 たなびく薄紫がもう空の向こう側に迎えに来てくれて

【短編】8月31日、切符を拾った。02

≪*午後編*≫ ***sideちいさな”ワタシ”*** ───大人だからって道をしってると思ったワタシがバカだった。 「ご、ごめんね…」 「……いいよ、もう…」 ワタシとめがヌ。2人ともヘトヘトでいしだたみの細い道。古いかいだんのとちゅうで座りこんでいた。きっとこういうのを”徒歩《とほー》がくれる”というのだ。もさもさの木々の向こう、とおくにやねと海が見えた。 あれからめがヌは「任せといて!」となんとなく左よりに丘をおりて、とにかく左に進んだ。どうして左なの?と質問

【短編】8月31日、切符を拾った。01

*午前中*編 仰ぐと玉座のような入道雲が天を蹂躙していた。8月31日。ツクツクボウシの断末魔の声が響く。夏の終わり。どこかの体育館から、とぎれとぎれの、カノン。 わたしは多分、”切符”を拾った。というか、切符だったんだろうと思う。 ───その前にわたしのちいさな頃の話をしよう。 ───”ちいさなワタシ”は10数年前のこの日、朝から大きな肩掛けかばんに少しの旅の装備を詰め込み、お気に入りの麦わら帽子と白いワンピースはためかせ、出発した。とにかく何も考えずに歩いた。夏の宿