桜と神様と千年の恋(61)

「ここだよ」
 薄暗い石階段を降りた先。蘭丸は顔横のスイッチを押した。辺りがパッと明るくなり、宝物庫と呼ばれる部屋の全貌を照らす。
「すげえな⋯⋯」
 部屋の広さは二十畳ほどだろうか。赤を基調としたペルシャ絨毯の上に、まるで博物館のようにガラスケ―スが並んでいる。その中身も実に様々で、少し欠けた壺らしきものや、生成色に変色した書物など、どれも年代を感じさせる品が並んでいる。しかし、その割には全然カビ臭くない。丁寧に掃除されているのが分かった。
「ふむ⋯⋯」
 スタスタと、メイドが奥の方へ迷わず歩いていく。
「蘭丸様、これでしたっけ? ここで一番古い、武器っぽいものって」
 部屋の再奥。一段高くなっている場所に置いてあるガラスケ―スの前で、メイドは立ち止まった。その位置から、そこに特別な物が入っているのがすぐに分かった。
「そうだね。それがお父様の最近のお気に入りだよ。ダブちゃんには前に話した気がするけど⋯⋯。九世紀、壇ノ浦で行方不明になった剣。草薙剣⋯⋯別名、天叢雲剣だよ」
 そういえばコイツが静岡に行く前にそんな話をしたな。薄っすらと記憶に残っている。
「九世紀っていったら⋯⋯千年以上前だろ。普通、博物館とかに飾られてるんじゃないのか? どうして、ここに⋯⋯」
「それについては一切不明。お父様が何処かから手に入れたらしいんだけど、その経緯も何もかもが分からないんだ。見えない邪悪なものから、西園寺家を守ってくれるって言われたけど⋯⋯見えないから、なんともね」
「金持ちはいろいろなコネクションがあるのですよ」
 右手の親指と人差し指で丸を作る。つまり、金の力だと。
「旦那様の趣味が骨董品集め程度で良かったです。多少違法な物が混ざっているとはいえ、それよりも洒落にならないものを集めてる成金野郎だっていますからね」
「違法な物混ざっているのかよ⋯⋯」
 それもどうなんだ。
「⋯⋯⋯⋯」
 俺もメイドの横に立ち、例の剣を覗き込んだ。
 細かな細工がされた木箱の中に、眠るように置かれた青銅色の剣。それは、驚くことに仄かに光を放っていた。きっとこの光は、普通の人間には見えないのだろう。影と同じ見え方なのだ。特別な剣だということはすぐに分かった。
「それで、こんなものどうする気なの?」
 蘭丸の声が尋ねる。
「留年様が必要とされているのでございます」
「それこそ、何に使うのさ」
 蘭丸が不審がるのも分かる。こんなもの、一般市民が興味を持つものでは無いのだから。
「え、ええと⋯⋯」
 これこそなんて説明したら良いんだろうか。この宝剣はどう考えても簡単に貸し借り出来る物じゃ無い。蘭丸の親父がどうやって入手したのかは分からないが、メイドの言動から、これを手に入れるのに莫大な金が動いていたことは分かる。そんなもの、貸してくれなんて軽々しく言えるはずがない。
「う―ん⋯⋯一応、家宝だって言われてるんだけど⋯⋯」
 蘭丸は独り言のように何かブツブツと呟いている。そして答えが出たのか、パッと顔を上げると⋯⋯。
「ま、いっか」
「へ?」
 あまりの間抜けな返事に、自分も驚いた。
「無断であげるのはちょっと難しそうだから、とりあえず今は貸すって形でも良い? 後日、お父様が帰ってきたら、貰えないか訊いてみるから」
 い⋯⋯。
「いやいや待て待て!」
「ん?」
「そんな大事なもの、貸してもらうのだってダメに決まって⋯⋯っ」
 何をそんな簡単に決めて⋯⋯。
「大丈夫。確かに大事なものだけど、ダブちゃんだって僕にとって大事な親友なんだよ。その親友が困ってるんだから、力になりたいじゃない? ダブちゃんって、いっつも自分で解決しちゃうんだもん。たまには協力させてよ。それに⋯⋯」
 蘭丸は両手でそっと俺の右手を包み込んだ。細っそりとして骨張った手だが、俺の体温よりも温かい。まるで子供のような手だった。
「少しくらい二年前の借りを返させて。僕の命、そんな安いもんじゃないんだからさ」
「蘭丸⋯⋯」
「言ったでしょ? 金銭面ならいくらでも頼って大丈夫だって」
 蘭丸はそう言って片目をパチンと閉じる。
「⋯⋯⋯⋯」
 俺は空いている左手を、蘭丸の両手の上にそっと乗せた。
「⋯⋯悪いな。ありがとう」
「こんなの、お安い御用」
 この宝剣が鍵になるかは分からないが、これで咲耶を守れるかもしれない。今の俺にはそれを信じることしか出来ないのだ。
「お前も、ありがとな」
 メイドにも礼を言う。
「気にしないで下さい、同郷のよしみです。五百年位前にお世話になりましたので」
「またわけ分からん事を⋯⋯」
 何が同郷なんだ⋯⋯。
「ほら、早く行った方が良いですよ。時間が無いんでしょう?」
「あ、ああ⋯⋯」
 メイドに促され、俺は急いで西園寺家を後にした。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

こんにちは、ご覧いただきありがとうございます。 まだまだ未熟な私ですが、サポートしていただければ嬉しいです!

とても嬉しいですっ!
1
ラノベ系小説書きです。 有料なしでちょっとずつ更新してます。 よろしくお願いします。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。