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新作『TYRON』にみるスロウタイの新たな表情

こんにちは、リホです。

前回はテイラー・スウィフトについて書きましたが、沢山スキをいただきありがとうございます!

2月は非常に楽しみにしていたスロウタイのアルバムが出ました。期待通り、いや期待以上に良い作品だったので、今回はその紹介と感想を書いていきたいと思います。

スロウタイについて

スロウタイ(Slowthai)はイギリスノーザンプトン出身、1994年生まれのアーティスト、ラッパーです。

ロンドンの北部に位置するノーザンプトンは、英国靴の聖地と呼ばれるほど靴作りで有名な街で、ジョンロブ、チャーチ、トリッカーズ、ドクターマーチンなど各メーカーの工場が集まっています。(余談ですが、アウトレットを扱うファクトリーもあるようで、旅行の際は是非立ち寄りたいですね)

そんなノーザンプトンの労働者階級出身のスロウタイが2019年に発表した『Nothing Great About Britain』は、タイトルからも分かる通り政治色が強く、攻撃的、社会的な内容のアルバムでした。

このアルバムは非常に評価され、マーキュリー賞にノミネートされます。ところが、受賞式ではなんとジョンソン首相の切断された首の人形を掲げるという大胆なパフォーマンスを披露し、物議を醸しました。

問題の"首"は・・最後にちょろっと映って終わっていますね。なんともヒヤヒヤするパフォーマンスです。

『TYRON』でみせる内面性

そんな、一見するとやばいヤツですが、今回2月12日にリリースしたセカンドアルバム『TYRON』では前作とは異なった表情をみせています。

この『TYRON』はスロウタイの本名を冠したアルバムです。前半はアップテンポで攻撃的な曲もありますが、後半に進むにつれパーソナルで内面的な一面を感じさせる作品になっています。

昨年先行リリースされた「feel away」は、皆大好きであろうJames Blake、Mount Kimbieを客演に迎えています。どちらもイギリスのアーティストではありますが、意外な組み合わせの一曲でした。

MVの設定が面白く、女性の代わりに妊娠した(?)スロウタイの前で、その女性は別の男性にアプローチをされ・・というちょっと衝撃的な展開。歌詞も相手との心の距離感を歌った内容になっていますが、寂しげなトラックとJames Blakeの歌声が曲の世界を引き立てます。

「nhs」もおすすめしたい曲です。

NHS(= National Health Service)はイギリスの国営医療サービスとのこと。これまた、メロウな曲調から内省的な雰囲気を感じる曲ですが、サビのフレーズが印象的でハッとさせます。

"Tyron jumped the bridge, would you do the same?"

さらに畳み掛けるように続くリリックから、精神的な脆さやその中に僅かにみえる希望のようなものを感じます。

アルバムの終盤を飾るのは「adhd」。最近MVが出ました。

自身もADHDを患っているというスロウタイですが、周囲への理解を求める姿勢やもどかしさを謳った内容です。

ステイホームの風潮もあるのかもしれませんが、前作の社会に対する意思表示とは異なり、今作は叙情的というか、人との関わりや自身の内面に目を向けた楽曲が目立ちました。

映画へのオマージュ

別の視点として、映画が好きな方ならニヤリとしてしまう演出もポイントです。

「CANCELLED」はスロウタイの兄弟分のような存在のSkeptaを客演に迎えた楽曲ですが、MVでは各所にホラー映画のパロディ演出がみられます。そこまでホラー映画に詳しいわけではないのですが、「アメリカン・サイコ」はちょうど最近観たところだったので、嬉しい演出でした。調べてみたところその他にも「最強絶叫計画」、「悪魔のいけにえ」、「エルム街の悪夢」などをモチーフにしているようです。

「Inglorious」は前作収録ですがこれもSkeptaとの楽曲になります。MV中盤の演出は「時計じかけのオレンジ」ですね。

また以下のインタビューでは日本について聞かれた際、ギャスパー・ノエ監督の東京を舞台にした映画、「エンター・ザ・ボイド」を挙げていました。こちらも個人的に好きな作品のため嬉しいやりとりでした。

まとめ

スロウタイはコロナが落ち着いたら早く来日して欲しいアーティストの一人です。

"ラッパー"ではあるものの、ヒップホップ、グライム、パンク、ロック、オルタナティブ・・と様々な要素を持ち合わせたアーティストだと思います。尖った楽曲もあれば自身の繊細さを感じさせる楽曲もあり、他のアーティストとのコラボレーションも器用にこなします。

『TYRON』聴けば聴くほど魅力を感じるアルバムなので、未聴の方はぜひ興味を持っていただけたら嬉しいです。


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