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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十三回 だれかを好きになった日に聴く曲特集 (恋とは愛の下位互換ではない)part2


はいどうも。



以前こういう記事を書いて、まあまあそれなりの反響があって、それでしばらくこの記事のことは忘れていたんですが、先日、友人のイヴェントでキャッシャーをやっていたら、この記事がすごく良かった。とおっしゃるお客さんが現れてですね、それで、シルヴィア・ストリップリンとかパティ・オースティンがダウンロードされたスマホを見せてくれて、『あの記事がきっかけで聴くようになりました!』と言ってくれたんですね。

『ああ、僕がこの記事を書き続ける意味はちゃんとあるな』って思いました。

こんなね、一円も金もらってないのに(あ、投げ銭は毎回有り難く頂戴しています。今後ともご贔屓のほど宜しくお願い致します)図々しくタイトルつけて、いっぱしの連載ぶってるような記事の存在価値なんてね、そういうことだけなんですよ。

『記事で紹介された音楽を聴いてみたら良かった』っていう、それだけのために僕は残されし20代最後の時をね、働きもせず、パソコンの前で空費してんの。

フツーにクラブとかライヴハウス行っても、70年代のソウルとかハード・ロックとかなっかなか出会わないじゃないですか。音楽雑誌読んでみたって、ライターの人は基本的に新譜のことしか書かないし、旧譜について書かれた文章ってのはまあ大体オタクが書いてますから、とても入門書にはなり得ない。ディスクガイドにしたってワンクリックで楽曲を聴けない。

だからそれらのハードルを全部クリアーするようなことをやりたかったんです。

わかりやすいテーマを立てて、それに合わせて選曲した音楽に、いい調子の文章を添えて、ビュッフェみたいに並べたような、そんな読み物があってもいいんじゃないかと思って始めたのが『なんかメロウなやつ聴きたい』です。

僕は音楽の信徒です。もしこの世に音楽がなかったら、とすら考えたこともありません。

ホーキング博士によれば10の500乗個の並行宇宙があり、我々が知覚できないだけでこの世界には10次元まで存在していますが(これをカラビヤウ多様体といいます)、どの並行宇宙にも、どの次元にもぜったい、必ず、音楽は鳴っています。

それは勉強をして得た知識や、計算によって得たものではありません。

15歳のとき、アース・ウィンド&ファイヤーの『セプテンバー』を聴いた瞬間、『全ての場所で音楽が鳴っている』という確信を肌で掴んだのです。あらゆるとき、あらゆるところに音楽は存在する。つまり、神と同義です。僕にとって音楽は神そのものです。

だから、部屋に引きこもって何時間もかけてこういう文章を綴り続けているというのは、新興宗教の信者がパンフレットを配って回っているのと同じようなものです。

僕はあらゆる宗教に属しませんが、神と愛と音楽の存在については、完全に、自我の底から信じています。僕にそれを教えてくれたのもアース・ウィンド&ファイヤーです。それもたったの一小節で、です。音楽で人生は変わるし、多くの人の人生を変えるということは世界を変えるということです。音楽は一切の差別を拒むし、善にも悪にも、あらゆるものに加担する。だから音楽は素晴らしいし、最高だと思っています。


まあまあ、長々と恥ずかしい話をしましたが(笑)、そんな感動エピソードがあったので(笑)、二匹目のドジョウを狙う形でもう一回トライしてみようかと思います。


というワケで、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十三回は“だれかを好きになった日に聴く曲特集 (恋とは愛の下位互換ではない)part2”と題して、恋愛について歌われたソウル・ミュージック(まぁソウルなんてほとんど恋愛ですけどね)の歌詞を僕が意訳し、それを読みながら聴いていただく回にしたいと思います。みんな、ついてきてね!




一曲めは、プリンスで『アイ・ワナ・ビー・ユア・ラヴァー』。



このジャケで怯えた鹿のような視線をまっすぐこちらに向けているのが、我らがプリンスですよ。

前作『フォー・ユー』があまり評価を受けず、セールスもイマイチだったため、ブラック・ミュージック系のラジオでオンエアされやすいディスコ/ファンク路線を意識して制作されたのが、この楽曲が収録された2nd『プリンス』です。

全ての楽曲の作詞・作曲・歌唱・プロデュースを手がけるというスタイルはそのままに、プリンスは自身のヴィジュアル・イメージも一点に絞り、細部まで作り込みました。それは『エロ』です。

かつてブラック・ミュージックはエロースを根幹に持ったセクシャルな音楽でしたが、ディスコの台頭によってそれらは去勢されてしまいました。

だから男根主義・マッチョイズムを前面に押し出していたジェームス・ブラウンがディスコ時代に苦戦したのは当然と言えるし、セクシャリティを感じさせないスマートなマイケル・ジャクソンが大人気を獲得したのは当然とも言えます(ほぼ全国民が幼い頃から知っていた、というのも大いに影響しているでしょう。子役出身の俳優をエロい目で見れない/見れたとしても何か罪悪感があるという構造に近いですね)。

唯一エロまみれ、エロまっしぐらだったのはP-FUNKの総帥ジョージ・クリントンですが、小2の『ちんこちんこ! うけけけ!』と言うテンションと、中2の『オナニー最高!』と言うテンションと、高2の『セックス最高!』というテンションが融合した、全体的にしょうもないエロ感覚で、しかもそこに大2の『なぁ…そんな事よりこの社会はどうなっているんだ…?』という社会的思想が混入されるため、非常に雑味の多い、グロテスクなエロースを放っており、一般リスナーからするとジャッジ不能というか、『別枠』にいる人でした。というかこのひとはかれこれ50年以上『別枠』にいるひとです。

そんな中プリンスが打ち出したのは、ギリギリ悪趣味の、というかハッキリとキモい『エロ』でした。

ロン毛を振り乱し、丁寧に整えられたヒゲを蓄え、胸毛を剥き出しにして身体をくねらせる身長160センチのアフロ・アメリカンは、当時の人間からしてみるとかなり異様というか、理解を超える存在だったでしょう。しかし人間とはギャップに萌えるもの、そんな外見のヤツが超爽やかなラヴソング歌ってたらウケね? という理由で制作された(んじゃないかなぁと僕は思っている)のがこの永遠のソウル・クラシック、『アイ・ワナ・ビー・ユア・ラヴァー』なのでっす!

実際プリンスは『売れるシングルを作ろう』と目論んでいたらしく、当時ディスコで大ヒットしていたリック・ジェームスのフォーマットを踏襲しつつも、彼独自のポップ・センスをふんだんに盛り込んだこの曲は『エロいけどいい曲だよね』、『キモいけど爽やかだよね』という評を受け、ヒット・チャートを駆け上る事となります。

自分とは住む世界の違う女の子に、ストレートに気持ちをぶつける片思いソングで、風通しの良いグルーヴと相まって大変胸キュンでございます。以下、ワタシの意訳を書かせていただきましたので、ぜひ読みながらご拝聴ください。



俺は金持ちじゃないし
君のまわりにいるようなタイプの男でもない
それってなんかウケるよね
でもあいつらは君をいっつもガッカリさせてるように見えるよ
俺もそれ見てガッカリしてさ
だってもう君に会えないんだからさ

君の愛が欲しいんだよ ベイベー
それが俺の生きる唯一の理由なんだよ
君にプレッシャーをかけたくはないんだ ベイベー
でもそれは俺がずっと手に入れたかったものだから

俺は君の恋人になりたいんだ
オンリーワンになりたいんだよ 君が走って駆け寄ってくるような存在にさ
君の恋人になりたいんだよ
君をその気にさせたり じらせたり 一晩中君を叫ばせてみたい
マジで大好きだよ

君のオンリーワンになりたいんだよ

君のブラザーになりたいんだ
君のママや 姉妹にだってなりたい
俺みたいに君のために行動する人は他にいないだろ
だからガッカリしてるんだ
だって君は俺を子どもみたいに扱うだろ

みんな言うんだよ 俺がめっちゃシャイだって
でも君といれば 俺も大胆になれるんだ!
君にプレッシャーはかけたくなかったんだ ベイベー
だけど俺がずっと求めていたことはさ

君の恋人になることなんだ
オンリーワンになりたいんだよ 君が走って駆け寄ってくるような存在にさ
君の恋人になりたいんだよ
君をその気にさせたり じらせたり 一晩中君を叫ばせてみたいよ
マジで超好きだよ

君のオンリーワンになりたいんだよ




二曲めは、ハイ・イナジーで『ユー・キャント・ターン・ミー・オフ』。



ハイ・イナジーです。ハイ・エナジーではありません。ハイ・イナジーです。

70年代後半に解散したシュープリームスの後釜として結成されたモータウンのガールズ・コーラス・グループでありまして、8枚のアルバムを残しましたが、ベスト盤を除いてほとんどが未CD化という状況が長らく続きました。

しかし2014年、ついに彼女たちが残した名作群がCD化、リアルタイム世代とディスコ・メイニア以外には全く無名の存在だった彼女たちに陽の目が当たったワケでございます。

で、この曲はファーストの推し曲というか、彼女たちの代表曲ですね。

もうホンットに中身のない(笑)、チャラさ全開のラヴソングですけども、泣けるんですよねー。

これ映像もいくつかあるんだけど、もう衣装といい振り付けといい、ダサいとか通り越して地獄なんですよね。

悪夢。

僕が70年代のソウルがなんで好きかって言ったら、すごいスウィートな悪夢みたいだからなんですよ。艶かしくて気怠くて、『もう家には帰れないよ』って言われてるみたいな気分になるんですよ。

子供の頃に熱出したときに見る夢にすごい感触が似てて、だからもう、たぶん永遠に好きだと思います。例によって私の意訳を以下に引用します。いやー、最高(笑)。



ダーリン あなたが私の隣にいると
身体がとろけて力が入らない
寝ることもできなくなっちゃうの
この気持ち 私の心の中のこの想い
ベイベー あなたに満たしてほしいの

この想いは止められない
中途半端なんかじゃいられないの
急に止めることなんてできないわ

冷えきっていた私を あなたが熱くしてくれた
私が持てる愛をぜんぶ
あなたに捧げる準備はできてるわ
お願い 私から離れないで
私の目を見てもわからない?
愛してくれなきゃダメって言ってるの
だから じらしたりしないでよ
お願い 今すぐ私を愛して

この想いは止められない
中途半端なんかじゃいられないの
急に止めることなんてできないわ

私たちが触れあうたびにいつも
ああ この気持ちがあふれ出す
特別なところに私を連れてって
私をこんなにボーッとさせて
あなたちょっとやりすぎよ
もう 私をじらしたりしないで
私を愛してくれたらそれでいいから

この想いは止められない
中途半端なんかじゃいられないの
急に止めることなんてできないわ

そう 私があなたを愛するみたいに
私を愛してくれるなら
あなたは私の望むようにしてほしい
そばにきて その腕で抱きしめて
そしたら私のハートを
銀河までまっすぐ飛ばして

だから もうじらさないで
今すぐ私を愛してくれればいいから

もう私のスイッチは切れないわ
あなたにも止められない
中途半端なんかじゃいられない




三曲めは、パトリース・ラッシェンで『ハヴント・ユー・ハード』。


パトリース・ラッシェンでございます。

幼少期より神童と呼ばれ、若干19歳で全曲の作詞・作曲・編曲・ピアノ演奏を手がけたファースト『プレリュージョン』でデヴュー。その後はジャズ・フュージョン界隈との繋がりを深め、80枚を超えるアルバムに参加。24歳のときにレコード会社を移籍し、自ら積極的にヴォーカルを取るようになります。

当時、ディスコブームに乗って、ジャズ・フュージョンのミュージシャンがポップでキャッチーなダンス・ミュージックを作るっていう潮流があったんですよね。ベニー・ゴルソンとか、ドナルド・バードとか、グローヴァー・ワシントン・ジュニアとかね。70年代は“ジャズ・ミュージシャンがダンス・ミュージックを作る”っていうディケイドだったと思います。

で、パトリース・ラッシェンもその流れに乗ってポップでキャッチーなダンス・ミュージックを量産していくワケですが、そんな彼女の全盛時代にリリースされたのがこの楽曲が収録されてる『Pizzazz』です。このアルバムはアース・ウィンド&ファイヤーのアル・マッケイや、ジェームス・ガドソンポール・ジャクソン・ジュニアなどの超一流のメンバーが起用されており、非常にクオリティの高い一枚になっています。

このひとめっちゃくちゃピアノ上手いんですけど、歌も素晴らしいんですよ。可愛くて美しい。いわばキューティフルです(は?)。そのキューティフルな歌声を存分に愉しめる、多幸感溢れるダンス・ナンバーがこちら、『ハヴント・ユー・ハード』です! 例によって私の意訳を以下に引用しますので、踊りながら読んでください!


ねえ 聞いたことある?
ヘンな広告があるんだって
一言で言っちゃうとね
『私は完璧な男性を探しています』だって
知らない?

私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)

優しいタッチとか 優しい気遣いとか
私の一日を明るくしてくれる笑顔とかさ
私はぬくもりといっぱいの愛が必要なんだ
だからもっと優しくしてよ
ねえ オトナならはっきり言えるよ
あなたの愛を感じたいってさ
だから私は心を開いてるよ
運命の人に

私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)

あなたに心惹かれた あなたは完璧な男性だよ いえーい

私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)
私はあなたを探してたんだよ(あなたは知らないだろうけどね)

私はずっと あなたを探してた




四曲めは、ダイアナ・ロスで『ワン・ラヴ・イン・マイ・ライフタイム』。


はい、言わずと知れた女帝ダイアナ・ロスです。女性ソウルシンガーの女王の座といったらもうダイアナ・ロスアレサ・フランクリンのどっちかっていうぐらいの偉人ですよね。うーん、ダイアナ・ロスかな。性格とかも踏まえて。

この曲は通算6枚目のソロ・アルバム『ダイアナ・ロス』に収録されている、1976年のシングルでごぜーます。それまでのオーガニックなソウルとは打って変わった、モーレツなディスコ路線で大ヒットした前作『ラヴ・ハングオーヴァー』の直後にリリースされた曲ですね。

ソウルバーだと結構人気ある曲です。

前作がバリッバリのディスコだったのに比べて、今作は時代性を配慮しつつもモータウンっぽさも残した、こみ上げ系ソウルに仕上がっています。技巧的な工夫が随所に見られる楽曲で、転調とかかなり面白いですね。イントロのブレイクビーツもすげえクール。

ちなみにこの曲、シングル・ヴァージョンとアルバム・ヴァージョンとオルタネイト・ヴァージョンがあって、それぞれかなり違うんで、聴き比べてみると面白いかもしれません。例によって私の意訳を以下に引用しますので、踊りながら読む、または読みながら踊ってください!


もし治療法があるとしても
別にいらない
欲しくない
もし救済策があったとしても
私は走って逃げるわ
逃げまくる

どんなときもずっと考えてるよ
私の心から決して離さない
だって大好きだもん

私は最高の二日酔いってカンジ
ずっとこのままでいたい
最高の二日酔いだよ
いえーい ずっとこのままでいたいな

なんにもほしくない
終わらせたくないよ
治さなくっていいから
治さないままでいいの

大好きなあの人
大大大好き
大大大大好き

お医者さんになんか電話しないで
お母さんにも電話しないで
牧師さんなんか呼ばないで
そんなのいらないんだってば
いらないの

大好き 本当に大好きなの
甘い愛が とびっきりの愛が必要なんだ
もし治療法があるとしても
別にいらない

大大大大大好き
大大大大大好き
大大大大大好き
大大大大大好き




はい、というワケでいかがでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十三回 だれかを好きになった日に聴く曲特集 (恋とは愛の下位互換ではない)part2、そろそろお別れのお時間となりました。

『日本のポップスは恋愛の歌ばっかり』なんて抜かすのは世間知らずのオタクの戯言、アメリカもイギリスもフランスもドイツもイタリアも韓国もインドネシアもポップスは恋愛の歌ばっかりですよー。

恋人がいようが、いなかろうが、結婚していようが、していなかろうが、不倫していようが、していなかろうが、未だかつて恋愛感情というものを抱いたことがなかろうが、ラブソングの魅力は無限大。

ラブソングを聴いてゴキゲンに踊りましょう。

それではまた、お相手は山塚りきまるでした。


愛してるぜベイべーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!


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