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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第114回 夏の終わりに聴きたいピアノ・ソロ特集



はいどうも。

もうとっくに気がついているという方も、その事実から必死に目をそらそうとしている方も多いと思われますが、今年も夏が終わりました。

青いシールが貼られた蛇口からタイムラグなしに冷たい水が出てくるようになったとき、あるいは虫の音が変わったとき、あるいは風呂上がりのドライヤーが苦でなくなったとき、我々は夏が終わったことを知ります。

そしてmellowともsentimentともmelancholicとも言えぬ複雑な心持ちのままどんどん日々は流れて、秋へと向かってゆきます。

我々は、いまその真っ只中にいるところ。

長袖のシャツはもう舞台袖にいて今か今かと出番を待っているし、冷やし中華のオーダー数は右肩下がりで減っている。アース・ウィンド&ファイアーの『セプテンバー』のレコードは先週から大忙しで、アル・マッケイはずっとグレッチのハコモノでカッティングしている。

そういう座標に、我々は、いる。

合気道ではすべてが陰と陽に分けられるとされ、息を吸っているときは陰、息を吐いているときは陽だといわれていますが、この季節と季節の境目ははたして陰陽どちらなのか。ちょっくら青森は恐山まで足を伸ばして、イタコを通じて植芝盛平に尋ねてみたい今日この頃。

こういうときに、アナタはどんな音楽を聴きたくなりますか?

アタシはいつもこういうときに、ピアノの音色が恋しくなります。

ピアノの音色に耳をすまして、脳細胞のひとつびとつから湧き出してくる夏の想い出に、ゆっくり静かに浸りたい。

というワケで、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第114回は“夏の終わりに聴きたいピアノ・ソロ特集”と題して、胸をかきむしるようなエモオショナルな楽曲を紹介していきたいと思います。

みんな、ついてきてね!



一曲めは、ウォーレン・バーンハートで『ティモシー』。

ハービー・ハンコックサイモン&ガーファンクルスティーリー・ダン渡辺香津美との共演で知られるジャズ・ピアニストのウォーレン・ハーンバートの1978年作、『フローティング』からの一曲であります。

とにかくいい曲ですね。

繊細なタッチ、郷愁を誘う叙情的なメロディ、ひたすらにエモオショナルな展開、わかりやすすぎるぐらいわかりやすい名曲です。



二曲めは、チリー・ゴンザレスで『リドークス・ルネーズ』。

ジャズからクラシックからエレクトロからポップスからヒップホップまで幅広く手がける鬼才、チリー・ゴンザレスの名曲であります。

ゴンザレスさんはカナダ出身で現在はパリ在住、カナダでは無声映画にピアノで伴奏をつける仕事で禄を食んでいた模様ですが、フレンチ・ポップの女神ことジェーン・バーキンのアルバムをプロデュースしたことから名を馳せ、フランスのポピュラー音楽界の風雲児として活躍することとなります。

このひとはとにかく大変な才人で、歌も歌えばラップもやるし映画も撮る、ビョークダフト・パンクも絶大なリスペクトを寄せる世界的な作曲家/ピアニスト/プロデューサーなのですが、同時に大変な奇人でもありまして、『27時間連続ライヴ』でギネス記録を持っていたりします。27時間ぶっ続けでステージでピアノ弾き続けたの。意味わかんないよね。俺も意味わかんない。ゴンザレスさんは自らを『アンダーグラウンドの大統領』と呼んでいます。また、『私はアーティストではなくエンターテイナーだ』とも。

で、この楽曲が収められているアルバム『ソロ・ピアノⅡ』は、タイトルから解るとおり、ピアノ・ソロのシリーズものでありまして、現在三作が出ております。このシリーズの第一作にあたる『ソロ・ピアノ』はポスト・モダン・クラシカルの歴史的名盤として知られており、一大ムーヴメントを巻き起こした逸品なのですが、なんとこれ、前述のジェーン・バーキンのプロデュース・ワークの休憩時間に、スタジオにあったアップライト・ピアノを使って片手間に制作されております。恐るべき才能であります。

ちなみに『リドークス・ルネーズ』とは、フランス語で“カーテンから差し込んでくる光”みたいな意味です。まさに言い得て妙といったオモムキの、暖かみと切なさをはらんだグッド・ミュージックであります。



三曲めは、ハイル・メルギアで『イェフキー・エンガーグロ』。

エチオピア出身で現在はワシントンD.C.在住の鍵盤奏者、ハイル・メルギアの2018年作です。

このひとはもともとエチオピアで人気のジャズ・ファンクバンド、ザ・ワリアスのフロントマンとして活動していましたが、81年にバンドの悲願であったアメリカ・ツアーを敢行するも失敗、解散の憂き目にあうもそのままワシントンD.C.への移住を決意します。それからはタクシー・ドライバーとして生計を立てつつ、隙間を見てはトランク・ルームに忍ばせたキーボードで一日たりとも休むことなく練習に明け暮れました。そして2013年、彼のソロ作が再発されたことをきっかけに注目を集め、数々の人気アーティストの前座として抜擢されるなどし、再評価を受けました。

エチオピアの音楽って日本の民謡とか歌謡曲に似ているとよく言われるんですけども、まぁ何ちゅうかメロディ・センスのツボが日本に近いと思うんですよね。

この楽曲はとりわけ日本人好みの、コブシの効いた郷愁を誘うメロディが炸裂しています。マジ名曲。



四曲めは、デュヴァル・ティモシーで『ボール』。

新たなる音楽の発信基地として近年注目を集めているサウスロンドンの新進気鋭のアーティスト、デュヴァル・ティモシーの2017年作であります。

非常にマルチな才能を持った方で、音楽活動のみならず、写真、テキスタイル、絵画、彫刻、デザイン、映像制作、レシピ本の出版(なんとイギリスではベストセラー!)まで手がける一方、アパレル・ブランドとレーベルも経営しています。インディペンデントであることにこだわり、彼が所有するスタジオは地元のアーティストなどに貸し出されています。

楽曲を聴いて解る通り、大変な才能ですよね。

本当に素晴らしいと思います。

アンビエントやヒップホップやエレクトロニカやポスト・クラシカルまで余裕綽々で飲み込む、21世紀型のまったく新しいブルーズを奏でていると思います。メロウでセンティメントでメランコリックなこのメロディは、まさに夏の終わりに聴くにうってつけであります。


ハイ、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第114回 夏の終わりに聴きたいピアノ・ソロ特集、そろそろお別れのお時間となりました。

次回もよろしくお願いします。

お相手は山塚りきまるでした。


愛してるぜベイべーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!













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