負けず嫌いのフローズン
私の顔めがけて雑巾が飛んでくる。
「今何をしなきゃいけないか、よく考えて行動しろよ!」
果たして修行と呼べるのか?そんなこともあった。
カウンター内の出来事、座っているお客様達は笑っている。
一種のショーなのだろうか…
こんな感じの修行を続けて半年程、
それまで居たレストランBarから本店のショットBarへ移動する事になった。
静かにジャズが流れるオーセンティックな本店は正に逃げ場のない空間であった。
どの様にお客様と向き合うべきか。
これまでの成果は出るだろうか?
とにかく今の自分を正直に表現するしかないだろう。
そう結論に至る。
開店して一時間弱が経過した頃、入口のドアが少しきしみながら空いた。
一人の女性がツカツカとヒールを鳴らして入ってくる。
「いらっしゃいませ」若干緊張気味ではあるものの、ハッキリ言葉を発した。
その女性客は私に目もくれず、上司が立っている位置付近のカウンター席に座るや否や第一声「何か一杯作って。」
と私の方へ声を投げた。
「作れない?」
立て続けに女性客は言う。
負けじと私は「お作りしますよ。」と半ばムキになって答えた。
若さゆえの答え方である。
私は、その頃上司が普段よく作っていたストロベリー・フローズンカクテルを作る事にした。
教えられてなんかいなかった、見よう見まねである。
上司が作る早さの2倍強の時間が経過し、ようやくそれらしいカクテルが出来上がった。
「これは?」女性が問う。
「フレッシュストロベリーのフローズンカクテルです」と私。
女性客は何も言わずにグラスに口を付け一口。
「この緑色の細かいのは?」
⁉️⁉️……!!!!!
しまった。。なんたる凡ミス。
苺の処理を忘れ、ヘタや葉を取らずにそのままブレンダーへ投入してしまったのである。。
女性客はその時初めて笑みを浮かべ、
「初めてにしては上出来じゃない」
と。
上司も苦笑しながら
「今、お作りしますね」
私は「申し訳ありません」と頭を下げる。
その夜は色んな種類の笑いに包まれ更けてゆくのだった。
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