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【043】社員が腹落ちするまで社長に説明を求めることが会社の成長を阻害する

あるスタートアップ企業の社長から聞いた話です。

”社長の直感による判断を(社員が)納得できるまで言語化して欲しい”という要望に応えることに苦労していると。

以前書いた「『社長は宇宙人』とよく言われるけれど」でも似たようなことを書きました。私は社長の脳内には、社員には到底理解できないサンドボックスのような領域が存在するのは当然であると考えています。

社長が事業や経営について費やしている時間と、社員のそれとは雲泥の差があります。社員からみたら単なる”直感”に見えるかもしれませんが、特定の領域についてインプットをしまくり、かつ考え抜いた社長にとっての”直感”とは、過去の経験と情報という個人のデータベースに基づいて脳が導き出してくれた最適解なのであって、単なるひらめきや思いつきとは似て非なるものです。

私たちは、特定個人の脳内データベースの中から導きだされた最適解が、言語化を伴わない場合にそれを「直感」と呼んでいます。その根拠は脳内に確かにあるので、後付けでそれを論理化することは可能だけれど、その言語化には時間とエネルギーを要します。

社長と社員では経験値や知識レベルも違うので、知識がより少ない人がわかるように説明するためには、余計に労力を使います。それでも社員がすべての言語化を求めるならば、そしてそれが会社の文化として定着してしまったなら、会社の成長が鈍化することは避けられません

社員が腹落ちするために、距離感の近い社長に「納得がいくように説明してください」と望むことは、スタートアップではよくあることです。でも、それが文化になってしまった企業は一見フラットで風通しが良い会社のように見えるのですが、戦略のスピードが確実に落ちます。

じゃあ、そうならないためにどうしたら良いのか。
個人的な経験から、その解決方法には少なくとも二つあるように思いま
す。そして多くの企業では、意図せず偶然によって解決しているように見えます。

一つは社長の言動を言語化する翻訳者の登場によってです。多くのスタートアップには、このタイプの参謀が社長の脇にいて社長と社員のブリッジになっています。ちなみに冒頭の悩んでいた社長の場合も、翻訳してくれる参謀が現れたことによって事態は好転しているそうです。

二つ目は社長のパーソナリティで回避されるケースです。某メガベンチャーの社長はこのタイプでした。社員や側近から「納得がいくように説明してください」と言わせない強いキャラクターであれば、社員たちは「あの社長はやると言ったら聞かないから…」と説明を求めることを諦めます。結果として社長は直感に従って戦略を指揮・実行することができます。かつ、それで納得がいかない社員は去っていきます。その代謝によって「社長は社員が納得するまで説明するものである」という文化が根づくこともありません。

ちなみに企業文化の話にもなりましたが、社長をどのような存在として受け入れるかという組織のありかたは、企業文化の重要な部分を占めています。スタートアップ企業においては「フラットで風通しの良い文化」が礼賛されがちですが、その定義によっては危険とも言えるので、注意が必要だと思うのです。

社員が自分の腹落ちのために、社長の貴重なリソースを奪うことは、経営の歩みを止めることにもつながるのです。


写真=ドバイのインターネットシティという街でのフォトスポット。Google Dubaiの真前です。(2022年5月撮影byじぶん)





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