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Kenshi始めた

右も左も分からぬKenshiの世界で商売を始めんとする一人の人間がいた。

いかついマスクで顔を隠し、めっちゃ曇ってるのに空が眩しそうなポーズをしているこの者がそう。名をリンヒラと言う。
リンヒラは「ブル」という牛に似た運搬用の生き物と共にKenshiの世界へ降り立った。ブルに名前はつけていない。見捨てるべき時に見捨てるためである。下手な繋がりや愛着は死に繋がる。心を鬼にしなくてはKenshiの世界では生きられないと、一緒に牢屋を脱獄をした友を助けようとして化け物に生きたまま食われた前世の記憶から感じていた。
決してキャラメイクの時に名前を付け忘れただけではない。運搬用ブルに運搬用ブル以上の名はいらぬのだ。たとえ心の中でチャッピーやポチョムキンと呼んでいようと。

なにせKenshiの世界は野蛮である。

街から街への移動をするだけで野盗、動物、あげくの果てには人食いの集団に襲われる。
この世界の住人は倫理観など母親の腹に置いてきている。その母親も倫理観を便といっしょにケツからひり出している有様だ。
Welcome to this crazy time. このイカレた時代へようこそと流れてきそうなここはまさに世紀末。暴力が支配する世界。

そんな厳しい世界でどうやって生きて行けばいいのだろうか。
この世界に生まれ落ちた人間(プレイヤーキャラ)は全てのスキルが初期値であり、世界で一番バカでアホで無能で生産性もなく非力だ。その辺のチンピラや犬にも勝てない。力もなければ金もコネもない。果たして。


結論は簡単だった。何かを得るためには何かを捨てるしかない。そして私は倫理観を捨てた。

まずは足を鍛えた。銅鉱石を掘って小銭稼ぎをする傍ら、ひたすらマラソンを続けて足の速さを鍛える。
早さが十分になったら野盗をおもむろに挑発。そいつらを別勢力のいる場所まで引っ張って戦わせる。
やつらがお互いに争い合ったのを遠くから見守り、負けた方の死体から追いはぎをして隣町へそれを売りに行く。それが最初に始めた仕事だった。

だがしばらくして気付く。野盗の持っている装備が安すぎて二束三文にしかならないのである。そうよね、お金がないから野盗なんかやってるんだもんね。しかしこれでは銅鉱石を真面目に掘っていた方がよっぽどお金になる。いやじゃいやじゃ、そんな労働などしとうない。
まあ、荷物をたくさん担いで走り回るのは筋力トレーニングにもなるからいいか……


そうやって荒野を走り回っていると、トラブルに遭うこともある。

どこかから逃げて来た逃亡奴隷が「スキマー」と呼ばれる魔物に襲われていた。
一般的な人間のHPが100くらい。この時点でのリンヒラが剣で斬りかかって10ダメージくらい。それより強いクロスボウで20くらいのダメージ。対するスキマーの攻撃は80くらいのダメージを与えて来る。
防具を着てない人間なら2発で沈むくらいの強さであり、当然勝てない。
スキマーよりも足が遅く、スキマーより弱い奴らは祈りながら荒野を走るしかない。それくらい厄介な存在だ。

当然、そんな厄介なやつに関わりたくはない。何せこちらは非力な人間。
しかし、それでも私は逃亡奴隷を助けに行くことにした。これは理屈ではない。目の前で困っている、それも死にかけている人間がいるのに助けないのは道理に反する。
私はもたもたとクロスボウを抜きながら、同時にブルへ突撃を命じた。従順なブルはスキマーの元へ走っていく。
スキマーは確かに強い化け物だが、うちのブルだって負けてはいない。なにせ野盗集団の中に突撃命令を出し、袋叩きにされまくって「打たれ強さ」のステータスを上げては治療しまくるループを繰り返していたので、そこらのブルよりよほど強いのだ。サイヤ人の修行みたい。

袋叩きにされて意識を失ったブルを抱えて走り回れば私自身の筋力トレーニングにもなる。一石二鳥だ。ほら、こんな酷い扱いするならやっぱ愛を込めた名前なんか付けてなくてよかったんだよな。

それはともかく、ブルを盾にしてのクロスボウ戦術により……

なんとか逃亡奴隷を助けることができた。しかし出血が酷く、意識を失っている。応急処置をした後、どこか安全な場所へ運んでやる必要があるだろう。
私は手慣れた動作で応急処置をした、なにせ修行でリンチされてた運搬用ブルを何十回も治療していたので治療だけは上手くなっていた。

その甲斐あって彼の出血はなんとか止まり、一命をとりとめた。
このKenshiという糞みたいな世界でも、人は人のために何かできるんだ。
そんなことに気付かされた日であった。

ちなみに逃亡奴隷は奴隷商人に返したら2000キャットで売れた。(キャットは金の単位)
私はしばらく飯に困らないし、逃亡奴隷は死なないように奴隷商に世話してもらえる。うーん、win-winやね。
今日はいい日だったねブル太郎。明日はもっといい日になるよねブル太郎。


っていう感じで遊んでるので結構楽しいです。
ただ、マジで世界へ投げっぱなしで放り出されるので、自分で目的を見つけたり、発見することに喜びを覚えたり、すさまじく気長な修行とかを楽しめる人じゃないと辛そうだなとも思います。
鉱石掘ったり追いはぎしてるだけで数時間経ってたけど、このペースで遊び続けるの怖くなってきたな…


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