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【本からの学び】父が娘に語る経済の話の要約と所感

父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

ヤニス・バルファキス=著 関美和=訳

ダイヤモンド社


経済の仕組みや本質、歴史を、わかりやすく解説してくれます。娘に語りかける設定で書かれていて、使われる言葉も専門用語はなく、例え話も多用されており、非常に理解しやすいです。経済の仕組み、本質、歴史をこの本を通して、理解する上で、押さえておくべきポイントを紹介したいと思います。

経済の始まり:余剰

余剰が経済の始まり。作物を作るという農業が興り、そこで余剰分を蓄えるようになった。自分の持っている余剰分を、貝殻などに重さで記載しておく、それがお金や負債の始まり。倉庫の管理者も、作物を預ける自分も貝殻に書かれた重さを信じるから成立する。

交換価値と経験価値

価値を交換することで、経済は回る。だが、まず価値には、交換価値と経験価値の2種類がある。交換価値はまさに市場経済で交換される商品。お金で価値を測るもの。一方で、経験価値は、言語化が難しい。例: ギリシャ神話の偉人は、偉大な武器を継承したかった。でもそれをお金で高く買える方が受け継ぐ、のではなく、受け継ぐに値すると自分が評価されることが大事だった。武器そのものではなく、評価される、という経験価値が、彼らにとって非常に重要なものだった。

借金や債務が経済成長を促すガソリン

借金が利益の追求する今の社会を作った。事業を起こすには先立つ資金が必要で、借りるしかなかった。借りた以上は利益を出して稼がないといけない。本質的にはこの構図が産業革命を押し進めたのであり、テクノロジーの発達により産業革命が起ったのではなく、借金を返さなければいけない→競争に勝って事業に成功しなければならない→テクノロジーを取り入れる→産業革命、という構図である。そのため、借金は経済を回すためのガソリンのような存在で重要な存在である。また、貸す側の視点も重要。銀行が融資先(お金を貸す事業)を間違えると、借主がお金を返せない→銀行が預金を預金者に返せない→預金者はお金を使えない→不況が訪れる、という結果を起こしてしまう。しかし。銀行は融資を進める傾向にある。なぜならば融資して作った債権を金融商品として販売できるから。それで銀行のリスクはなくなる。

公的債務である国債は、増えすぎると問題だが、必要ではある。「最も流動性の高い資産」と言われていて、国が保証する債権なので信頼されている。確実に安定的に利子を生むし、金融商品として販売もできるため、銀行は国債が大好き。国債は金融システムを回す潤滑油として重要な役割を担っている。

景気のコントロールが難しい理由

例えば、みんながこの先の景気を信じるかどうかが雇用に影響する。なかなか仕事が見つからない労働者は、自分が欲しい給料水準を下げれば、仕事は見つかるという単純なものではない。労働組合が賃金2割減に合意したとして、2割減になると単純に人を雇いやすくなるが、雇われた人は給料が減るので消費が落ち込むはず、ならば、人を新しく雇って会社の生産を増やしても、需要がないのでは意味がない、同じ判断を他の経営者もしたら、もっと景気は悪くなる、じゃあ今は採用をやめておこう、となる。そういう集団のジレンマみたいなものがある。同じように中央銀行が金利を下げると発表しても、金利が安いなら借りようという考えと、金利を下げないといけないくらい景気が悪いなら今はやめておこう、という考え方が出てきて、周りの動き方を伺うようになる。そこまでわかってるなら、うまく対応できそうなもんだが、やはり人は周りをうかがって、短期的に自分を守ろうとする。人間らしさがどうしても経済をうまくいかせない。

テクノロジーが発達していくにおいて大事なこと

テクノロジーが発達し、機械化が進み、人間が働かなるとき、大事なのは機械が作る利益をすべての人に行き渡るようにすること。富が集中すると多くの人が使えるお金が減って、モノを買えなくなる。

通貨の仕組み - 通貨の条件

お金が、お金として機能するためには、つまり対価交換する存在として機能するためには、条件がある。腐らないこと、持ち運べること、みんながその存在を信じていること。第2次世界大戦中のドイツの捕虜の中では、支給物資の中に含まれるタバコがお金(通貨)として機能していた。最初はコーヒーと紅茶を交換するところから始まり、交換の仲介を行って、サヤを抜く一部の人間が儲けていた。やがて交換することが当たり前になり、交換相場が定着していくと仲介ビジネスは成り立たなくなる。コーヒー10gと紅茶は10gが一般的な相場みたいな感じで交換価値の相場が定着する。その後、タバコが紅茶ともコーヒーとも交換できるものとして機能していくようになる。

通貨の仕組み - 金利とインフレ&デフレの関係

金利についても、捕虜にとってのタバコで説明できる。支給されるタバコの量が増えると、タバコ1本あたりの価値は下がる、そうするとタバコ10本で買えていた紅茶がタバコ12本じゃないと買えない、みたいな状況が起こり、物価が上がる、つまりインフレが起こる。一方でタバコの量が減ると、タバコの1本あたりの価値は上がって、物価は下がる。つまりデフレが起こる。タバコ10本を来月12本にする約束で貸した場合、金利は20%。しかし、もし今後インフレになるとしたら、来月には12本もらえたらとしても、タバコ1本あたりの価値が下がっているので、実質的な儲けが少なくなる。なので、金利の設定はインフレかデフレかの予測によって大きく変動する。

通貨の仕組み - 政治と通貨の関係

通貨と政治による後盾が必要な理由をビットコインの例も使って解説。通貨は政治と密接な関係がある。先進国では中央銀行は政治から独立しているという立場をとっているが、実際には、政治とは切り離せない。お金の流通や金利の調整で経済のバランスをとることは政治活動とは切り離せないからだ。逆に本当に中央銀行が独立していれば、選挙で選ばれていない人間が経済をコントロールするために動かせるという構図は、民主主義国家にとって危険ではないか。ビットコインは、この通貨という仕組みを、中央集権的な団体のコントロールではない形で実現した画期的な手法として注目されたが、そこがまさに危険性でもある。ビットコインは上限発行数が決まっている。(2032年には上限にいく)なので、上限に達すると、その一方でも企業が作るモノやサービスは増えていき、相対的にビットコインの価値が高くなっていく、つまりデフレが起こっていく。でも、政治が、中央銀行が介入できないため、どうすることもできない。通貨のコントロールに政治介入が必要なことは歴史的にも証明されていて、金本位制度という金の保有量とマネーサプライを紐付ける制度があったが(政治と通貨を切り離すための施策)、金融危機の際に、これを撤廃することで危機を脱した過去がある。

全て民主化していくことが大事

森林火災が起きると経済は潤う。なぜなら、森に交換価値はなく、経済的な損失はないが、火災を消すために消防車が出動したりすることで収入を得る人がいる。環境という限られた資源とわかっていても市場経済優先になると、環境破壊は進んでしまう。では、どうすれば環境という経験価値を守れるか。森や空気が誰かの所有物になればいいのか?それだと昔の封建制度と変わらないのではないか。なので、株券のように一人の所有者ではなく多くの人で所有する仕組みにすればいい?これは既に実現されていて、排出ガス規制は、炭素の排出権を売買できる仕組みである。でもここでもやはり政府の力は必要で、誰にどのくらいの権利を最初に割り当てるのかは政府が決める。通貨、テクノロジー、環境の管理は民主化していくべきである。民主的に管理するということは1人1票の権利を持って管理(監視)できる。商品化、つまり市場経済の仕組みでは、株券を多く持っている人が強い発言権を持ってしまうので問題がある。


◾︎所感

経済の仕組みが非常にわかりやすく解説されていて、自分たちが生きている市場経済やお金って何なのかの知見を深めるためには、非常に良書だと思います。なぜあらゆるものを民主化した方がいいのか、決定的にクリアーには書かれていないが、おそらく資本主義により権力が集中する構成では、環境問題やテクノロジー発達に富の分配ができない、と言いたいのかなと思いました。日本はお金の教育がされていないってよく言われますが、お金ってそういえば何なんだろう、とか、景気とか経済とかフワッとしててよくわからんっていう方にはおすすめの本です。

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