桜と神様と千年の恋(60)

「遅いじゃないか、セリカ」
 背丈よりも高い門に取り付けられたインタ―ホンを鳴らしてすぐ、不満を存分に含んだ西園寺蘭丸の声がスピ―カ―から流れてきた。
西園寺家は洋館をイメ―ジして造られた屋敷で、一軒家と呼ぶにはあまりに巨大な建造物だった。田舎町にあったら、観光名所と勘違いされそうだ。改めて西園寺家の財力を目の当たりにする。
「申し訳ございません。少し、寄り道をしてしまいました。あと、拾い物も」
 そう言ってメイドは、俺をインタ―ホンの前に引っ張る。どうやらカメラが付いているらしい。
「え―! ダブちゃん⁉︎」
 声と同時に鍵が音を立てて開錠され、重厚な門が左右にゆっくりと開いていく。無駄に装飾された門を通ると、玄関扉が見えた。メイドは何のためらいもなく、背丈を優に超える扉を開く。
「すげ⋯⋯」
 豪華絢爛とはまさにこのことだろう。扉の先には大理石の壁、それを照らす巨大なシャンデリア。細かなガラスから漏れる光は、まるで木漏れ日のようだ。
「ダブちゃん、どうしたの」
 その下に、メイドの主人が立っていた。突然の来客に、目を丸くしている。いつも通りの姿に、俺は少しだけホッとした。
「まさか⋯⋯やっぱり僕の事を――――」
「違いますよ」
 俺が否定する前に、メイドがバッサリと切る。急いでいるとはいえ、やはりコイツ⋯⋯主人にも容赦ない。
「それじゃあ、さっき言ってた告白の話? いいねぇ、修学旅行の夜みたいにベッドで語っちゃう? 僕、さっきからダブちゃんの好きな人の事、気になって――――」
「留年様は、社長の宝物庫を見せて欲しいとのことです」
 メイドは淡々と蘭丸のボケを潰していく。慣れているのか、それによって蘭丸の勢いが止まるわけではなかったが。
「へ? お父様の?」
「あ、ああ⋯⋯」
 次は俺の番だ。
「ちょっと気になるものがあって⋯⋯」
 なんて言ったら良いのだろうか。神様を助けるため、など。それこそ嘘くさい理由だ。しかし、まともな言い訳はもっと思いつかない。
俺が言葉に詰まっていると、蘭丸は険しい表情でメイドを直視する。
「⋯⋯セリカ、また何か――――」
 しかし思い直したのか、すぐに言葉を切った。
「ん―⋯⋯まあいいか。おいで。ちょうど今日、お父様は出掛けてていないんだ」
 蘭丸はすんなり手招きする。
「理由、訊かないのか?」
「いやあ、なんか⋯⋯訊いたらダメっぽいし」
 困ったように笑う。僕、空気読める男だから、と付け加えた。
「⋯⋯悪い」
「いいよ。全然大した事じゃないから」
 そう言ってポンと肩を叩く。
「こっち来て。お父様の倉庫は地下にあるんだ」
 蘭丸の後ろについて、西園寺家の奥地へ足を踏み入れた。

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