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日々の暮らしの出来事、旅したときに感じたこと、物語など、きままに書いています

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最近の記事

コーヒーフロートと人生のこと|日々のエッセイ

 連日35度近い猛暑日が続いていた7月のある日の昼下がり。用事があって出かけた地下鉄の駅の近くで昼ごはんを食べた後、アイスコーヒーでも飲みながら本を読もうと、少し歩いたところにあるお気に入りの喫茶店に向かった。 平日の休みの日に空いている喫茶店で本を読むのは、私の一番好きな時間だ。 喫茶店の自動ドアがウィーンと音を立てて開き、ひんやりとした空気に包まれる。あー涼しい。最高だ。狭い店内を見ると、お客はノートパソコンに向かって仕事をしている女性一人しかおらず、とても静かだった

    • みはしの白玉クリームあんみつ|お菓子愛

      上野の「みはし」を知ったのは、今から20年くらい前でした。 ある日、上野の広小路通りを歩いていたら、ビルとビルの隙間に突然、和風のお店が現れ、軒先には、少女が「ふふふ」と笑っているようなお茶目な字で「みはし」と書かれた暖簾。 気になって確かめると、「みはし」はあんみつ屋さんでした。 ガラガラと木枠の引き戸を開けて中に入ると、店の中は案外奥行きがあって広く感じます。 落ち着いた朱色の床に、整然と並ぶ清潔感のある机と椅子。席ごとに天井からつるされた

      • フィラデルフィアのバス停で | 短編小説

        「さっさと国へ帰れ!アジア人!」 市庁舎の近くの横断歩道で、信号が青になるのを待っていた倫子 は、その叫び声が自分に向けられている、ということを理解するのに少し時間がかかった。 その声は、信号の向こう側で、ボロボロの自転車に乗ったホームレスらしき風貌の黒人の男が、自分に向けて叫んでいたものだった。補足すると、「アジア人」の前に、Fから始まる英語のスラングワードも加えられていた。 倫子がアメリカのフィラデルフィアに留学して来て半年が経とうとしていたが、倫子はこの国で初めて

        • 牛乳嫌いのバレンタイン | 短編小説

           まり子が小学五年生になった始業式の朝。 教室の窓際でぼんやりと外を眺めていたまり子は、樹齢百年以上はあるという校庭の大きな欅の木の下に、見知らぬ男の子が立っているのに気づいた。 その男の子は、まり子のクラスに転校してきた松本圭太だった。 東京から来た圭太は、まり子のような片田舎の小学生からは、ちょっと大人っぽく見えた。 「…ええと、松本くんの席は…あ、広瀬さんの後ろです」 担任の五十嵐先生に自分の名前を言われて、まり子はドキリとした。 自己紹介を終えた圭太が、ゆ

        コーヒーフロートと人生のこと|日々のエッセイ

          焼き栗とポートワイン | 旅エッセイ

          まずい。 このまま来なかったらどうしよう。 秋も深まった11月のある日。 ユーラシア大陸の西の端、大西洋に面したポルトガルの古都ポルトのとあるアパートの前で、私は呆然と立ち尽くしていた。 観光地から離れたこの海辺の田舎町で、私は完全に異質な存在だった。 通りかかる地元の人々は皆、大きなバックパックを背負ったアジア人を、 怪訝 な顔でちらちらと見ている。 流行りの民泊サイトで予約したこのアパートに辿り着いたのは、午後1時より少し前だった。 オーナーのジョアオから、部屋の鍵

          焼き栗とポートワイン | 旅エッセイ

          パリのランドリー | 旅エッセイ

          9月。私は友達の麻子と2人で、パリを旅することになった。 長いこと憧れていたのに、今まで訪れる機会がなかったパリ。やっと夢が叶うのだ。 13時間のフライトの後、私たちはシャルル・ド・ゴール空港に降り立った。 空港から宿までの移動には、タクシーを使うことにした。 機内で読んだガイドブックに、パリ市内へ出る電車の治安が悪いと書いてあったのを見て、ちょっと怖くなったのだ。 タクシーの運転手は大柄の黒人の男の人で、物腰は穏やかだったが、いざ走り出すとあまりの運転の荒々しさに、

          パリのランドリー | 旅エッセイ