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いま、私たちが立ち向かうべきものとは/映画「リスペクト」

ソウルの女王と呼ばれる、アレサ・フランクリンの伝記的映画「リスペクト」を観てきた。ジェニファー・ハドソンが主演ということで気になっていたので、公開して早速映画館に足を運んだ。


ストーリーは、アレサの幼少期から始まる。敬虔な牧師である父のもとで育ったアレサは、パーティーや教会で、幼い頃からその歌唱力で周囲を驚かせていた。しかしこの父がかなりの過保護で、何かとアレサの行動を制限してしまうのだった。

その後、父の束縛を振り切るように、惹かれ合っていた恋人テッドと一緒になる。しかし、このテッドがまた厄介な男なのである。アレサの実力である部分を自分の手柄としようとしたり、かっとなるとすぐ暴力を振るう。傍から見たら、止めとけと強く反対したくなるような男であった。

父や恋人からの支配と戦う様子はなかなか観ていて苦しかったが、そんなときにアレサの脳裏をよぎるのは早くして亡くなった母の姿。母が教えてくれた音楽に戻り、励まされ、最終的には楽曲に昇華させて、次々とヒットを生み出して行く。


主演のジェニファー・ハドソンは生前のアレサ本人からご指名があったとのことである。映画「ドリームガールズ」で、デビュー早々ビヨンセと共演しつつオスカーを勝ち取った彼女は、流石の歌唱力の持ち主だ。特にセッションしながらレコーディングしていく様子や、ライブパフォーマンスのシーンは鳥肌がたった。

父や恋人との関係でうまくいかないときや、初めてのレコーディングスタッフに舐められたような態度を取られたときなど、台詞で応えるのではなく歌で黙らせる、そういう演出が多くみられた。特に、映画の見所は終盤描かれる教会でのコンサートで、ゴスペルに回帰したアレサが歌う「アメイジング・グレイス」は圧巻であった。

このゴスペル・コンサートに関しては、今年ドキュメンタリー映画が出ているので合わせて観ておきたい。


アレサの父がキング牧師と親しかったということで、映画は公民権運動の高まりも描いている。

キング牧師を慕う人々の姿や、暗殺された報道が出たときの様子、またアレサが黒人解放運動をリードしてきた活動家、アンジェラ・デイヴィスを支持する様子が取り上げていた。人種問題に関する映画や、公民権運動関連の映画とあわせて観ると理解が深まるだろう。

特に、私は最近観た映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」との関連を感じた。これは1969年にハーレムで行われた音楽フェスティバルの様子を描いたドキュメンタリー作品だ。差別と戦うアフリカン・アメリカンの人々とソウル・ミュージックの関係や、ニーナ・シモンが歌っていた「To Be Young, Gifted And Black」のカバーが「リスペクト」の劇中でも取り上げられたことなど、繋がる部分が多かった。

アレサにとっての戦いは父や恋人からの支配から始まったが、ひいては公民権運動を通して、積極的に人々をエンパワーメントしていった。映画のエンドロールでは、「 ケネディ・センター名誉賞 」 の授賞式でのパフォーマンスが流れるが、初の黒人大統領として知られるオバマ大統領が涙する様子は感慨深い。(なお、2009年の就任式でもパフォーマンスしている)


60年代、70年代の"古い音楽"、と侮るなかれ。様々な抑圧と戦い、立ち向かう彼女の様子をみて、現代を生きる私たちとしても励まされるものがある。人種問題やLGBTQをめぐる問題をはじめ、まだすべての人にとって自由とは言えない社会で、アレサの音楽は、より良い社会や未来を望む私たちをもエンパワーメントしてくれるのではないだろうか。

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