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星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

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地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
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#読み切り

掌編「世界は愛すに満ちてない?」

掌編「世界は愛すに満ちてない?」

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星語《ホシガタ》掌編集*10葉目

(4000字/読み切り)

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「ミカちん❤️行ってきます」

犬ころ──わたしの長年連れ添った腐れ縁の彼氏──が寝てるわたしのおでこやらほっぺたにチューしまくって、起こさないように出て行ったのは覚えてる。

バイトが休みの朝。起きると、今日から梅雨明けだというのにやたらとひんやりしてて…部屋の壁が…?なにこれ。オフホワイトで、ざらりとめく

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掌編「庭師は地平に林檎の苗を」

掌編「庭師は地平に林檎の苗を」

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星語《ホシガタ》掌編集*9葉目

(2728字/読み切り/キャラデザ付)

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線原《せんのはら》地区は、その名の通り、延々と地平線が続く区域で、神の一筆。という通り名がついているぐらい、だだっ広く、単調だった。

わたしは小包を抱え、隣丘の大ペリカンのところまで、”お使い”にでているところだった。歩くたびローブの襟から三つ編みがぴょこぴょこと生き物みたいに反り、西日が弾けた

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掌編「鳩目町仕様ネイビーモデル67」

掌編「鳩目町仕様ネイビーモデル67」

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星語《ホシガタ》掌編集*8葉目

(2662字/読み切り/挿絵付)

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陽炎の中、ゆらり、青い屋根連なる白ばんだちいさな町、霞んで揺れた。

──ここはどこだ?

これは残像?それとも────

ふと気づくと、わたしは、光の爆発の中、坂の上から遠く水平線が見渡せる、どこかの町の只中に突っ立って、ノースリーブのワンピースをなびかせ、眼下に広がる青を見ていた。

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掌編「そんなところも?どんなところも」

掌編「そんなところも?どんなところも」

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星語《ホシガタ》掌編集*7葉目

(1143字/読み切り)

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「なに読んでるの?」

色の薄い板張りのダイニングに、東からの白い光。くっきりと窓の影が描きだされていた。今日の空は何色だろう。

継ぎの当たった二人掛けソファから巨体をはみ出し寝そべりながら、日曜の朝からスマホをだらだらと読み耽る、わたしの………恋人?いやなんかもうそういうのではない。家族?腐れ縁

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掌編「花唄屋」

掌編「花唄屋」

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星語《ホシガタ》掌編集*6葉目

(696字/読み切り)

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「コイツに話しかけると”はじまりのたね”をいい声で唄うってんで、
地球《あおやね》町、人気の苗でさァ」「お兄さんなら、どの苗だろうね」

柄にもなく花唄屋の口車に乗って、三色すみれを、ひと鉢、連れて帰ることにした。

確かに花唄屋は繁盛しているようで、路地や軒先のそこかしこ、住人が植えた花だらけの町だ

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掌編「うつつの本、青の蝶々」

掌編「うつつの本、青の蝶々」

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星語《ホシガタ》掌編集*5葉目

(2930字/読み切り)

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────ここはどこだ?

気づくと”わたし”は、ところどころステンドグラスがはまった、昭和感ただよう細工窓の向こう、キーコーヒーの看板。飲めもしないレモネードがテーブルに乗った狭い喫茶店で、ipadではなく、何故か原稿用紙に向かい、万年筆で小説を書いていた。

やたらと雰囲気満点な、この原稿用紙とレモネードの小

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掌編「朱の空の碧い錆」

掌編「朱の空の碧い錆」

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星語《ホシガタ》掌編集*4葉目

(950字/読み切り)

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わたしは草ボウボウの石畳、曲がりくねった路地のそのまた小径を急いでいた。

(”開始時間”はいつだったっけ…)

わたしは故郷での演奏会で出演しなくてはならなかった。足を速めるたび、からからと乾いた音が大きな黒い鞄から響いた。

そういえばわたしは何の楽器を演奏するんだっけ…。

顔がない子どもが通せんぼしてこう

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掌編「蒼い箱とスズメさん」

掌編「蒼い箱とスズメさん」

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星語《ホシガタ》掌編集*3葉目

(2031字/読み切り)

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小さな蒼い箱に、白いリボン。暗闇の中、ポツン。ボクは"サミシイ"の箱。

それにしてもここはどこだろう。寒いなぁ。どうやらどこかのお屋敷の窓辺、作りもののとげとげの木の途中に、ひっかかってるみたいだ。

そうだ、ボクはプレゼントのカタチをしてるだけの小さな飾りモノ。明日は昔のエライ人が生まれた、お祭りの日な

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掌編「何かがはじまるのは分かる」

掌編「何かがはじまるのは分かる」

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星語《ホシガタ》掌編集*2葉目

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「へーくしょん!」

ここは地球町《あおやねちょう》。木枯らしが吹き始める頃。

——俺は会社帰りぽつり一人。路地裏の屋根どもの隙間からチラとのぞく紅藤の雲、コートに肩すくめ目だけ遠い空を仰いでいた。暮れなずむ帰路。

「家、喰うもんあったかなぁ…」へーくしょん!

室外機から、寒々しく吐きだされる風に左右同時にぶおりと煽られ、先が濡れた

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掌編「畜生。月が綺麗だな!」

掌編「畜生。月が綺麗だな!」

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星語《ホシガタ》掌編集*1葉目

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”言の葉国《ことのようこく》”

南南西の方角の雲の中にある人口9人の小さな国。

——いかにも耳触りのいい国の名前に騙されてやってきた、俺は詩人。

藤月《ふじつき》程前からこの"国家"に配属された、職業詩人だ。

俺は”募集”を見つけた時、てっきり笛を吹いて大地とともにゆうらりと暮らせるものだと思って志願した。詩人たるもの働いたら負け

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