マガジンのカバー画像

星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

32
地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
運営しているクリエイター

#園芸

【短編】8月31日、切符を拾った。03

【短編】8月31日、切符を拾った。03

≪*夕方編*≫

***sideおおきな”わたし”***

西へ、西へ、西極《さいはて》へ…と雲たちが帰っていくような夕暮れ時だった。

「なるほど…」
「多肉ちゃんと朝顔が…」

お姉さんは、ただ、聞いてくれた。そして分かったような事も一言も言わずに「ジュースは体が冷えますから」とポットのお茶を分けてくれた。

真緒とまお。わたしとワタシ。おおきなわたしとちいさなワタシ。どこかのお姉さんに優しく

もっとみる
【短編】8月31日、切符を拾った。02

【短編】8月31日、切符を拾った。02

≪*午後編*≫

***sideちいさな”ワタシ”***

───大人だからって道をしってると思ったワタシがバカだった。

「ご、ごめんね…」
「……いいよ、もう…」

ワタシとめがヌ。2人ともヘトヘトでいしだたみの細い道。古いかいだんのとちゅうで座りこんでいた。きっとこういうのを”徒歩《とほー》がくれる”というのだ。もさもさの木々の向こう、とおくにやねと海が見えた。

あれからめがヌは「任せとい

もっとみる
【短編】8月31日、切符を拾った。01

【短編】8月31日、切符を拾った。01

*午前中*編

仰ぐと玉座のような入道雲が天を蹂躙していた。8月31日。ツクツクボウシの断末魔の声が響く。夏の終わり。どこかの体育館から、とぎれとぎれの、カノン。

わたしは多分、”切符”を拾った。というか、切符だったんだろうと思う。

───その前にわたしのちいさな頃の話をしよう。

───”ちいさなワタシ”は10数年前のこの日、朝から大きな肩掛けかばんに少しの旅の装備を詰め込み、お気に入りの麦

もっとみる

旅立ちの時が来た。

こんなポンコツ庭師だけど、丘の上いつまでも鐘を鳴らそう。

導《しるべ》だっていつまでも、灯しておくから。

還れるように、辿りつけるように。

チカチカと瞬く、ある日の蝶、夏の弦《げん》のように。
#家族