見出し画像

私の好きな映画のシーン(55)『Gigantor(ジャイガンター)もしくは鉄人28号』

 前回はテレビ・ミニ・シリーズの『火星年代記』で、今回はアニメ番組『Gigantor』となり恐縮です。
 L.A.のウェスト・ハリウッドに住んでいた理由は、オフィス(センチュリー・シティー)まで車で30分ほどの近さだったのもありますが、サブカルチャー的な自由な雰囲気が気に入っていました。私はLGBTQではありませんが、LGBTQにとても寛容な地域性もその自由な雰囲気を醸し出していたのだと思います。さらに、南のメルローズ・アベニューにはメルローズ・プレイスがあり、北のサンタモニカ・ブルーバードにはあれこれ店が立ち並んでいて、夜12時を過ぎてもフラフラと歩いても犯罪の危険性のない街でした。
 そのウェスト・ハリウッドにある巨大な中古メディア・ショップで中古DVDをあれこれ探しているときに出会ったのが写真の『Gigantor』のDVDでした。
 日本語の原題は、あの『鉄人28号』で、私のテレビ・アニメの記憶史の最初のページを飾っています。物心がついたころ、「あなたはねぇ。本当に赤ちゃんの時から感情豊かでねぇ。『鉄人28号』の最終回で、主人公の正太郎が、まとどこかで会いましょうって手を降ったら、もう大泣きしてねぇ…」と母が教えてくれました。
 人間は、事後の情報から過去の出来事を取り繕い、嘘の記憶を作り出すことに長けていますが、母の話し通り、確かに泣きじゃくった記憶が微かにあり、今でもはっきりと残っています。
 そして40歳も超えたある日。ウェスト・ハリウッドで『Gigantor』の中古DVDを手にした時です「え?!」と自分でも驚くほど、その記憶の波がどっと押し寄せ、視聴者の私に向かって手を振る正太郎の映像がドン!と迫ってきました。まったく忘れ去った感動と悲しみの記憶でした。
 1968年にアメリカでも放送されたようで、知り合いにも『Gigantor』について訊ねてみると、若い人たちは知りませんでしたが、私と同じ年代の方たちは薄らと記憶しているようでした。私が住んでいたウェスト・ハリウッドには、ハリウッド映画関係者も数多く住んでおり、レストランやカフェで話をしていると、『Gigantor』について興味深々で、気づけば『Gigantor』伝道師的な話ぶりの私がいました。
 映画やテレビ番組や演劇や…様々な芸術で様々な感動がありますが、その感動を、無限の言葉を使って表そうとしても無駄ではないかと思っています。言葉を使って表そうとすればするほど、多様な感覚器官の絶妙なバランスで感じた感動はどこかへ消え失せるような気がしています。
 『Gigantor』、つまり『鉄人28号』の最終回の最後のシーンは、私の心の中でいつまでも生きづいているのだと思います。我が人生で初めてアニメ番組で得た感動は、何物にも代え難い光の点になっているようです。中嶋雷太

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?