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牛のことが大好きなので、鹿の事業をしています。

私は現在大学3年生。2年前、鹿肉の利用を推進する和鹿推進サークル 「み じ か」を立ち上げ、鹿肉普及に向けて活動を続けています。

牛が大好き(正確に言えばリスペクト)な私が、なぜ鹿の事業を行なっているのかを時系列でまとめました。

少し長くなりますので、暇を潰す手段の1つとして下さい。


牛との出会い

まだ保育園の頃でした。三重県にあるモクモクファームは、宿泊をすると乳牛のお世話ができました。そこへ泊まりに行き、乳牛のお世話をしたのを、今でも鮮明に覚えています。この時から、牛という動物に対して興味を持つようになりました。

酪農アルバイト

牛好きが爆発し、大学に入ってから3年間で10以上の牧場に足を運びました。そこでは見学や酪農アルバイトを行い、畜産への理解を深めていきました。

1回生の冬、初めて訪れたK牧場は比較的大規模な牧場。1ヶ月の住み込みアルバイトをする予定でした。搾乳牛が200頭くらいかな。牧場主は口数が少ない方でした。仕事は見て覚える、という感じ。初めは優しい方なのかなと思っていましたが、牛にはかなり厳しく、うるさい牛(とても暴れる牛のこと)には鉄棒のようなもので頭を殴ったり、大声を出して追い立てたりしていました。従業員さんも、牛に跳び蹴りとかしてたし。えっ、これが畜産の現実なん?想像をはるかに超えた現状に、とてつもないストレスを抱えました。そこで、アルバイトは1ヶ月契約でしたが急遽3週間に変更してもらい、最後の1週間は別の牧場で仕事をさせていただくことにしました。

急遽雇っていただいたO牧場では搾乳牛は30頭くらい。一頭一頭に名前が付いていました。1週間の間、私は搾乳時の前絞りと器具の洗浄、そして子牛の世話を担当しました。牧場主さんは何だか人格者みたいな方で、牛を立たせる時にフン掻き棒でチョンと牛を突くことも絶対にしませんでした。牛に愛情を持って優しく接する態度に、畜産って一言で言っても人によって全然やり方が違うなと感じました。

2回生の夏には北海道のN牧場で3週間ほどアルバイトを行いました。ここでは若い従業員が4名働いていました。牧場バイトの帰りに、牧場主のお母さんが私に子どもの時の経験を話してくれました。それは、そのお母さんが牛にどつかれて死を感じたというものでした。ウシはペットではありませんし、完全なる経済動物です。「世間一般的にはウシをよしよしと愛情たっぷりに育てるのが理想なのかもしれないけど、牛飼いにとってはそうではない。ウシの事情と自分の事情の均衡点を見つけ、そこで自分ができることを一生懸命にやるのが牛飼いの理想だ。」という話を聞き、頭を打たれたような気持ちになりました。牛に優しくよしよしと接する方が良い畜産だと、私は勝手に思っていたからです。

また、このころから家畜飼料に使用される濃厚飼料のほとんどを輸入に頼っていることを知ります。飼料にかかるコストを今以上に減らしていくことができないこと。そして、日本の牛乳は乳脂肪分の規定が高く、濃厚飼料なしには市場に出すのが難しいことを知りました。こういった状況では、所得を増やすには大規模化しかありません。つまり、中小酪農家はかなり厳しい状況にあるということです。私の牧場アルバイト先でも、中小酪農は儲からない、酪農をしたいという人が少ないといった話を聞いていました。日本畜産はウシという機械にエサを投入して、牛乳やお肉を作らせるという単なる工場だという表現も耳にするようになりました。

こんなもんじゃない。ウシはもっとかっこよくなれる。なんで草をエネルギーに換える素晴らしい反芻胃を持っているのにトウモロコシばかり与えているのだ。
このように、日本の畜産の仕組み対して憤りを感じるようになっていきました。
日本で持続可能な畜産物を作っていく方法はないかと考え出したのはその頃でした。

鹿との出会い

ジビエとは、シカやイノシシなど野生鳥獣のお肉という意味のフランス語です。持続可能な畜産物を探し求めていた私は、ジビエに出会います。日本の山で育ったシカやイノシシは、日本の資源のみで育った純国産。シカやイノシシのお肉であれば、トウモロコシを輸入しなくても肉が手に入る。

こうした中、初めて狩猟イベントに参加しました。冬だったので雪の中の開催でしたが、壊れた鹿柵を見に行ったり、野生動物の足跡を見つけたり、くくり罠を作ってみたりと初めての経験がとても楽しかったです。このイベントで初めて鹿肉を食べました。くさくない、硬くない。鹿肉に対する偏見が覆った日でもありました。

日本のジビエについて調べていくうちに、私はある数字に衝撃を受けました。それは、野生動物の利用率についてです。

利用率とは捕獲した野生動物を食肉やペットフードなどの資源として利用している割合のことです。シカの利用率はたったの9%。100頭獲って利用されるのは9頭のみ。家畜を絶え間なく生産している一方で、シカは躊躇無く捨てているという現状に違和感を抱きました。


和鹿(わじか)推進サークル み じ かを設立


何とか利用率を上げる方法はないかと考え、所属していた農業ボランティア団体地域密着型サークルにしき恋のプロジェクト活動として狩猟Pを立ち上げました。実は先輩に促されて作ったプロジェクトでしたが、合計20人くらいの1回生が志願してくれて、初年度は抽選を行ったくらい人気でした。

狩猟Pでは月に1回を目標に地域密着型サークルにしき恋の活動日の夜ご飯にジビエパーティーなどを開催し、鹿肉の美味しさを広めていきました。この活動は約2年間続けており、今では地域密着型サークルにしき恋のほとんどの活動メンバーは鹿肉を食べたことがあります。

この他にも、猟師さんが箱罠を設置するお手伝いをしたり、地域のマルシェへの出店などを行いました。また、鹿カツを神戸大の学祭に出店したりしました。学祭では2日間で764本を売り上げ、両日完売。若者層に人気があることを確信し、ジビエ推進の方向性を定めていきました。

2019年10月には神戸ハーバーランドmosaicにてジビエイベント「もみじまるしぇ」を主催。来場者は150人程度で予想よりかなり少なく、改めてイベント主催という高い壁を実感しました。

現在は、神戸三宮で行われるイベント「文鹿祭」に向けて試作会やポスター製作を行なっています。また、鹿角を使用したアクセサリーや小物作りにも取り組んでいます。


牛が大好きなので、鹿の事業をしています

畜産は、環境問題に対して大きく負荷をかけていると言われています。温室効果ガスや水質汚染などである。日本の農業から排出される温室効果ガスは全体量の41%。最近の研究により、一酸化二窒素の排出量が多く見積もられていたことが分かったが、畜産の環境負荷は少ないとは言えない。

これを解決するにはどうしたらいいだろう。持続可能な農業にするにはどうしたらいいだろう。

肉を食べないという選択肢もあるのだろう。動物由来の製品を一切口にしないヴィーガンもアメリカで400%に増えたという。しかし、私は肉を食べる。なぜか。

持続可能な農業が実現された世界を考えてみた。有機農業は、化学肥料の使用を減らし有機肥料を主とした土作りによって地力を高めていく持続可能な農業生産方法とされている。ここでの有機肥料とは、畜産で生じた動物の糞尿や食肉加工における残渣を使用した肥料である。大豆粕などのもちろん植物性の有機肥料も存在する。

牛は本来、人間には利用できないセルロースを分解し筋肉などにタンパク質として蓄積する迂回生産の主体であった。その糞尿は肥料となり、農業生産を支えた。今の畜産問題の根元は、この迂回生産という域を超えて肉の大量生産をする仕組みができたことにある。

しかし、家畜を食べないという選択肢だけが問題解決につながるだろうか。持続可能な農業にステップアップできるだろうか。私は、持続可能な資源循環に配慮している畜産に投資することも、方法の一つではないかと思う。農業ができない高緯度地域や乾燥地域では、草を乳製品や肉製品に替えてくれる牛の必要は不可欠である。持続可能な畜産は必ず必要になってくる。

しかし、なぜ持続可能な畜産に投資しようという動きが無いのか。それは、畜産=悪というイメージが先行している故に畜産撲滅的な考え方が浸透していることや、そもそも持続可能な畜産を行なっている牧場が少ないという理由が挙げられる。

ここで、持続可能な農業を実現するため、それに見合った畜産物に投資したいけれど投資先が見つからない。けれどお肉食べたい!という人に対して、鹿肉を提案できたらどうだろう。鹿肉は日本の森林で起こっている循環の中で生まれた畜産物。頭数管理をしながら鹿を捕獲することで、持続可能な畜産物になる。


こういった考えから、私は鹿の事業に取り組んでいます。もっと牛を、鹿を、そして畜産をかっこよくしたいから、持続可能なお肉の一提案として鹿肉事業に取り組んでいます。

牛をリスペクトする気持ちが回り回って、今は鹿の事業をしています。最終的な着地点は持続可能な(=かっこいい)畜産物が当たり前にある世の中です。


さいごに

もっと牛をカッコよくしたい。植物を分解してエネルギーを取り出すアイデア賞とも言える消化器官を100%活用できるような仕組みを生み出したい。

同じように、シカの利用率の問題も解決したい。捨てられている、もったいない純国産資源を100%活用したい。硬そう、くさそうという偏見を払拭したい。

二つの歯車が噛み合わさって、私の原動力となっています。この歯車に、皆様の応援という歯車が加わればなお嬉しいです。