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職業を鼻で笑われた日。

 就職が決まってすぐ、その職業を鼻で笑われたことがある。

 仕事に稼げる稼げないはあっても、偉い偉くないという価値観は間違っていると思うんだ。

 大学の卒業式の日である。


 正直、ここでも話している通り私の大学生活は卒業するまでの過程が本当に大変で苦しいことばかりだったから、「私は卒業式に出ない」というのをご褒美として卒業へ進んでいた。

 だけど母の振袖選びなさいねの言葉で、そうですよねとあっさりご褒美を諦めるということになった。

 そして式に出席している間、私はなんとか母に「大学がいかに楽しくて充実していたかを証明するために」一回喋ったことがあるかないかの人たちに声をかけては写真を撮りまくっていた。今じゃ速攻帰れば良いのにと思うところ、私は結局二次会まで参加した。

 何がしたいのかよく分からないけど、とにかく母に充実している私という存在を認識してもらえれば良かった。

 三次会に向かう途中で、「りいちゃんってどこの保育園で働くの?」と一緒にお邪魔させてもらっていたグループのリーダーのような子ににこにこと聞かれた。「飲食関係だよ」と答えた途端にリーダーの目つきが変わった。

 「え、飲食?ウケる。底辺じゃん。頑張ってね!」

 あくまで明るく言うその子の言葉に私は心臓にナイフを刺されたまま一緒に電車に乗り込む。この時点で血が吹き出て痛い。

 そして目的の駅に到着する前。

 「あ、ごめん。お母さんから電話来ちゃった。今日、三次会行けそうにないや、本当にごめんね。元気でね!」

 と言って、私は連絡の入っていない携帯を見ながら申し訳無さそうに途中下車して速攻トイレへと向かって個室の中でむせび泣いた。

 悔しかった。何にも知らない人間に評価されて笑われるのも、飲食という世界を社員として経験したことのないであろうアイツの見下し方も。

 全部許せなくて、情けないのと悔しいのでいっぱいになった。

 今でも私はその子を忘れていないし、きっと無理だと思うたびにその子の言葉を思い出していく。

 そして飲食に入社して半年。

 周りと比べて大分早い段階での昇進が決まった。当時まだ繋がりのあった大学の人たちに、かなり自慢げに嫌味を込めたコメントとその証拠となり得る写真をSNSに上げて心の底からざまぁみろ!ばーか!と大笑いした。

 と、まぁ幸せになれると思っていたのも一転。
やっぱり人生上手くいかないことの方が多いね。

 だけどどこの業界も広いし、奥が深い。ぶっちゃけ飲食は底辺の職業だと思ってしまう人がいるのも分かっている。(それを本人にぶつけるのは違うと思うけど)

 別に今となっては飲食業が大好きだったわけじゃないし、底辺?勝手に言っておけば〜と思う。経験したことのない人からの予測の言葉なんて、ただのしゃぼん玉。あの子に対して今更「飲食で培ったもの」について説明する気はさらさら無い。

 「え、仕事に偏見持ってるの?ウケる。頑張ってね!」

 って感じだ。

 彼女がどうなったかは私にも分からない。でも、存分にしゃぼん玉で遊んでいてくれれば良いと思ってる。うん、そのまま何も変わらずにどうぞ、お元気で。


 ※しゃぼん玉のイラストは、ろこさんから拝借いたしました。ありがとうございます。


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