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連載小説「おっさんJCりーりのブルース」第1話(約2400字)

01:見た目はJC、中身はおっさん! え、それ俺やん

 つかね、こんな俺にもね、それなりの苦労ってやつがあるんよ。あ、思わず俺って言っちゃったけど私ね、女です女。
 いや、俺とか言いたくなる苦労っぷりだわ昨今。なんかさー、いつまでこの『女子中学生』なる身分、そう身分に甘んじることになるのかと。ん、いや、俺今二年だから実質あと一年三ヶ月ってのは、ね、分かってるんです頭では。しかしですよ、卒業という名の解放から一ヶ月も立たぬ間に今度は『女子高生』! 俗に言う『JK』にね、なっちまうんですこの俺が。
 何これシュール? 或いはファニー? 阿呆か! まったく笑えん、微塵も。

 高校受験ってのは、私にはないに等しいのです。形だけ、のふりをした形。というのもウチは中高一貫校でな、昨今大流行の『グローバルな教育』ブームの火付け役になった系のアレだ、アレ系の学校なんだわ。
 ま、諸君らもご存知の通り今や我が国では『留学』って言葉が過去で言う『塾に行く』とか『ピアノを習う』とかとほぼ同レベルで浸透してるわけで。
 ウチの学年にはいないけど、高校からは留学生が結構入るし、逆に海外の高校に進学する子らもおる。だからメンツがまったく変わらんわけではない、日本国内からも中学より10くらい偏差値の高い入試をくぐり抜けてきた猛者共が百人くらい追加される。教師陣は彼らを『外部生』と呼ぶなと今から口とか加齢臭とかその他諸々を酸っぱくしていらっしゃる。

 んー、でもね、ボクもだね、えせ帰国子女枠内の人間としてはね、ちょおおおおっと疑問を抱くこともあんのよ、マジで。『真剣』と書いて『マジ』で。
 何にって、そりゃ『グローバルな教育』なるむにゃっとした曖昧模糊な概念に対して。
 もちろんね、自らの生まれ育った国であったりそこの文化であったり言語であったり、そういうバックグラウンドとはまったく異なる世界で何らかの経験を積むってえのはそうそう悪いもんじゃないよ? だがねぇ、いかんせん小学生とか精神年齢が小学生とか、そういう連中には早すぎるっつーか、ねえ? 特に言語は苦労しますよ、ええ、経験者談ですよ。嘘だけど。

 俺はある程度日本語を理解してから家族で渡米したっていうケースだから、帰国してからもさほど苦労はせんかったけど、まあ運が良かったんだと思うぜ、我ながら。
 でも『え〜バイリンガルなの〜? すご〜い! え、じゃあ○○って英語でなんて言うの〜?』とか、『アメリカにいたのに英語のテスト満点じゃないんだ〜意外〜』とか、もう馬鹿かと。俺はニューヨークで小学生やってたんだよ、中学上がる前に帰国してんの。アメリカの小学生は『連立方程式』を英語でなんて言うかなんぞ知らん。っていうか連立方程式って何?
 オーケー、俺も馬鹿だ。

 帰国してフツーの市立小学校に入った時に『帰国子女』っていう枠内でそういった扱いを受けうんざりしたおいらは、中学受験で入ったこの中学では帰国子女であることを隠してこれまで振る舞ってきた。
 英語の授業で音読を強要されてもカタカナに近い発音で読むし、ペーパーテストは普通に文法がストリクト過ぎて平均程度の点数しか獲れん。
 阿呆らしい。それは自分でも分かっておる。

 ところでちょっと前に誕生していまだにこの俺を苛立たせ続ける日本語のスラングというものがいくつかある。

 まず女子力なるもの。皆無。そもそも脳内だけとはいえこんなおっさんみたいな口調で俺俺言ってる時点で女子としてっつか人としてどうなん、という問いが聞こえるがな、悪いが俺はずっとこんな感じだよマイライフ。
 何しろここは県内でも有数の進学校だからして、齢十四にもなって化粧をしている女子があんまおらん。比較対象がおらん。つまらん、と俺は思う。もっとディヴァーシティ(日本語では『ダイバーシティ』っていうんだっけ?)押し出して行こうぜ〜なんて思えど、「じゃあおまえがメイクしろよ」とか言われたら裸足で逃げ出すね。地味な生徒の中の下の上くらいだよ、僕の見た目の立ち位置は。なんだよ一番つまらんの俺かよ、知ってるよ。

 次、コミュ力なるもの。これもな、微妙なところなんよ。最低限のコミュニケーションは、基本的に誰とでも可能だ。むしろ強い方かもしれん。物怖じも人見知りもせんし、まあ一年の時に先輩相手に大きく出すぎてボコられて(精神的にな)以来は気をつけてるけど、な!

 じゃあ友達は多いのか、と問われると、んーんーんー、それはどうかな、どうだろうな、そもそもキミは何を以てして『友達』を定義づけるのかな、『知人』と『友達』と『親友』に明確なボーダーラインなんてあるのかな、どうだろうな、おじさんはそういうのはグラデーションだと個人的には思うけどな、なんて煙に巻いてちょっとずつ後ずさる。最低か。最低だ。だってこんな俺をね、「一番仲いい」とか「親友だよ」だとか言ってくれちゃう女子がいるのだよ、複数形で。
 はぁ、あなたたちは本当に本当にレ・ミゼラブル。私の脳内がよもやこんな、混み合った電車内で夕刊フジをでっかく広げて加齢臭を撒き散らかしながら『やっべーチンポジ直してぇー』とか思ってるおっさんのそれとほぼ同レベルと知ったら(いや、想像っていうか、悪意はないし、むしろそういうおっさんは好きだ)、彼女たちは一体どうなってしまうのか。知らねーけど。

 まあ、こんな感じで鬱屈として根性ひん曲がって仮面だか何らかの皮だかを何重にも被ってボクは過ごしてきたわけよ、ジュニア・ハイ生活を。
 あの男が転校してくるまでは、な!


……とまあ、かつて書きかけていて、絶対完結はさせたくて、大体話の流れも決まっていたこの「おっさんJCりーりのブルース」第1話、如何でしたでしょうか?

 我ながら、のっけから絶好調だなおまえ、とセルフツッコミをしたくなりますが、もしお気に召したらスキとかコメントとかフォローとかなんならサポートとかしていただけると有り難いです。

 次回もご期待ください。ここまでお読みくださりありがとうございました!

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灰崎凛音
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