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思い出の一冊

基本的にテレビを見ない(週末にCSの海外ドラマの一気見放送は見る)ので、ネットで政治経済のニュースを見ている時についでに見る程度にしか芸能情報は詳しくないのですが、先週から情報が溢れている不倫騒動のニュースの外枠はすっかりインプットされてしまいました。


このニュースを耳にした時に私は、高校時代にクラスメートから勧められて読んで、大きく影響を受けた本を思い出しました。
そのクラスメートは小柄でとても色白で、鼻に浮かんだそばかすがとてもチャーミングなおしゃべり好きな女の子でした。全校生徒が参加するクラブ活動(部活動とは別)でたまたま一緒の読書クラブだったことから話をするようになったのですが、今まで親しくしていた友人たちとは雰囲気が少し違っていて早熟な感じがする子で、彼女と本の話をする時間が大好きでした。

そんな彼女が「大好きな本なの。よかったら読んで」と差し出した本が佐々木丸美さんの『忘れな草』でした。発刊年が1978年ですから、当時でもかなり年数が経っていたのですが、まだかろうじて大型書店に行けば本棚に並んでいる時代でした。
あらすじは省略しますが、その本には当時の私が好んで手にしていた時代小説やコバルト文庫の作品とは違う世界が広がっていました。まだ想像すらつかなかった企業や陰謀や大人の恋愛、そして初めて目にした輪廻転生という単語。私が読んだのは講談社文庫版でしたが、地方の素朴な高校生だった私がそれまで読んでいた本のジャンルから3つくらい飛んだ先にある世界のように感じた出会いでした。

その本の中で主人公の少女が十代特有の潔癖さで、間接的に恋敵である20代後半の女性が既婚者である上司を10年密かに想い続けていることを断罪するシーンがあります。後日女性から少女に手紙が届きます。完成された大人である上司への尊敬の念が恋心へと変化したこと、ある時に上司を形作っているのが仕事であり歳月であり妻だと気づいた時、深い反省と感動を覚えたのだと綴られている手紙。たとえ打ち明けることがなくとも、その想いが不毛であり許されないものだとわかっている女性にとって少女の言葉は硬すぎるムチだったという告白。でもそのそのムチがあったからこそ、傍でずっと寄り添っていてくれた存在に自分の人生を委ねる決心がついたと書く女性が、一歩先へ足を踏み出したのだと知るシーンは、まだ幼い恋愛しか知らない当時のわたしにはとても印象的でした。
作品の中でほんの数ページのシーンですが「既婚男性を形作っている中には大なり小なり妻の影響が含まれている」(=既婚女性にとっての夫の存在もまた然り)という思いが高校生の私に強く印象づいたのです。
でも当時の私は同級生の人気者や大人びた先輩などを見ては友達ときゃあきゃあ言って満足していた純朴な田舎の女子高生(苦笑)だったので、その影響について気づかされることはありませんでしたが、大学生社会人となりはるかに年上の男性と接する機会があっても一度たりとも既婚者へ恋愛感情を抱いたことはありませんでした。勿論仕事ができて、周りへの配慮が半端ない人などは男女問わず見惚れますが(笑)、既婚者とわかった瞬間に配偶者の存在が私にブレーキをかけてくれました。それは「こんな方の奥様はどんなに素敵な方なんだろう」「この人の奥様ごと愛せる程好きになれるだろうか」というような形で。
自分でも変わった考え方だなと思うその考えの源を辿ってみると、『忘れな草』だったのだと気が付いた時に妙にすっきりして、私はこの価値観を持ちつづけていようと思えたのでした。


私が手にする本のジャンルについては、偏らず雑食な方だと思います。そして自分の中の物差しがこの本たちからも影響を受けて作られてきたところが多分にあったのだと少女時代を振り返って思うのですが、それは決して無駄なことではないと思うのです。だって人間が人生を通して経験することなんて世の中の出来事のほんの一部分です。じゃあ経験したことのないことはわからないことなのか…といえばそうではなくて、周りの人の経験話、本や映画、今の時代ならネットなどを想像の源として、自分でものを考えて想像して人は生きているのだと思います。

現在、不倫騒動で厳しい言葉に晒されている某俳優さんと若手女優さんに、今まで生きてきた中での経験の全てと周りに溢れる情報から先を想像するスキルがあれば、形の違う未来があっただろうと残念な気がします。


『忘れな草』の中でもう一文心に留めている言葉があります。それを最後に添えておきます。

『恋の針がどんなふうに曲がっているか見たことはないのかい?鉤手になって一度心臓に打ち込むと決して抜けない。あせって引っ張ると食い込むばかりだ。かぎ針の風化を待つのが一番賢い。失恋を治すのは大量の時間しかないのと同じだ。』
二十代前半に恋に悩んでいた時、この言葉に救われたことを久しぶりに思い出しました。


参考文献:講談社文庫 佐々木丸美 『忘れな草』
※佐々木丸美さんの作品は全て絶版となっていましたが、現在は一部の電子書籍サイトでほぼ全ての作品を購入することができます

#日記 #コラム #本 #想像力

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とにかく書くこと、が目標です。でも面白いことはたぶん書けません。