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ある日「の」ぼく「の」こころ「の」ボタンを押した一冊の絵本「の」

大好きな映画のひとつに「コンタクト」(1997)というのがあります。
地球外生命との接触を描いた映画ですが、単なるSFじゃなく、「目に見えないものの存在」というものについて考えざるを得ない傑作です。

そのファーストシーンもまた壮大で、地球から銀河系、太陽系、さらにはその向こうへとどんどんとトラックバックしていく映像に、かつて地球上から放たれたテレビやラジオの音声、音楽が次々とコラージュされていきます。
最終的に映像は、主人公の少女の瞳のなかに収まります。

地球から火星へ。木星から土星に。太陽系から銀河系へ。銀河から少女の、瞳のなかに。

ただそれがポツンとそこにあるだけならば単語に過ぎないのですが、「から」や「へ」や「に」や「の」という助詞で単語をつなぐと、不思議なことに物語や距離や時間の存在を感じさせてくれます。


そんな助詞のひとつ「の」をテーマとした絵本があります。

タイトルはそのまんま、「の」

表紙は目を閉じた少女の横顔。小さく開けた口(「の」って言っているのか)の先には、金色の小さなひらがね「の」が、放たれたロケットのように浮かんでいます。

さあ、「の」を巡るジャーニーの始まりだ、とも言わんばかりの表紙です。


表紙をめくると、真っ赤なコートを翻している少女がいて、
「お気に入りのコートの」のひと言が。


さらにページをめくると、赤いコートのポケットから尖塔がいくつか顔を出しています。添えられている言葉は、「ポケットの中のお城の」


そして物語は、「の」の推進力に導かれ、「の」がつなぐその先へその向こうへと突き進んでいきます。


「の」が示すのはマクロからミクロ、ミクロからマクロと行ったり来たり。
色彩豊かな絵は可愛らしく、次へとつながる「の」がどこにあるかを探す楽しさもあります。
どの絵もディテール豊かに描かれていますので、物語で示された「の」以外の「の」を、自分なりに見つけることもでき、自分が選んだ「の」からはじまる別の物語さえ紡げそうです。


作者junaidaさんは自身のサイトで、「の」についてこう書いています。

【「の」はバトンのようなことばです。それは、物だったり、時間だったり、感情だったり、なんだって繋げてくれます。】

さらに

【「の」は不思議なことばです。もっと言うならば、とても不思議な日本語です。「の」ということばを、そのまま一言で置き換えられる外国語は、どこにも存在しないのだそうです。】

とも書いています。

たしかに、この絵本「の」で使われている「の」は、「of」や「in」ともちょっとニュアンスが異なる感じです。
「of」「in」は、説明的、というかそこからの広がりがなさそうで、でも、日本語の「の」は倍率のいいカメラがズームしていくようで無限性を感じます。

だからこういう絵本が生まれたんでしょうね。
たった一文字「の」だけで誰の心にも物語が生まれる、とてもステキな絵本です。


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