見出し画像

世田谷区は障がい者の助成を切るなサウンドデモ - 2020年9月7日(月)/東京都世田谷

2020年9月7日(月)、東京都世田谷区で行われた『世田谷区は障がい者の助成を切るなサウンドデモ』の記録

 平日・月曜日のお昼に、世田谷区の障害者福祉予算削減に抗議するデモが行われた。新型コロナウイルス感染症の影響で税収が減ることを理由に、世田谷区・障害福祉部(障害施策推進課)は、来年度の障害者団体等に対するバス助成事業を休止することを含め検討するという通知を対象団体に対して発出した。
 世田谷区が行う保健福祉事業の中に『世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業』がある。障がい者の外出等の社会参加の機会を増やすことを目的として、障害者福祉団体等が行事で使うバス費用を助成してくれる制度だ。
 バス派遣事業対象団体の代表らは、世田谷区に対し「感染拡大の中、なんとか命をつないでいる障害者や高齢者などに対し、世田谷区財政の逼迫を理由に福祉予算等の大幅な削減を行うというのは、弱者を切り捨てる悪政と言うしかない。税収減の補填先を福祉予算等の大幅な削減に求めるのではなく、多額の税金が使われる「区庁舎の建て替え」の延期等をまず実行すべきです」など、強い抗議の姿勢を意見書として提出した。

 この動きを受け、ハードコアパンクの介助従事者たちが世田谷区役所へのサウンドデモを企画した。区役所の開庁時間に合わせ平日昼の時間帯に実施することとなった。
 デモ参加者は、小田急電鉄小田原線の梅ヶ丘駅北口すぐにある世田谷区立羽根木公園(はらっぱ広場)を出発し、「世田谷区は助成金を切るな!」などのシュプレヒコールをあげながら、世田谷区役所まで約1.5kmを行進した。ゴール地点の世田谷区役所前では、保坂展人区長および障害施策推進課に向けて、そのすぐそばで抗議の声をあげた。

【動画】

世田谷区は助成を切るなサウンドデモ - 2020.9.7 東京都世田谷(17分27秒)


【写真】

画像12


画像11

 最初にサウンドカーに上がったのは、フォークシンガーのFUCKER(谷ぐち順)さん。アコースティックギターを弾きながら『観光バスにのって』(高田渡『自転車にのって』の替え歌)、『モアザンハウス』、『メテオエブリデイ』を歌った。


画像19


画像15

 次はBlack Athetoseが出演することになっていたのだが、機材トラブルで演奏ができなくなり、小さい拡声器でシュプレヒコールをあげた。


画像9

画像10

画像14

画像16


画像17

 今回のデモの主催者の一人であり、世田谷区内の介助者であるBlack AthetoseのベーシストNORIさんが自身の過去の体験を語り、バス助成廃止反対を叫んだ。


画像18

画像17

画像8

画像4


画像3

 世田谷区役所前に到着し、今回の抗議デモの対象である、保坂展人区長がいる世田谷区役所第一庁舎3階の区長室、世田谷区役所第二庁舎1階の障害施策推進課に向けて一層激しい声をあげた。


画像5

画像6


 実は今回のデモは、全国各地で様々なデモや抗議を10年近く撮り続けてきた私でも驚いてしまったことがある。
 告知には「午前11時集合」とあり、参加者も警察官もその時間にスタンバっていたのだが、サウンドカーとして使う予定のトラックが渋滞に巻き込まれ大遅刻し、結果として2時間遅れでデモが出発した。


画像19

 集合時間から待つこと1時間半、ようやくトラックが到着した。しかし、着いたからと言ってすぐにデモが出発できるわけではなく、積んできた荷物を下ろし、バンド演奏用ライブセットを組み上げてサウンドデモができるようにする必要があった。
 そんな中、またトラブルが発生した。発電機の燃料ないという問題だった。ガソリンスタンドに燃料を買いに走った人が「ガソリン携行缶じゃ売ってくれなかった」と戻ってきて、発電機を引きずり再びガソリンスタンドへと買いに行った。……のだが、いくら経っても燃料が来ないので、警察が「もう待てない」と、集合してから約2時間半、当初の出発時間からは2時間遅れで、音の出ないサウンドカーが出発した。

 デモの映像を観て、あんなに立派な機材があるのになんで小さい拡声器1つでコールしてるのかと疑問を抱いたかもしれない。
 当初の予定では、バンドがトラックの上でライブすることになっていたので、シュプレヒコールもボーカルマイクを使って大型スピーカーから音を出す段取りだった。しかし、発電機が動かず、音も出ず、誰かが持っていた小型トラメガしかなかった。様々なトラブルが多発し、結局アンプラグドなサウンドデモになった。


画像20

 集合から出発までの間、ゲリラ豪雨と言えるような急な大雨があった。傘をさしていても濡れてしまうほどの雨だったが、まだ残暑が続いていて寒いということはなかったのが救いだ。
 雨に打たれたのはデモ参加者だけでなく、警察官たちも大雨にやられていた。中には雨具を持っていなかった警察官もいて、ずぶ濡れになっていた。それもそのはず、11時半にデモが出発して30分程度で隣接する世田谷警察署へ警備を引継ぎ、12時には業務が終わるはずだったのだから。雨が降ることを想定していなかったのは本人の責任ではあるが、とりあえず災難だったとは思う。


 今回のデモは大遅刻により出発が大幅に遅れたと書いてきたが、この文章の裏には実際の現場があって、いろいろと大変だった。集合時間の11時になっても、出発時間の11時半になっても主催者とトラックが現れず、現場はざわついていた。
 そんな中、主催者でもないのに忙しく動き回っていた人物がいた。フォークシンガーのFUCKERこと谷ぐち順さんだ。サウンドデモの出演者として現場にいたのだが、自分もよく状況が分かっていなかったはずなのに、参加者一人一人に丁寧に出発が遅れることを説明し、警察への対応も行ってくれていた。
 主催者が不在で、自身も介助者である谷ぐち順さんが急きょ挨拶をしてくれた。以下に文字起こしを掲載するので、ぜひ読んでもらいたい。


画像2

FUCKER(谷ぐち順)さん 主催者に代わって挨拶
世田谷区には、世田谷区障害者福祉団体バス派遣制度という素晴らしい制度があって、例えばバス旅行、僕もこの制度を使った旅行に参加したことあるんですけれども、例えば車椅子に乗られている方が複数で「さあ旅行に行こう」となるじゃないですか。そうなると「じゃあ、熱海行こうか」ってなるじゃないですか。それで「みんなで行こう」みたいな。そうなった時に、やっぱり移動、新幹線とか電車とかになることも多いかと思うんです。それだと、車椅子スペースって車両に限られたところにしかないじゃないですか。バス旅行だったら最高だと思いません?
僕も、なんかそういう旅行があるぞと思って、誘い受けて行ったんですね。そしたら車体のど真ん中にリフトがついている、だから車椅子で多分10台とか、シート外せば何台でも乗れる、そういうバスが停まってたんですよ。えー、と思って。これ旅費大丈夫? みたいな。そんなの借りるとしたら、めちゃくちゃお金かかるじゃないですか。それが世田谷区には、その制度があるので、そのバス、添乗員、運転士さん付きで、助成金で借りれるんです。バス旅行に、じゃあ車椅子の方が行きたいって言っても実現しないじゃないですか。でもその制度一つあれば、実現するんすね。
その団体が主催しているその旅行は、別に支援とか関係ない人も参加できるんですよ。そういう場ってなかなかないじゃないですか。それで、いろんな当事者の方、介助者も、みんなで旅行行くんすね。
それで、衝撃だったのが、いきなり「じゃあ出発します。はい、何飲みますか?」みたいな感じで。みんなお酒配って「かんぱ〜い」みたいな。それでワイワイ行くんです。もうほんと最高なんですね。でも、それって、その制度があるから実現してるってところが大きいと思うんですよ。
で、今回、世田谷区から「コロナの影響でバス旅行は控えてくれ」っていう通知が来たらしいです。それは当然だし、そのバス旅行主催してるところも、当然今回は見送ろうということにはなってたみたいなんですけれども、そこまではしょうがないかなと。まあ、行政側が「その制度を使うのを控えてくれ」って言うのも、ちょっとおかしいっちゃおかしいんですけど。
以降コロナ対応で色々予算が厳しくなるから、その制度自体を見送るっていうか、なくす方向になってるっていう通知が来たんですよ。ちょっと待て。ちょっと待って、って。
じゃあ、バス旅行行けなくなるすよね。あと、その制度って当事者の方が、例えば、施設見学とかにも使ってるんですよ。施設に見学行くのに。だから、とても大事な制度なんすね。なので、もう絶対認めない。認められない。そんなの許せない。だって、障害お持ちの方って、いろんな場面で、いろんな経験しにくいじゃないですか。物理的なバリアも、社会的なバリアも、こんなあふれてる中で。
そのバス旅行一つとっても、いろんな知らない当事者の人と仲良くなったり、介助全然関係ない人もすごい仲良くなったり、参加できたり、そんな機会もとても大事なんすよね。いろんな経験を、バス旅行行きたいって言っても「あ、車椅子じゃ無理だ」なんて、そんないろんな経験できないような社会になってるじゃないですか。
当事者の方が声あげて、どんどん制度使えるようになってきてるけど、こういう予算がねえとかで、簡単にカットされやすい。カットされる。そんなん絶対におかしいと思うんで、今回このデモを企画したのは、俺、じゃないんですよ。主催じゃないんで。今説明しといてくれって。だから、これ僕の個人的な意見です。
でも、やっぱり、障害者の方の問題って、あまり身近じゃなくないです? ここに集まってる人たちは身近かもしれないけど、あんま接する機会もないじゃないですか。そういう機会すら奪われてるから。でも、そんなことないすよね。みんな生活してるここ、一緒なんで。そもそも分けられてること、おかしいって思ってます。
だから、そういう、例えば旅行とか。世田谷のその制度、俺感動しましたもん。うわー、やっぱり世田谷すごいなって思ったすもん。だから、集まってくれてありがとうございます。今日はワンイシューでいきます。絶対に打ち切らせない。
ていうか、その制度もっと使いやすくすればいいと思う。メジャーな制度じゃないすよ。結構知らない人が「え、それなんすか?」みたいな、多かった。どんどん逆に使えるようにしていく。どんどんいろいろな幅が広がるじゃないですか。もう選択肢少ないすもん、障害持っているってだけで、やれることの。そういうのをどんどん広げて。
すみません、長くなりました。そんな感じで。もうちょいで車到着すると思います。よろしくお願いします。


画像1

フミ a.k.a. 社長さん 主催者挨拶
(サポート:谷ぐち順さん)
彼は僕が「あ、か、さ、た、な」って言って、それをまばたきで合図して、一文字一文字読んでってコミニュケーションとります。
「みなさん、おはようございます。遠くから来てくれてありがとうございます。今、車が混んでて遅れています。ごめんなさい。もう少しお待ちください」



【資料】

2世障施第500号
令和2年7月15日
世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業対象団体 代表者様

世田谷区障害福祉部障害施策推進課長 太田一郎

「新型コロナウイルス感染症の影響下における世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業の取扱いについて」
 平素より、世田谷区の障害者福祉施策にご理解ご協力をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、新型コロナウイルス感染症においては、国の緊急事態宣言が解除された一方で終息に至らず第2波、第3波なども想定されており、都内でも感染者数の増加に伴い、他府県への移動自粛要請が出されている状況です。また、世田谷区内の陽性者数も増加傾向にあります。
 当バス派遣事業においては、事業の性質上、観光バス内における集団感染や、他府県への移動による感染拡大のリスクが高く、徹底した感染防止対策を講じることが困難と考えております。
 また、当区の財政状況においても、新型コロナウイルス感染症の影響により税収が大幅に減る見込みであり、来年度の予算編成にあたりましても非常に厳しい状況であることから、全庁的に事務事業の休止や先送り、事業規模の縮小等の見直しが求められております。
 以上の状況を踏まえ、世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業につきましては、令和2年度は感染リスクが引き続き高いことから控えていただくとともに、令和3年度は今後の感染状況や区全体の動向を踏まえ、休止を含めて検討することにしております。
 大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解くださいますようよろしくお願いいたします。
【担当】障害施策推進課 管理係 遠藤・櫻井


世田谷区障害者福祉団体連絡協議会による世田谷区障害福祉部障害施策推進課への意見書
「新型コロナウイルス感染拡大による区の財政新規逼迫を理由とした福祉予算等の削減について」
 世田谷区長は8月4日日本記者クラブで会見し、「いつでも、どこでも、何度でも」というアメリカのニューヨーク州でやっているPCR検査を「世田谷モデル」として目指したいと発言した。
 新型コロナウイルス感染拡大の出口が見当たらない東京都において、他区に先駆け「世田谷モデル」を提案したことで、マスコミや福祉関係者からも評価する声があがっている。
 しかしその一方で、新型コロナウイルス感染拡大による税収の落ち込みなどによる世田谷区財政の福迫を理由に、令和3年度福祉予算等の大幅な削減や事業の休止を検討しているとの情報があります。
 事実すでに世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業対象団体に対し、税収が減ることを理由として、令和3年度の助成を休止することを含め検討するという通知が出されています。
 新型コロナウイルス感染拡大による影響は、全国民的問題でありますが、障害者や高齢者などは、これまでも大変な思いをして生活してきました。その上、感染拡大の中、なんとか命をつないでいる障害者や高齢者などに対し、世田谷区財政の逼迫を理由に福祉予算等の大幅な削減を行うというのは、弱者を切り捨てる悪政と言うしかありません。
 税収減の補填先を福祉予算等の大幅な削減に求めるのではなく、多額の税金が使われる「区庁舎の建て替え」の延期等をまず実行すべきです。


世田谷区保健福祉総合事業概要<総合編> 令和2年度版
(第3章 障害者保健福祉 15. その他)

バス派遣
【事業の開始】昭和61年4月
【窓口・所管】障害福祉部障害施策推進課管理係
【事業の概要、目的】障害者(児)福祉団体等の実施する行事(研修会、講演会、機能等の回復訓練及び相談会等)の活動にバスを派遣する。これにより、障害者(児)の外出等の社会参加の機会を増やす。
【根拠法令等】世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業運営要綱
【対象】要綱別表に掲げる団体
【事業の実績】派遣団体数12団体
【予算】[歳出]4,060,000円
【決算】[歳入]特定財源なし [歳出]2,720,000円


世田谷区障害者(児)福祉団体等バス派遣事業運営要綱
第1条 この要綱は、障害者(児)福祉団体等の実施する行事等の活動に予算の範囲内で、バスを派遣する事業を適正かつ円滑に執行するため必要な事項を定め、もって障害者(児)等の自立更生を援助し、福祉の増進を図ることを目的とする。
第2条 バスの派遣を受けることができる障害者(児)福祉団体等は、別表に掲げる団体等で、次条各号に定める活動においてバスの利用を必要とするものとする。
第4条 区長は、前条に規定する障害者(児)福祉団体等が、次の各号に掲げる活動を行う場合、次条に定めるバス利用年間計画書の内容を審査のうえ、バスを派遣することができる。
 (1) 研修会、講演会、機能等の回復訓練及び相談会を実施するとき。
 (2) 地域住民との交流会を実施するとき。
 (3) 障害者(児)等の自立更生を目的とした他の団体等の行事又は催事に参加するとき。
 (4) その他前号に類似した事業で、区長が必要と認めたとき。


【関連記事】


全国各地のデモや抗議などを自腹で記録しています。サポート頂けますと活動資金になります。よろしくお願いします。