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「コットンパール」 Ep.8

 夏休みも終わり、学校が始まってから数日が経った。徐々に夏休み明けの気怠さも抜け、みんながいつも通りの高校生活に戻りつつある。
晴人とは、映画に行った後も何回かLINEをした。晴人の部活の話や、夏休みの課題について。たわいもない話だったが、LINE出来ることが嬉しかった。

 1時間目の授業が終わり、私は、教室前の廊下で沙耶と2人で話をしていた。晴人と映画に行った事については、夏休み中に沙耶にLINEで報告をした。楽しかった、と伝えたら、沙耶も嬉しそうだった。沙耶は、本当に優しい。

 隣のクラスは、2時間目はどうやら移動教室のようで、生徒が次々と教室から出てきた。晴人が友達と教室から出てくる。
私に気付き、「おはよう!」と声をかけてくれる。
晴人と話すのは映画以来で、少し緊張した。
私も「おはよう」と言う。
隣で沙耶が、私たちを見てニヤけているのがわかった。

 晴人が行った後に、沙耶が「おはよう! だって。2人が挨拶してるのなんか新鮮だね。」と、少しからかうように言った。
「もう、挨拶しただけだよー」
少しむくれて沙耶に言いながら、隣の教室に目をやると、まだ教室に残っていた人たちの中にいる相馬翔矢と目が合った。
「あ、チャイム鳴っちゃう、教室入ろー」
沙耶が、時計を見て慌てて教室に入って行く。

相馬翔矢、こちらを見てたみたいだ。

慌てて目を逸らして、「うん」と沙耶に返事をして、教室に入る。


***

 ホームルームの時間。私たちのクラスは、文化祭の模擬店について話し合っていた。
私は、クラスの中で協力して何かをする、といったイベントにあまり興味がない。協力するとなると、クラスの人たちとの交流が否が応でも多くなる。私は、クラスでは沙耶の他に数人、仲の良い女友達がいるくらいで、決まった人としかほとんど話さない。それがイベント事になると、女子はまだいいとして、男子とも話さないといけなくなる。
ただただ面倒だ。とにかく、私は文化祭を無難に過ごすことだけを考える事にした。

 模擬店は未だ決まらない。
話し合いに興味がないので、窓の外を眺める。
「杏は、模擬店何がいいと思う?」
前の席の沙耶が、振り返って聞いてきた。
「え?」
「あ、杏、どうでもいい〜、って顔してるー」
「バレた?  私は、面倒なやつでなければなんでもいいかな」
「もう〜、冷めてるんだから」
沙耶はちょっと呆れてる様子だった。

 それから、クラスの中でも文化祭にやる気のあるメンバーの意見が通り、私たちのクラスは、カフェをする事に決まった。

 放課後になり、私は帰り支度を整え教室を出る。廊下を歩いていると、部活に行く晴人に声をかけられた。
「杏、今から帰り? 杏のクラス終わるのいつもより遅いじゃん?」
晴人と話すのはだいぶ慣れたけど、いつもドキドキしてしまう。
「うん。さっきまで文化祭の模擬店をどうするか決めてたから。」
「何やんの?」
「私たちのクラスは、カフェらしいよ。」
「らしいよって。杏のクラスの事なのに。」
晴人が笑いながら言う。
「私はなんでもいいから…。」
興味がないって言ったら、流石に、協調性がない、と思われちゃうかなと思いこう答えた。
「晴人のクラスは?」
「俺のクラスは、おばけ屋敷。ぜってえ、準備大変だよな。」
少し面倒くさそうな感じで言う。
「おばけ屋敷は、絶対大変だと思う。」
想像するだけで、本当に大変そうだ。
「今から部活なの?」話題を変える。
「そう。今度試合もあるからね。気合い入ってるよ!」
いつものように元気で笑顔の晴人。
「そうなんだ。がんばってね!」
私も笑顔で言った。
私たちは、ばいばい、と挨拶をしてその場を離れた。

 最近は、晴人とすれ違ったら挨拶を交わすようになったし、時々こうして少しだけ話をしたりするようになった。LINEも時々している。昇降口で靴に履き替え、駅までの道をゆっくりと歩く。涼しい風が吹き、少しずつ季節も夏から秋に向かって行くのを感じる。

 学校で晴人を見つけて、目が合って、挨拶できたらすごく嬉しい。晴人と話せた時は、胸がキューってなる。また、話したいな、LINEしたいな、って思ってしまう。

私、晴人のこと、好きかもしれない。

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