竹光ーたった1分で読める1分小説ー
菊四郎は、ある男を討つように命じられた。上意討ちだ。
相手は、大石静馬。静馬は藩でも名高い使い手であり、暴れ者でもあった。同僚を斬り殺し、脱藩を図ったのだ。
静馬は民家に立てこもっていた。
「大石静馬! よければ少し話さぬか」
菊四郎はそう叫ぶと、静馬がのそりと家から顔を見せた。
「やはり討手はおぬしか」
菊四郎は九鬼一刀流の免許皆伝者で、静馬と並ぶ腕の持ち主だった。
「おぬしと拙者、腕は五分だ。どちらも無事ではすまぬ。おぬしとは斬り合いはせぬ」
菊四郎がうなずく。
「同感だ。俺も斬り合いは嫌だ。刀で人を殺したくはない。これを見ろ」
菊四郎が刀を抜くと、静馬が目を丸くした。なんと菊四郎の刀は竹光。つまり、竹で作られた刀だ。
「……どういうことだ?」
菊四郎が頭をぼりぼりかいた。
「恥ずかしながら買いたいものがあってな。刀を売って金に変えた。だから安心しろ。これでは斬れぬ」
「それでも武士か」
静馬が吐き捨てると、ぬらりと刀を抜いた。
「気が変わった。竹光相手に負ける道理はない」
静馬がダダッと一気に距離を詰める。すると菊四郎は懐から短銃を取り出し、静馬に撃った。まさかという表情で、静馬がドサリと倒れる。
菊四郎は刀を売って、長崎で短銃を買ったのだ。
命が果てる寸前で、静馬が口を動かした。
「おぬし、斬り合いは嫌いではなかったのか……」
菊四郎が無邪気に笑った。
「ああ、嫌いだ。だが銃を撃つのは好きだ」
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コイモドリ 時をかける文学恋愛譚
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