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アカデミック読書会(第23回) 開催レポート - AI翻訳でナショナリズムは超えられるか? -

2021-05-13 (2) - コピー

アカデミック読書会(第23回)の開催レポートです。

読書会概要

今回(第23回)のアカデミック読書会では、「近代教育政策は植民地ナショナリズム(主としてアジア、アフリカの植民地で発生したナショナリズム)形成にどのように関わったか?」をテーマに、ベネディクト・アンダーソン著『想像の共同体』「VII 最後の波」を読みました。

植民地ナショナリズムを牽引したのは、植民地から宗主国で学んだ若者でした。では、そのような若者がなぜナショナリズムの先導していったのか? 本日の対話はそこからスタートしました。

ナショナリズムは、確かに、他国を排斥したり個人を抑圧したりするなどの危険な側面があるのですが、その一方で、利他性、自己犠牲の側面があり、行き過ぎた個人主義やニヒリズムを超える可能性も秘めています。なので、植民地から宗主国に学びに行った若者は、ナショナリズムの良い点を学び、祖国を変えようとした意識があったのではないかと考えられます。

ナショナリズムはパラダイムであるという意見がありました。以前アカデミック読書会では、内井惣七『科学哲学入門』を課題本とし、その中で、クーンの「パラダイム論」の章がありました。クーンのパラダイム論のとおりだとすれば、ナショナリズムはパラダイム・シフトしていつか突然過去のものに変わるのかもしれません。

ナショナリズムの基盤には「言語」が密接に関係しているので、もしAIが発達し世界中の言語が理解できるようになれば、ナショナリズムは超えられる可能性はあります。

本日(5/13木)の読書会は、技術革新がナショナリズムを超えるきっかけを与えてくれる可能性に気付かされる会でした。

読書会詳細

【目的】
・「最後の波」が何を意味しているのか、知りたい
・教育の効果を知りたい
・世界史の知識(近代世界史が少しでもわかれば)
・(いままで問いばかりだったので)場を楽しむ

【質問と答え】
Q 植民地におけるインテリの役割とは何だったのか?
A
・言語を修得→植民地で宗主国のことが発信ができた
・宗主国のナショナリズムをコピー、植民地のナショナリズムに置き換える役割をした
・実際に若者だった
気づき
・実際に若者だった→流行に乗って挫折した
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Q 言語と国民性には関係がありますか?
A
・新しい言語を学ぶことに新しい教育システムで学ぶ→新しい同士感覚が生まれる
・p.197のスマトラ人の国民意識:新しい価値観を導入→背景の違う人を国民とみなすことができる
気づき
・特定の言語によってナショナリズムが発生するのではない
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Q 近代知識が普及したが、その内容は何か?
A
・教育の主体が植民地国家であったり、民間の宗教団体などの教育の普及
気づき
・みんな金太郎飴みたいになった、誰に訊いても同じ答えになってしまっている
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Q ビルマの騒動とナショナリズムはどのように関係づけられるのか?
A
・近代国家のナショナリズム→富国強兵のために教育
気づき
・言語の役割は大きい
・若い人が中心となった、言語を用いた
・ナショナリズムは年配の方ではなく、青年からナショナリズムは形成されていった

【対話内容】
・若い人が大学に行く→宗主国の大学に行く、宗主国の教育を受ける、母国に帰る
・若い人は知りたがり屋、世間一般の知識を得たがる
・渋沢栄一、江戸に出て、いろいろ知りたいという衝動があるように思った
・若い人のほうが身軽、背負うものがない、身一つ
・歳を取るとしがらみが大きくなる
・ダブルスタンダード(イギリスは文明と言っているがえげつない)
→甘い汁を吸わせようとしている
・内務官僚制のほか、技術的な知識も教えていた
・イギリスのいいところ、ナショナリズムのいいところ(他の人のために)も学んで帰っていった→祖国を変えないといけないと思った
・植民地が豊かになる→宗主国が課税できる、収益を得る可能性が高くなる⇔植民地を守るために軍事費はかかる、このバランスが取れれば宗主国にとってメリットがある
・ナショナリズムのいいところ:
 ・利他的な精神、自己犠牲、生き方に意味を与えてくれる(宗教と同じくらい)
 ・国をまとめ上げる一つの目標
 ・年配の人は特攻隊として突入するのか? 役職が下の方から?
 ・追い詰められてもナショナリズムには求心力があるのか?→物語はあった。
・合理的にWin-Winのほうがよいのになぜナショナリズムに走るのか?
・ナショナリズムはある種の洗脳である、生まれながらにしてもっているような感じ、身にしみているような感じがあるので、そこに走ってしまう
・『文明の衝突』:所属している文明の価値観、価値観が国民に浸透してしまうような気がする
・文明の価値観、言語の響き・ニュアンスが少しずつ違う→それが自然と感じる
・文化とナショナリズムは同じか? Culturesはあるが、Nationalismsはない(掲げているナショナリズムは一緒、差異がない)
・ナショナリズムはうまくnatioを使った現象
・宗教とナショナリズムの違いは?(ナショナリズムは宗教にとってかわったもの?)
 ・宗教は学んですぐに身につけられるものなのか?
 ・近代教育によってすぐに信じられるもの?
 ・生活に関わらない(儀式的なものを必要としない)から覚えやすいのか?
 ・宗教が信じられないから、飛びついた
 ・教育も儀式と言えるのではないか(日常と切り離されている)
 ・出世で全国を回るのも「巡礼」といえるのではないか
 ・官僚は現代の司祭か
 ・甲子園、あなたの「聖地」を認識させる
 ・パラダイム論:ナショナリズムはパラダイムの一つ
・言語的な限界がナショナリズムの壁(境界)をつくる
→言語の壁がなくなれば、ナショナリズムの壁がなくなる、グローバルに考えられる
→AIによって翻訳ができると、その動きが強まる
・翻訳と全言語をマスターできるのとは違いがあるのか?
・言語が統一されて多くの情報にさらされたとき、人間は矛盾に耐えきれるか?
・例えば、日本から見た中国・台湾、中国・台湾から見た日本
→それを織り込まないと理解できないのか? 理解が複雑になりそう
・多重人格:現れるのは一つの人格、同時には現れない、統合された人格は存在しない
→ナショナリズムは一つで、ネーションは多数とはこのことか?
→インテリゲンチャ:英語の世界観もわかる、言語もわかる、統合されているけれども、分裂もしている(アイデンティティ・クライシス、どっちのアイデンティティを選択したらよいか)

【気づきと小さな一歩】
気づき
・言語の壁がなくなればナショナリズムの壁がなくなる
→争いがなくなる
・AIが普及すればうまくいくのではないか
小さな一歩
・共通語としての英語を学ぶ(ナショナリズムを理解する一歩)
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気づき
・最初読んだときよりも若者の分裂にスポットがあたった
・植民地として支配されているところに学ぶ(自分たちで行政を行うほうがまし)
小さな一歩
・分裂に耐える
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気づき
・二重言語を学んだインテリのアイデンティティ・クライシス(ドストエフスキー)のこと(人間の精神の動き)を思い出した
→それとナショナリズムとはどのような関係があるのか?(個人主義やニヒリズムを乗り越えることがナショナリズムの意義)
小さな一歩
・ドストエフスキーを読む
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気づき
・想像の共同体、危うい存在として共同体があるのか、と思った
小さな一歩
・自分の価値観はどのように形成されたか、を考える

次回の読書会のご案内

【開催日時・場所】
・2021年5月27日(木)20:00~21:30 @ZOOM
【テーマ】
・なぜ人々は国民(ネーション)に愛着を持つのか?
【課題本】
・ベネディクト・アンダーソン著、白石隆・白石さや訳『定本 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』(社会科学の冒険II 4) 書籍工房早山
【詳細・申込み】


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