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思い出しトリガー

この絵。かわいいなあ、と思ってじっと見ていた。

ぺろぺろ。そして、棒アイス。一気に思い出したのは、小学生の頃に住んでいた市営団地の光景だ。近所によろず屋があった。食品、生活雑貨、菓子、タバコ、切手を売っていた。当時はコンビニのハシリの時期で、都心にポツポツと出来始めた頃だ。わたしの住む田舎町には、ほとんどが市場に並ぶ個人商店だったし、スーパーマーケットも少なかった。

駄菓子屋ではなかったので、チョコレートならガーナやルック、アーモンドチョコの箱などが並んでいた。そこでよく買ったのが「ペロティ」という棒付きのチョコ。おもて面はいちごの味で、裏面はチョコレート。表面には、キャラクターのイラストが入っていた。なんの絵だったかは思い出せないが、キャンディキャンディとか、戦隊モノとか。それをこのイラストの「ぺろぺろ」で思い出したのだ。

わたしがお小遣いのほとんどを投入したのは、スヌーピーのイラストのケースに入ったチョコレートだった。メーカーも、チョコレートのディティールも、いくらだったかも思い出せないが、とにかく、ケースの表面に、どーんとピーナツのキャラクターが1点ずつ描かれていて、わたしは全種類を集めることに夢中だった。今思えば、わたしのパッケージ好き、箱好きの発端は、その辺りだったのかもしれない。学習机の引き出しにその全てを押し込んでいたので、引き出しを開けるたびに、チョコレートの匂いがした。

お小遣いをもらうと、団地の階段を駆け下りてお店に向かう。市営団地の階段はコンクリートと鉄扉の無機質な匂いがして、夏も冬も薄暗く、寒々しかった。自治会の掃除も徹底していて、ゴミひとつ落ちていないのが、殺風景なほどだ。当然ながら、どの扉も同じ規格で同じ色だから、たまに階数を間違えることがあった。今のように防犯意識が徹底していなくて、鍵を開けっ放しにする家も多く、「ただいまー」と言いながら、ぐい、と扉を開けると、わが家とは全く違う景色。暖簾がひらりと揺れて、お線香の匂いがしていた。バツが悪いまま、そっと扉を閉めて、逃げるようにその場を離れた。「あ、誰か間違ってドアを開けたな」と思っても、誰も気にしないような時代だった。夜半に、酔っ払った上の階のお父さんが、うちの玄関を開けようと、鍵を差し込んでガチャガチャやることもあった。

その団地を離れてずいぶんな時間が過ぎた。去年、久しぶりに前を通ってみた。団地そのものはまだ機能しているが、あのお店はもう閉店してしまったようだった。雨戸が閉ざされていて、看板も外されていた。

この頃、匂いや風景がトリガーになって、ポロポロと思い出すことが増えた。それがまた芋づる式に思い出され、妙にリアルなのだ。昨日の昼ごはんのメニューも忘れがちなのに、記憶の旅は歯止めが効かなくなる。まずい。次の新しい何かを脳に送り込まなければ、と焦っている。


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