【上半期総評】静脈を紺色に、動脈を臙脂に。
リーガは上半期を消化した。
首位バルセロナと2位レアルマドリードは勝点40タイ。アトレティコマドリードは勝点35で5の差を追走せんとしている。
スタンディングテーブルの順位だけは、見た目例年と変わらない。トップ3は見た顔ぶれである。
しかしポイントに目を向けると、最終節に近づくにつれ勝点差1に泣くAll or Nothingとなる泥沼にもつれ込む未来が見える。トップ層だけの話ではなく、昨シーズンを超えるカオスっぷりが目につき、どのチームに背中を刺されるか分かったものではない。
…バルセロナに話の焦点を合わせたい。
上半期の勝点40は、07-08シーズン以来最悪の成績である。
今季のド頭からビルバオのアドゥリスにバイシクルシュートで沈められ、出鼻を挫かれたこのチームは、その後あぜ道を無理矢理通る自動二輪の如く、個の攻撃力に依存する一点強行突破で勝点をぶんどってきた。
守備力については、現在降格圏にいるレガネスと最下位エスパニョールにさえ失点を許しており、レアルとアトレティコがここまで12失点タイで抑えている一方で、倍近くの23失点を記録している。
クラシコをスコアレスで終えておきながらレアルと得失点差で競り勝っているのは、MSだけでアトレティコの総得点22点を超える計24点を叩き出し、適応が心配されてきたグリーズマンがなんだかんだ7点放り込んだ恩恵である。さらに、メッシ依存と言われながらアシスト数はスアレスが7でバロンドーラー(アシスト数6)を上回る。
数字に沿えば、見た目健全な攻撃力よりも守備に問題があるように感じる。
事実クラシコでは前半レアルが完全に圧倒し、バルセロナはシュート数3対12でロッカールームに退散させられた。枠内にあと数本飛んでいれば負けていた内容だったろう。
しかしクレ・アントワネットは「守備が不満なら、攻めを褒めれば良いじゃない」とはならない。私を含め、内容への満足度に150点の感動を求めるサポがほとんどだが、ポジショナルプレーのポの字も無い現状では望むべくもない。それは分かっている。しょうがない。
そういう期待値の基準を取っ払っても、クレの中で今季のバルセロナに100点をつけられる人はほぼ居ないだろう。チーム独特の戦術的、哲学的、先進的魅力を感じない「どこかで見た」ような展開が連続する原因の一端はクラブ内外に分散していることも手伝って紐解けない。根が深すぎる。
①データで見るバルセロナ(定量)
総合戦績19戦12勝4分3敗のうち、アウェイでの戦績は10戦4勝3分3敗。負けは全て、引き分けはクラシコの1試合を除き全てが敵地での成績である。
確かにアウェイでの試合は、スペイン東部からだと長距離になりやすい移動や各地元の同調圧力によるジャッジの難しさ等のせいで落としやすい。かと言ってホームでは確実に勝てる保証もないわけだが、バルセロナで言えば、前半戦ホームでの敗北率0%は驚異である。
その結果が逆に、今のバルセロナの問題を如実に浮き彫りにしている。
上半期、アウェイ戦績で4位に食い込んでいるが、この10試合での得点期待値(xG)が13.39(1.34点/試合)の一方で、失点期待値(xGA)は11.54(1.15点/試合)と得失点間の乖離が少ない。決めるところを押さえても引き分け、良くて接戦で勝ちの計算である。
同集計3位のソシエダはxGにおいて、小数点以下の争いではあるもののバルセロナの期待値をわずかに上回っている。ここまでソシエダの総得点は33点で、バルセロナの49点には及びもつかない差があるが、攻撃1回分がゴールにコミットするかどうかで言えばバルセロナより質が高いということになる。
その49点を叩き出す攻撃力の質も、アウェイに絞って言えばリーグ内でトップ5には入れない。かたや総合順位2位のレアルはアウェイでのxGも2位である。先のテーブルでは1試合平均だとxG1.60に対しxGA1.14のため、敵地に乗り込んだ白い巨人が例え失点したとしても攻撃力不足で空回るのはほぼ期待できそうにない。
ではホームならば盤石かと言われると、ここでもレアルは9試合でxG18.23を叩き出しており、同13.78のバルセロナは大きく遅れを取っている。結果として勝てているから良いものの、チームとしてリファインできるポテンシャルだけで言えば、現状の路線でひた走るバルサにその余地はほとんどない。
総合順位別に見ると、xGを大きく上回るゴール数(G)を決めているバルセロナに対し、レアル、アトレティコ、セビージャは逆に下回っている。良い言い方をすれば「思っていたより多く決めている」が、裏を返せばxG計算時と全体集計時に要素に入っていないものが作用していることになる。つまり個の力と固め撃ちである。
②データで見えないバルセロナ(定性)
今バルセロナから急速に失われつつある「勝者のメンタリティ」は、粗く砕いて言えばプラス思考そのものである。これは勝つことに伴ってスパイラルアップしていく精神状態であり、負けが続くと無用の長物と化す。
このメンタルを備えていたチームで有名なのはファーガソン政権のマンチェスター・ユナイテッド、今で言えばクロップのリヴァプールが分かりやすい。
勝者のメンタリティを実装するのに必要な要素は以下3点。
①チーム内でそれぞれがお互いのために働く②各々の役割をしっかりと自覚している③チームとしても個人としても、練習や試合本番などのシーンに依らず全員が、一つの方向に向かって邁進する環境がある
これを実現するためのベンチマークをSMART(Specific:具体的で ,Measurable:測定可能で, Agreed:皆同意しており, Realistic:実際できそうで ,Time:期限が決まってるかどうか)で考えることになるのだが、組織論になりそうなのでここは別稿でお話しする。
話を戻すと、バルセロナにおける①と②に関しては少なくとも、この数年特に「メッシに預ける」で通している。結果として必勝ならば問題無いがそうもいかないのが現代サッカーである。
プレー中にリスクをとるのを許されているのがメッシだけという環境では、周りの勝負勘は弱まっていく。必然的にフィニッシャーはスアレスタイプのワンチャンスをモノにする理不尽ストライカーが求められるが、個の力を見せつけるだけの戦い方はバルサで多分には評価されない。
「勝負所で勝てるかどうか…」などの不安は大一番を超えていかないと養われない上、そもそも勝つことに喜びを感じ、その過程を楽しんだ上で育まれる勝者のメンタリティには錆がつく。
チームが苦しいときに声を上げて全員を鼓舞するプジョルのようなキャプテンシー、相手がネイマールだろうがメッシだろうが的確なコーチングで指示を飛ばすシャビのような司令塔、勝負できるか分からなくなって手をこまねいている味方を尻目に敵陣に突っ込んで無理やりこじ開けるジュリのようなメンタリティ…
「いける。大丈夫。俺たちはバルセロナだぞ。」
計算されたビジョンと、選手が互いに勇気を与え合うプレーシーン。マクロで見れば戦術的、ミクロで見れば滾る血を通わせた戦闘集団。
その片鱗すら、控えめなストラテジーと出し切れないフィロソフィーに隠れてしまい、いつの日からか埋没している。後者は特に、ビダルに任せるには荷が重すぎる。
昨シーズンから積み上げてきたもののせいだが、今季前半でかなり表に出てしまった。エスパニョール戦は最下位との対決だったが、腐ってもバルセロナダービーである。
クラシコどころかダービーも超えられない。そんなメンタルのバルセロナは怖くないと言われてしまうのも無理はない。
③後半戦へ向けて
「美しく勝つ」という哲学的な部分は、悲しいことに実体としてのチームそのものから距離がある話になってしまっている。時間がかかるだろうに、今季中の回復は望まない。
戦術的な面は、絶望視するほど悲観的には考えていない。それこそ望み薄かもしれないが、マジョルカ戦のようにバルベルデ自身が価値を発揮できればまだ問題ない。
しかし、その発揮するための精神的な部分はどうしようもない。タタ・マルティーノの1年時代のように、とりあえず試合を消化してしまおうとするようなスタンスがあと数年続けば、チーム全体に臆病が染みつく。
あくまでチームとしてだが、状況を改善できるとは思うし、究極は監督をすげ替える選択が残っている分だけその余地もある。
そもそも選手は臆する必要すらない。身が硬くなっているのはバルセロナに相対する敵の方だ。
運転手バルベルデの奥底にある、戦術的で常に攻撃性を見せられない根本的なメンタルに問題はある。勝負師としての要素が少なすぎる。それに慣れた選手は極地で闘えなくなる。
クライフは「サッカーはミスのスポーツだ。誰であれ最もミスの少ない方が勝つ。」と確かに言った。その考えのもと、ペップはボールを保持し続けた。しかし一方で「美しく散ることを恥と思うな。無様に散ることを恥と思え」とも言った。
今のバルセロナが美しく散るには、要所でリスクをとることが必要だ。トライアンドエラーでハイリスクを選択することによるリターンは、少なくともサッカーにおいて甚だ大きい。
CLグループステージのインテル戦、突破が決まっている対強豪との「消化試合」で、変則フォーメーションなんて小手先のことを試さずにカンテラから総動員すれば、個人としてもチームとしてもどれだけ得たものがあったろう。
後半戦、リスクを冒して種を撒くことができるだろうか。
今季CLは無理だろう。リーガもレアルの状態がここから上がってくるとすれば相当厳しい。アトレティコの5ポイント差も不気味すぎる上にその下に勝点30点台がウヨウヨいる。
選手や監督、引いてはフロント、さらにはカタルーニャの問題まで絡んできたら、同じ方を向くことすら危うい。
そうであっても、後半はチャレンジするバルセロナが観たい。「メッシでダメならもう無理だ」ではなく、選手各々が自信に溢れた推進力のあるプレーを相手に見せつけ、圧倒し、本当の意味で勝利し、さらに自信をつけて、勝者のメンタリティを備えてほしい。
バルセロナは怖くない、と言わせない。鬼気迫る勢いで、不気味さで、逆境で笑い、相手を恐怖させ、競り勝ち、できれば美しく、相手の家にお邪魔してほしい。
たとえホームでなくても、通う血が紺と臙脂なら、どこが戦場でも美しく、楽しく勝てるはずだから。
「誰もが自分の視野の限界を
世界の視野の限界だと思っている」
-ショーペンハウアー
※データ引用元: understat.com
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