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【創作百合】3ーYou know me

時が止まったみたいだった。
ルフナの事はいつも少し遠目に見ていた。何をしていても少し寂しそうに見える彼女は儚げで綺麗だった。

何度かルフナに近づいてみたことがあった。もしかしたら気付いてもらえるんじゃないかと思って、触れようとしたこともあった。ルフナの正面に立って視界に入ろうとしたけれど、彼女の凛とした顔は見えても、彼女と目が合う事は無かった。

ルフナはじっと私を見て目をパチクリさせている。反応は薄いもののそれだけで十分驚いているのが見て取れた。私はまだ何が起こったのか信じられなくて、彼女の目の前で立ち尽くしていることしか出来なかった。
ルフナは状況に混乱している様子を見せたけれど、不思議なほどすぐにそれを受け入れた様にも見えた。
「君が…僕といつも一緒に歌ってた子?」
ルフナの声は少しふわりとしている。夢と現実の狭間から漂い出ているようだ。その声には気のせいか歓喜の色が混じっている様に聞こえた。
「うん、…知ってたんだね」
「聞こえてたよ。頭がおかしくなったのかもと思った時、天使の声を聞いたって教えてくれた人がいたんだ。その後ずっと知らないふりをしてた。そうすればまた他の人が僕に教えに来るでしょ、そしたらまた僕の妄想じゃ無いって分かるから」
つい泣きそうな顔をしたかも知れない。他の人から聞いて知っているとは思ったけれど、聞こえていたとは思わなかった。ルフナはずっと私と一緒に歌ってくれていたのだ。
「そう…嬉しい」
私がそう言うと、ルフナは少し驚いた顔をしてから、すごく優しそうに笑った。
「名前、なんていうの?」


ーーー


ずっと友達が少なかった。
でもそのごく限られた友達の中でさえも、親友と呼べる人がいないことがずっとコンプレックスだった。
自分にとって一番の友達だと思った人がいても、相手にとって自分はそうじゃないんじゃないかと思うと親友と呼ぶ勇気さえ出なかった。自分は他の人みたいに軽快に冗談を言って周りを笑わせたりすることも出来ない。きっとつまらない人間なのだ。ルフナは綺麗でクールで上品だから羨ましい、他のクラスの誰々が噂してるのを聞いた、そんな事を言われると尚更、自分はそんな外側だけの評価に伴うような内面を持った人間ではないのにと思ってしまったのだ。期待に応えないと、と思えば思うほど僕は自分を出せなくなっていった。ルフナは、ルフナは。周りからの評価が線をなして僕の前に境界を作り出して、僕はその言葉の向こう側に行くことはできなくなった。


そう、そんなある日、僕は昼休みのチャペルで一番好きな賛美歌を歌った。神様、あなたはとこしえにおられ、星々と海を作った。あなたは私のことさえも全て知っておられる。そんな内容の歌だった。
神様が僕のことを知っていてくれることが救いだった。どんなに臆病になって人に自分を見せられなくなっても、神様がきっと僕のことを知っていてくれると思える事が支えだった。
天使の歌声が聞こえるようになったのは、その日を境にしてだった。
僕の声を支えるように寄り添った歌声だった。

絵の勉強をしたり、文章の感性を広げるため本を読んだり、記事を書く時のカフェ代などに使わせていただきます。