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あっこちゃんと珍道中 ②ドッグショー

あっこちゃんとイギリスに行ったことを思い出している。

あっこちゃんはローリングストーンズとエアロスミスと忌野清志郎が大好きで、それらと同じくらい大の犬好きだ。当時、実家で飼っていたシェットランドシープドッグの「タロ」をこよなく愛していた。

「ドッグショーを見たいのよ」とあっこちゃんに誘われて、なんとかハム(イギリスの地名には〜ハムが多い)に出かけた。ロンドンから地下鉄を乗り継いで、わたしはひたすらあっこちゃんについて行った。地下鉄のホームには、ガムの自動販売機があって「ほとんどの場合、出てこないから買わない方がいい」とガイドブックに載っていた。わたしはそれを試したくて、賭けのような気持ちでお金を入れてみた。案の定、出てこなかった。「あっこちゃん!見て!すごい!やっぱり出てこないよ!!」と喜ぶわたしを冷ややかに見つつ、彼女は「いい経験だね」と言った。

世界最大との呼び声も高いそのドッグショーは、総合体育館みたいな場所で行われていた。文字通り世界中から犬好きが集まっており、出場する犬とその飼い主、さらにはその応援団の熱気にあふれていた。アリーナでは、牛みたいな柄の犬と、その犬そっくりの衣装を着た飼い主が、演技を披露していた。掛け声に合わせ、犬はライン上を歩き、角を90°に曲がる。伏せたり、障害物を飛び越えたり、よく躾けられていた。その様子が犬も飼い主もなんとも幸せそうで「よかったよかった」とわたしは思った。

右も左もわからないその場所で、あっこちゃんと一緒にウロウロして、バックヤードにも踏み込んでしまった。

大小の犬のケージがにわか仕立ての共同住宅のように、横にも縦にもずらりと並べられ、そのどれもに、メッセージカードが所狭しと貼り付けてあった。わたしは英語がろくに読めないのだが「がんばって!」とか「応援しているよ!」とか「あなたが世界一の犬であることは間違いない!」みたいなことが書かれているのはわかった。愛にあふれた空間とはいえ、そこは動物園の動物舎さながらに獣の匂いがして、ペットを飼ったことのないわたしは「愛ってすごい」と思った。

物販のブースにも行ってみた。これまた大変賑わっており、犬のための首輪、リード、フードトレイなどの他にも、セーターやレインコートなど、当時はまだ日本での流通が少なかったアイテムも、たくさん展示即売されていた。あっこちゃんがドライフードのコーナーを見ていたら、メーカーの人に声をかけられた。わたしたちが日本から来たとわかると、その人はとても熱心に、丁寧に、そのフードがどれくらい良いものかを説明し始めた。あっこちゃんも、タロのことを考えていたのか、熱心に質問していた。わたしはただポカンとそれを見ていた。帰国してからあっこちゃんが「あれってさ、わたしたちをバイヤーだと勘違いしていたんじゃないかな。わたしら以外にアジア系の人はいなかったし、日本に販路を繋ごうとして、だからあんなに熱心だったんじゃないかと思う」と言っていた。なるほどねー。

あっこちゃんは「クレジットカードは使えますか?」と聞いて、タロそっくりの犬が編み込まれたセーターを買った。それは映画『ブリジット・ジョーンズ』でマーク・ダーシーがお母さんに贈られて着ていたクマのセーターのようで、わたしは「え?」と思ったが、「そっくりなのよ」とあっこちゃんは殊の外うれしそうだった。帰国後、そのセーターを着ているところを見たことがなくて、「あれはどうしたの?」と聞けば「あれはお姉ちゃんへのお土産よ」とサラリと答えた。さらにその後、そのセーターを着たお姉さんに会った。お姉さんは「ね?ね?タロそっくりでしょう?」と喜んでいたので、あこちゃんさすが!と思った。

ある時、そのお姉さんは「2000年に出航する船にわたしたちが乗って港を離れる時、おばあちゃんとタロが港で見送っていた」という夢を見た。あっこちゃんは「そうか。寿命か」と思ったそうだ。そして、その通りになった。

(つづく)



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