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FC町田ゼルビア 2020シーズンレビュー

色んなことがあった今シーズン。無事に終われたことの裏側には多くの方のご尽力があったからです。この場を借りて感謝を申し上げたいと思います。

ゼルビアとしては、相馬前監督に別れを告げ、ポポヴィッチが監督に再就任という長期政権後の難しいシーズンだった。そう、今J1で流行っている「時を戻そう」を一年前に行っていたのだ。クラブとしては3カ年計画を掲げ、その1年目の土台作りの年だったが、果たしてJ1昇格という目標をあと2年で果たせるような、土台はできたのだろうか。

この検証も兼ねながら、皆様とともに今シーズンを振り返っていけたらと思います。お付き合いよろしくお願いします。


今シーズンの成績

19位 勝点49 12勝17敗13引き分け 41得点52失点

んー。2年連続で残留争いクラスですよ。これをどう評価するか。去年が9勝17敗16引き分け、36得点59失点だったことを考えると、改善されたように思えるが、昨年よりも過密日程で交代枠が増えたことなどを考えると、大して変わらないように見える。

1試合平均で0.97という得点力不足は早急な改善が求められると思う。今シーズンのゼルビアは決定力不足というよりかは、シュートのさらに上流であるチャンスメイクに欠陥があったので、そこをどう改善していくのかは監督の力が問われる。

また同じく1試合平均で1.23という失点の多さ。今シーズンはボールウォッチャー癖が治らない。後半途中から足が止まってしまい、アディショナルタイムに失点してしまうなどなど多くの要因が挙げられる。安藤の加入で前プレという武器を身に付けたものの、来季の去就は不透明で(12/31時点)、来季も同じような前プレができるとは限らない。

次に勝点の推移を見ていくと、

勝点推移

前半戦は9節から13節にかけて5試合勝ちなしがあったものの、直後の4連勝などもあり、順当に勝ち点を稼げていた。しかし、後半戦は連勝が39~40節の一度のみで、27節から32節にかけての6試合勝ちなしや34節から38節にかけての5試合勝ちなしなど勝てない時期が長く続き、後半はどんどん順位が下がっていった。

特筆すべきは安藤の負傷時にわずか1勝しかできなかったことである。安藤は30節の愛媛戦で負傷し、38節の山形戦で復帰したのだが、その間で勝ったのは33節の山口戦のみ。安藤に依存した前プレが、安藤離脱後は上手く機能しなかったことが要因と考えられる。

そしてチームトップスコアラーが、平戸の9点。次いで安藤の7点、岡田の4点と続く。やはり、トップスコアラーが2ケタではないというのは物足りなさを感じる。J1昇格を目指すのであれば、上位2人で25得点くらい取りたい。せめて20得点は。やはり計算外だったのが、セルビア人2人の不調か。監督のリクエストで連れてきたにもかかわらず、ステマソ2人合わせて2得点は厳しい。点を取るのは才能なので、報道の真偽は不明だがここにお金をかけようとしたところは評価したい。

次章は今シーズンのサッカーについて述べていきたい。

今シーズンのサッカーとは何だったのか

2年前くらいに流行ったバルディ本の分析のフレームワークに則って、4局面+セットプレーの分析をすることで、今シーズンのゼルビアを振り返りたいと思う。

守備

ポポヴィッチ監督は相馬前監督と同様に4-4-2を採用した。しかしそのやり方は全く異なる。ポポヴィッチ監督は中央を締めるようなブロックを築き、タイミングが合えばプレッシングに行くというやり方を採用した。

プレッシング

今シーズンはボールを失ったら陣形を気にせずに即時奪回を狙うゲーゲンプレスとは異なるプレッシングを採用した。まずは4-4-2のブロックを作ることを最優先にし、安藤をスイッチ役にボールホルダーへプレスに行く形だ。2トップのもう一角の平戸は中央のボランチの選手を監視して、縦パスは通させないという、守備の基本的な考えを体現している。

しかし、最後の5連戦あたりから、やり方が変わったように思えた。相手のボランチは後ろのCHがスタートポジションを一列前にすることで対応し、平戸も相手最終ラインへのプレスを見せることが多かった。

チャンスと見れば、少し陣形を崩してでもボールサイドのSHが相手最終ラインまでプレスに行くこともあり、奪えずに前進を許してしまうと、そこから芋づる式にSB、CHとズルズル引っ張られて疑似カウンターという場面も少なくなかった。

このプレッシングを取り組む始めたのは安藤加入後、つまり中断期間だと私は読んでいる。開幕戦を見返した限りでは、ステファンがプレスに行く場面は見られず、ブロック守備に注力していたからである。そして浦和、鹿島とのTMからプレッシングが見られるようになったからである。

これはつまり安藤の加入ありきなので、安藤頼みのプレッシングになっているということである。そのため、安藤離脱時にはプレッシングがハマらないことが多かった。来シーズンの懸念点の1つ。

ブロック守備

ブロック守備もプレッシング同様、安藤(最前線の選手)の動きが重要である。安藤がボールホルダーへコースを切りに行くような動きをしてサイドに誘導することが、ブロック守備が成立する条件の1つである。

そしてプレッシング時と同様平戸が縦パスを通させないように相手ボランチを監視していた。またSHが前に出て行って、サイド経由で前という選択肢を消しに行くというのが1stプレッシャーラインの守備である。

この1stプレッシャーラインが突破されると一列前に出たSBやカバーエリアの広さとボール奪取に長けた佐野海舟がボールを奪う、または時間を稼いで4-4-2の再構築というのが2ndプレッシャーラインの役割である。

ゼルビアの狙いは佐野、奥山のいる左サイドに誘導してボールを奪い取ることであるが、これが読まれ始めると相手はゼルビアの左サイドを嫌がる、または地上戦ではなく空中戦やスピードで奥山に勝とうとしてくる。ここの対策はシーズンの最後までできなかった。

今シーズン失点が止まらなかった要因はこれからにある。この2ndプレッシャーラインが突破された後の対応だ。SBやCHが剥がされていて4-4のブロックが崩壊すると、崩壊したままで横にスライドするでもなく、CHが戻ってきて空いた穴を埋めるでもなくで簡単にサイドやハーフスペースを破られることが多かった。

また、最終ラインに4人が揃っていても、自陣深くまで押し込まれてもCHがハーフスペースを埋めようとしなかったのも失点が止まらない要因の1つであると思う。


ポジティブトランジション

ゼルビアのポジティブトランジションはショートカウンターが基本である。なるべく前でプレッシングをハメてボールを奪い、カウンター。

この時に重要となるのが、ボールサイドとは逆サイドのSHの動きである。特にカイナ、平戸、髙江、海舟は奪ったら顔を上げて、ロングボールで相手SBの背後へ展開ということを意識的に行っており、郡司さんの記事からは監督が意識的にやらせていることが伺える。

ショートカウンターのタイミングを逃した場合は、CBの2人と髙江の3人を中心に遅攻に移行する。


攻撃

ビルドアップはCBの2人+髙江の3人を中心に行われる。そしてそれぞれの役割が見られるという特徴がある。水本は縦パス、深津はプレス回避のロングボール、髙江は短・中距離のパスと。そして海舟を絡ませながら、敵陣に侵入しようとする。

敵陣に入るとワンツーやダイレクトプレーなどポポヴィッチ監督ならではの要素も見られ、サイドの局面ではペナ角を取るために、3オンライン、サイを使ってワンツーからシュートor逆サイドのSHへパスしフィニッシュという形が多いか。

岡田の得点の多くはこの形が当てはまるし、アウェイ山形戦の2得点目はポポヴィッチ監督の理想的な形であると言えるだろう。

ペナ角での強さ、つまりポストプレー要因としてステファンをリクエストしたのだろうが、ステファン自身のケガや中断期間に加入した安藤がハマったこともあり、ステファンにとっては厳しいシーズンとなった。

また、SHを逆足配置にしたことで、カットインからのシュートや上記のワンツーからの逆サイドのSHのフィニッシュという、ポポヴィッチ監督の理想を上手く体現しようとしたが、これは早々に対策された。スペースがあってこそ生きるゼルビアのSH陣にとっては、密集の中のワンツー地獄で自分の良さが出せずに苦しんでいるように見えた。


ネガティブトランジション

ネガティブトランジションは守備のところで述べたように、4-4-2の陣形を整えることを優先しつつも、敵陣深くであれば即時奪回を狙うという形である。

今シーズンのゼルビアはSBがリスクを冒して、かなり高い位置を取っているのでサイドでの局地的な数的優位が作れていたので、サイドでは特に即時奪回を狙う傾向が強かった。

しかし盤面をひっくり返されるようなことがあると帰陣が間に合わず、一気にピンチになってしまっていた。スピードに強みのあるSB...(あ、酒井ちゃん)


セットプレー

ゴールキック

攻撃時のゴールキックはほぼ必ずロングボール。ターゲットマンはほぼ安藤。安藤は身長175cmのため、ほぼ必ず競り負ける。そのためセカンドボールをどうやって回収するかが鍵になっていた。平戸やSHなどが近くに寄って回収する、もしくは即時奪回を狙う形。

一方守備時は2パターンを使い分ける。相手がペナ内から繋ごうとした場合は、それに合わせて全体が前がかりになる。

相手がロングボールを選んだ場合は、ターゲットマンに競り合いの強い深津を当てて応戦。水本が最終ラインを深めにして、相手のフリックや背後を取られることを警戒するという形。

CK・FK

右は我らが信仰の対象である平戸太貴。左が吉尾海夏。時々髙江。平戸8割5分、カイナ1割、髙江5分という割合。

基本はサインプレーで、過密日程の短い準備期間の中でこれだけ準備してるんだろうな感。全得点の30%弱をセットプレーから作り出すのだから、優秀なキッカーの存在は貴重である。来年も祈りましょう。

守備時は基本マンツーマン。ただ、最終盤は奥山が狙われることが多く、ここの対策は急務だと思う。

スローイン

攻撃時は上でも取り上げた3オンラインとサイをやったり、やらなかったり。ただ、全体的にスローイン時に足が止まることが多い。スローインは休憩時間ではなく、チャンスなのだからここで相手を休ませてはならない。

守備時は基本人に付くが、そんなに人数をかけないので(多くて3~4人)、相手が人数をかけてくると後手に回ること多し。


長くなってしまったが、本章はここまで。次章は来シーズンの展望を。


3か年計画の2年目に向けて

概ね主力の引き留めには成功し、さらにはポポヴィッチ監督の愛弟子と呼べる存在である長谷川アーリアジャスールを獲得するなど積極補強。数年前では考えられない資金を使っているため、言い訳はできない状況は揃いつつある。

ただ、今シーズンはメンバーを固定しすぎたため、人が入れ替わった時にチームという有機体が上手く機能しなくなる可能性は否めない(今年も上手く機能していたかは疑問だが)。

そして懸念事項なのが、ポポヴィッチ監督は長い監督キャリアの中で2シーズンを完走したのはFC東京時代の一度のみ。少し不安が残る。来季は降格枠が4に増えるため、早々に見切りをつける可能性は高い。

ただ、サッカーの中身だけを見ると、概ね主力が残り、愛弟子長ジャスの加入とあれば、来年よりも監督の理想に近いサッカーができるようになるのではないか。そして来シーズンは今シーズンのような過密日程ではないので、アクション型のゼルビアにとっては追い風な日程なのではないかと思う。

J1規格のスタジアム、クラブハウスの完成。環境は整った。あとは成績だけ。逃げるなよ。


さいごに

かなりの長文になってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございました。今シーズンは勝てない時期が長く、メンタル的にきつい時もありましたが、何とか終えることができました。

ここ2年はチームの成績は芳しくないですが、もう一度、18年のホーム最終戦のようなあの緊張感に包まれたシチュエーションでゼルビアの試合が見たいのです。満員のスタジアムを作り出す、そのお役にこのブログがお役に立つのなら、サポーターが一人でも増えてくれたらいいなと思い、これまでもこれからも書くことでゼルビアを応援していきたいと思います。

みなさま良いお年を。来年もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。


参考文献





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