月組の一つの時代が、私の中で終わったという話。

先日、宝塚歌劇団月組公演『桜嵐記』『Dream Chaser』を観劇。

今回は『Dream Chaser』のお話を。


私にとって、宝塚は月組から始まり、いつだって月組と共にあったような感覚だ。初観劇は霧矢大夢さん退団公演の『エドワード8世』『Misty Station』、その次の龍真咲さんトップお披露目公演『ロミオとジュリエット』で宝塚という世界を大好きになった。ロミジュリの観劇について来てくれた祖母が買ってくれた公演プログラムを、毎晩のように隅々まで飽きることなく読みふけった、中学3年生の夏休み。ロミジュリの公演プログラムだけ、背表紙の紙がはげたり、折れ曲がったり、ボロボロになってしまったほどはまった。

いろんな組を観ても、私にとってオンリーワンなのは、まさきさんだけだった。独特の歌、ダンス、芝居。決して器用なタイプの男役さんではなかったと思うし、アンチも多かったけど、努力の様子は見せない。いつだって堂々と自分を貫く様が眩しくて、キラキラしていて、憧れ。退団公演が、私の大学1年の夏だったから、まさに私の青春の人。

その隣に立つ、愛希れいか、ちゃぴも大好きだった。健気で少女のような純な雰囲気でかわいらしい女の子。でも、だんだんと自立したしなやかな女性になって、誰もが憧れるような素敵な娘役さん。

そんな二人が真ん中に立つ時代から、私にとっての宝塚は、月組は始まった。当然のように、月組ファンを自負していた。

やがてまさきさんが退団し、珠城りょう、たまきちがトップになった。その当時はまさきさんがいない月組を直視できない自分がいたけど、まさきさんがかつていた月組は、観ると安心するような、ホームのような組であることに変わりはなかった。そんな中でも、だんだんと、まさきさん時代からいたメンバーは少しずつ、月組から去っていった。だけど去る者がいれば、組配属や組替えで新しく月組に加わる者もいて、その度にわくわくしていた。

そんな中、たまきちの退団が発表された。

なんとなく、私が大好きだったころの月組が遠くなるなと感じた。次のトップになる月城かなと、れいこは元は雪組の人だ。下級生はまさきさんの月組時代を知らない。でも、それはもうずっと事実としてわかっていたことで、だから寂しさなんて感じることはないはずなのに。


『Dream Chaser』は、たまきちのサヨナラ公演という割には、そこまでその要素を感じられない作品だと思う。素直に、珠城りょうという男役のカッコよさに浸ることができる。スーツでタンゴを踊る様も色気が素敵だし、中詰のキラキラ感、シンプルな黒燕尾に光る美学、相手役の美園さくらちゃんを包み込むような優しさで踊るデュエットダンス。たまきちの大好きなところをぎゅっと詰め込んだ、宝塚らしい、オーソドックスなショー。

あとは出演者全員が大階段を降りてお辞儀をするパレードだけだ。感じるはずのない寂しさはやっぱり、なかったんだと思って帰れると思っていた。

舞台上に出てきた、男役数人。たまきちのそばで月組の中核を担ってきた面々。その一人ひとりと、無言で心を通わすように、踊るたまきち。

その様子に急に涙が溢れて止まらなくなった。たまきちがいなくなれば、次はれいこがトップの、新しい月組が誕生する。それ自体が楽しみであることに嘘はないけど、やっぱり、まさきさんがいた時の月組は遠くなる。どこかにその時代を感じさせるDNAが残っているかもしれないけど、そんな見方をすることはもう「今」の月組には失礼なことだ。でも、そうやって寂しさを抱えて観てしまう私は、今までのように「月組ファンです」なんて、もう言えないと思った。その事実ですら寂しいけど、でもその方がきっと新しい月組をフラットな感覚で観られる。

なんだか、ようやくまさきさんがいた月組とお別れができたような気がした。

何度も繰り返しておくが、れいこが月組のトップになることが嫌なわけではない。雪組時代は実力はあるのに少し大人しそうな印象だったれいこが、月組で堂々とした姿を(そして舞台以外でもどことなくおちゃらけた姿も)見せるようになった過程を観てきた。相手役の海乃美月、くらげとの大人っぽいコンビも楽しみだし、芝居がうまい月組で、繊細かつ大胆な日本物の作品が増えるかもしれない期待もある。

だけどね、やっぱり寂しい。まさきさんの元で2番手時代をあまり過ごせず、急にトップになったも同然のたまきちが、それでもまさきさんの後を受け継ぎますと力強く言って、真ん中に立っていてくれた。まさきさんが去った後の月組の行く末を観たくて、私はずっと月組を好きでいたのかもしれない。

寂しいけど、どんどん時間は前に進んでいく。まさきさん、そしてその後を継いだたまきちがいた月組を観てきた思いは心の奥にしまっておこうと思う。新しい月組を期待感を持って楽しみにしていよう。

でも、たまには、あの時の月組が大好きで、私のキラキラの思い出であることを大切に思う時間を作れたらなと思う。

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