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私が書いた物語から(16)「聖ニコラスの機械式自動車」より

 長年、つまり数十年、クリスマス用の大人の物語を書きたいと思い続けていました。映画で言えば「34丁目の奇跡」や「ダイ・ハード」や「ホーム・アローン」など、数々のクリスマス用の素敵な映画があり、大人も子供も楽しめます。
 言葉にするのが難しいのですが、少し乾いた感じで、静かにぐっとくる大人の為の物語として、クリスマス用の物語が書ければと、願っていました。
 そしてようやく筆(PC)を取ったのが2018年の春ごろで、およそ半年をかけ10月にデジタル発行したのが、本作品「聖ニコラスの機械式自動車」でした。
 中学生の頃からバイクや自動車の内燃機関が好きだった私にとり、あれこれコンピューター制御された電子式の自動車や電気自動車よりも、鉄だけで(もちろんタイヤはゴムですし、プラグも必要ですが)動く機械式自動車こそ自動車だという思いがあります。
 鋳造された鉄によりエンジンのシリンダーの中に噴霧されたガソリンが、ピストンで圧縮され、点火され、爆発し、エンジンとして動力を生み出すという一連の内燃機関の動きは、神秘的でさえあります。

「ジョニーは、ヴァンケル・エンジンに魅了されていた。経年劣化で亀裂の入った部品は、ジャックの手で美しく再生されていった。組み立て前のエンジンが作業台の上で輝いている。最初期のロータリー・エンジンを搭載した車に乗るのが夢だったジョニーは、クリスマスの朝、心待ちにしたプレゼントの箱を開ける子供の瞳になっていた。噴霧されたガソリンが圧縮され、プラグから火花が散り、点火し、爆発する。繭型のエンジン内部で三角形のローターが回り、その力がシャフトに伝わり駆動する。絶妙のバランスに成り立った芸術作品のようなエンジンだ。そして、ジャックと何カ月も話し合い作りあげたイメージどおりの自動車が、これからじっくり組み立てられていく。大人の模型作りのようなものだ。けれど、ありきたりの模型作りではない。自分が夢で描いた、理想に近い自動車に出会える喜びが、その先に待っている。」

 この物語は、カリフォルニアの砂漠地帯で、古い機械式自動車を生き返らせようとするジャックという名の自動車工と、機械式自動車に魅せられた男たちとの物語になっています。
 「排気ガスは環境に良くない」と、機械式自動車は断罪され、その命の灯火は間もなく消えるでしょうが、機械式自動車が私たちに与えてくれた喜びを、改めて考えられればと願っています。世の中の流行でガソリン車はダメだと断罪する前に、落ち着いてこの内燃機関やボディーなどのデザインについて理解して欲しいとは思うのですが。ただ、時代に逆行する物語だけではありませんので、そこはお読み頂ければ、ありがたく。中嶋雷太
BCCKSやAmazon等主要デジタル・ストアで取り扱っています。また、紙本はBCCKSにて注文できます。
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