瞼の裏⑪
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瞼の裏⑪

rina

 駅に着いて、るなちゃんに連絡をするとすぐに返ってきた。「駅前ロータリーの木の周りに居ます」とのことだった。
 階段を下りて駅の出口を出るとすぐに目的の木は見つかった。何故かその木に向かうまでの足が震えている。先ほど自覚してしまった病気のことで頭がいっぱいになっていた。
 

 今、私はどういう顔をしているのだろうか。トイレで鏡を見てくればよかった。上手く言葉を紡ぐことができるだろうか。相手は年下なのだからこっちがしっかりしなきゃ。特に慕ってくれているのだ。変に失望をさせたくない。
 そういう風に考えていたら、足が震えていた。震える足でベンチまでたどり着くと、一人の女の子が座っているのが見えた。暑いのに長袖のワンピースを着ている。色は黒で、襟の部分が白いワンピースだった。丈自体は短く、どこかゴシックな感じのする恰好だった。

「るなちゃん?」
「え、はい」
「どうも、リナです」
「こんにちは! 初めまして。るなです」
 急に立ち上がって頭を下げられる。私も思わず応じてしまい頭を下げる形になった。
 第一印象は可愛らしい子、だった。話していると元気溌剌という感じもあるし、日常的に『死にたい』などと投稿するタイプには見えない。むしろ、夜のるなちゃんのイメージが近かった。
「もう、飲んでる?」
「あー、そうですね。飲まないとわたし、外出られないんですよ」
 一瞬困った顔をしながら笑うるなちゃん。髪は低いところで二つにまとめていて、どこか幼げがある可愛い仕草だった。
「じゃあ私も飲もうかな」
 先ほど電車で知った事実を忘れ去るように、私はチャック付きのビニール袋を取り出す。中には十錠ほどの『風邪薬』が入っていた。
「わっ! それすごいいいですね! そうすれば瓶持ち歩かなくていいですもんね!」
「いいでしょ」
 もともとは蓮見のアイデアだけれども、あたかも私が思いついたように言ってしまった。普段、これほどまでに私の一挙手一投足に興味を持って見てくれる人がいないので、私自身もリズムが狂う。
 

 少し歩道を外れ、周りから見えないような場所に移動する。いつものように二、三錠ずつ口に含んでお茶で流し込む。まだ効いているはずもないのに、どこか落ち着く気がした。

「学校はどう? 高校一年生」
「うーん。そもそも中学卒業もぎりぎりだったんで、あんまりいいとこ行けてなくて。なんかヤンキーっぽいの居たりして怖いですけど、なんとかやれてます」
「そっか。それは良かった」
「まぁ薬飲めばこんな感じで話せたりするので。中学時代は、間に合わなかったというか。薬知ったの中二の頃だったので。だからまぁ、割と良いやり直しくらいにはなってるかなって感じです。リナさんの学校はどんな感じなんですか?」
 

 目を輝かせて私に質問するるなちゃんが妙に愛おしく感じた。一人っ子の私だけれども、可愛い妹というのはこういう存在なのかもしれなかった。実際に居る人からするとまた違うのだろうけれど。
「ウチ? ウチは、別に面白いことなんもないかなぁ。みんな似たような人ばっかり集まってて。身内で群れて、あんまり外に出ようって人は居ない。いじめとかは特に無いっぽいけど、私も友達らしい友達一人しかいないし」
 頭の中で蓮見の顔が浮かんだ。
「一人くらいで良いですよねぇ」と少しだけ小さな声でるなちゃんは言う。そして続けた。
「わたしなんか、みんなと仲良くしなきゃって思っちゃってすごい疲れますもん。あの子は何が好きで、あっちの子はこの子と仲良くて、こいつとあいつが付き合ってるらしくて、それをこの子は妬んでて、みたいな」
「そっか」
 私自身にその悩みが存在してこなかったので、共感出来かねる話ではあったが、想像をしてみた。
 

 例えば、私がお母さんに嘘をつくときだけ出てくる向井祥子。彼女は何が好きなのだろうか。そもそも今年やっと同じクラスになったのだ。まだ話はしていない。色々な子と一緒にいるところを見ているので、人気者なのだろう。おそらく、一人暮らしの家に友達を呼んでたこ焼きとか作っているのかもしれない。最近聞かなくなったパジャマパーティーとかしているのかもしれない。処女なのだろうか。彼氏はいるのだろうか。特に派手なところがある子ではないが、それは私に言われたくないだろう。気になるは気になるけれど、心底どうでも良いことでもあった。知っていても何にもならない情報だったので、私は考えるのを止めた。
 

 その後、るなちゃんと一緒に買い物をして、季節柄大安売りになっているお揃いのマフラーを買った。冬になったらこのお揃いのマフラーをして出かけようという話をして、夕方別れた。
 るなちゃんと話していたからか、帰りの電車ではレナ様が気になった。私もこうして、るなちゃんのような立場でレナ様に会いたいと考えた。夏休みに福岡に行く予定は叶うだろうか。それまでに連絡がとれるようになっていることを願う、

 そうだ、この間お母さんから貰った口紅をしてレナ様に会おう。

 そんなことを考えて、早朝から動いている私は、電車の中で眠りに落ちた。
 今日は一応、自分の家に帰ることにした。蓮見が夜勤バイトだと言っていたのもあるが、もしお母さんが家に居た場合、早朝に出かけた娘が帰ってこないことに疑問を感じるかもしれないと思ったからだった。
 ただ、それは杞憂もいいところだった。ある程度予想していた通りお母さんの姿は家になく、真っ暗だった。真っ暗なまま私は自室に向かい、ベッドに倒れ込む。ほとんど眠れていないツケがここにきてきたのか、電車で眠ったにもかかわらずまだ眠たかった。薬が抜けてきたのか、寒気がする。

 私は買い物袋からまだタグがついたままのマフラーを取り出し、そのまま首に巻く。そういえば、お母さんに貰った口紅、何処に仕舞ったっけ。起きてから探そう。左向きに、膝を抱えるようにして目を瞑り、そのまま意識失った。

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眠れない夜に

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rina

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rina
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