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Best Metal Albums of 2020

 メタルと一言で言っても、メタルという音楽をどう定義し、どんな変遷で聴いてきたのかは人によって結構千差万別。特にサブジャンル化の進展著しい00年代以降は、同じ「メタル好き」と言っても、聴いてる音楽が殆ど被らないなんてことがざらに起こることも。なので、メタルについてあれこれ語る場合、最初の「メタル観」の刷り合わせが結構大事だったりする。
 とは言え、膨大な引き出しの中から、自分が30年以上聴いてきた音楽の変遷や、好きなアーティストについてあれこれと語っていくのも面倒なので、「メタル観を表明する自己紹介投稿」としては一番手っ取り早いかなと思い、第1回目の投稿を「2020年ベストアルバム」の紹介としました。

 ということで、2020年の1年を振り返ってみると、今年に限って言うとメタルシーンの動きというよりも、コロナ禍の影響で自分自身の音楽に向き合う環境が大きく変化したのが一番大きかったかなと。

①在宅勤務メインとなったことにより、作業BGMを流すことが日常化。1日の中で音楽に触れる機会が大幅に増えたこと
②業務量や通勤の煩わしさが減り、時間と心の余裕が出来たことで、音楽に積極的に向き合うマインドが高まったこと
③ストリーミングサービスの使用頻度が格段に増え、アルバム単位でより多くの新譜と向きあう習慣が出来たこと

 その結果として、例年ならスルーしていたような未知のアルバム/サブジャンル/アーティストに触れる機会が大幅に増えたことは良かったものの、ベストアルバムのセレクションという意味では正直かなり難航。悩んだ末に今年は思いっ切って25枚のアルバムを選出してみました。音の方向性的には結構バラバラですが、強いて視点を挙げれば「越境精神」「職人による匠の技」といったところが、今年のセレクションのキーワードといったところでしょうか。これ以外にも良盤は多数あったものの、最後は単純に「アフィニティの高さ」「聴いた回数の多さ」で選出しています。

まずはトップ10から。

 01. Code Orange / Underneath
 02. Killer be Killed / Reluctant Hero
 03. Liturgy / Origin of the Alimonies
 04. Bring Me The Horizon / Post Human : Survival Horror
 05. Anaal Nathrakh / Endarkenment
 06. Mr. Bungle / The Raging Wrath of the Easter Bunny
 07. Dizzy Mizz Lizzy / Alter Echo
 08. Jesu / Terminus
 09. Kvelertak / Splid
 10. Conception / State of Deception

 1位は、20年代の新たなメタルサウンドを見事に提示したCode Orange。前作”Forever”がグラミー賞にもノミネートされ世界的にはかなり注目されましたが、正直実験精神が勝ちすぎてしまい、アルバム全体の楽曲クオリティの平準化という点ではいま一歩の印象だったけど今回は違う。まず元NINのクリス・ヴレンナのゲスト招集が大正解。ConvergeやDellinger Escape Planにも通じる狂気を含んだハードコア・メタルサウンドを基調にしながらも、前面に打ち出してきたインダストリアル/ノイズ要素によって、楽曲の狂暴性が更に向上。またダウンビートでの重いウネりが強調されてた前作に比べ、リフやリズムのシャープネスが強化され、サウンド全体の躍動感が三倍増しに。結果、激烈にイカれた音ながらも聴後感はキャッチーという唯一無二のサウンドの確立に成功。これはもう断トツのNo.1選出ですね。
 2位は、Mastodon、Soulfly、Dillinger Escape Plan、Convergeという今のメタル界を代表するバンドのメンバーが参加したKiller be Killedの2nd。スーパーグループ系は大抵イマイチというのが今までのパターンだったけどこのユニットは違う。とにかく楽曲のクオリティが高く、聴けば聴くほど新たな発見のある非常に味わい深い作り。1曲の中で上記バンドのエッセンスが随所に顔を覗かせるものの継ぎ接ぎ感は皆無。その見事なアレンジセンスはまさに匠の技と言えるんじゃないでしょうか。
 3位は、Hunter Hunt-Hendrix率いるNYの「超越的ブラックメタル」を奏でるLiturgyの5th。毎度違ったアプローチをしてくる彼等、今回はブラックメタルのイディオム(トレモロリフ、ブラストビート、絶叫など)を活用した交響曲といった趣で非常に面白い。発想のユニークさだけでなく、アヴァンギャルドなのに何度もリピートしたくなるような音自体に親しみやすさがあるとこが素晴らしいですね。
 4位は、皆大好きBring Me The Horizon。ここ最近はデジタルポップなサウンドに移行していて、正直そんなに熱心に聴いてはなかったんですが、コロナ禍を意識したであろうタイトルの付けられた本EP(とは言え9曲入り)は冒頭からハードコアな突撃曲(ギターソロの切り込み方はまるでSlayer)で大興奮。デジタルナイズされたシャレたアレンジは全編に渡って施されているものの、とにかく攻撃的なムードのBMTHが復活しているのが嬉しいですね。エッジの効いたギターリフと”Amo”での非凡なポップセンスの融合が楽しめるってのは結構自分的にはBMTHの理想形かも。Babymetalとのコラボ曲M6も良い出来。
 5位は、UKのエクストリームユニットAnaal Nathrakhの11th。Anal Cuntみたいなふざけた名前で不真面目な音楽をやっているかと思いきや、実に真面目にエクストリーム・メタルの「良いとこ取り」をしている職人集団(アナール・ナスラックという名前も映画「エクスカリバー」に出てくる呪文から取っており、アナルではないので!)。今回のアルバムでは勇壮なメロディを大胆に取り入れているので、Blind GuardianやAmon Amarth的な感覚で聴けるんじゃないでしょうか。ちなみに自粛版ではないアートワークはマジで酷いです。全く笑えない下品さってのはたちが悪いですね…。
 6位は、マイク・パットンが在籍する変態バンドMr Bungleが80年代に作ったデモテープを、デイヴ・ロンバード(Dr)・スコット・イアン(G)の力を借りて再録音した企画モノ。垂涎のこのメンツでお分かりの通り、過去3枚のカタログとは異なる(その3枚もそれぞれ全然違うけど)、全編スラッシュサウンドのオンパレード。本気でちょっとイカれたスラッシュやっちゃってますね。SOD的な軽快さとSlayer的な殺傷力が同居するサウンドが面白いです。
 7位は、グランジーでメロウなハードロックが売りのデンマークのトリオDizzy Mizz Lizzyの4th。彼等らしい卓越したアレンジ、演奏センスは健在。更に今回は70年代プログレの大作主義に加えて、ティム・クリステンセン(Vo/G)が最近影響を受けたというポストメタル、ドゥームメタル、ブラックケイズなどの要素を巧みに織り込んだ、過去最高のダイナミクスが感じられるサウンドに仕上がっている。マーク・ポートノイがお気に入りというのも納得ですね。
 8位は、シューゲイザー/ドゥームゲイズ/エレクトロニカの第一人者・ジャスティン・ブロードリックのプロジェクトJesuの6th。Godflesh時代からちっとも上達しない不安定なヴォーカルだけど、この浮遊感溢れるアトモスフェリックな音には妙にマッチしてるんだよなあ。今回の目玉はM2。あのジャスティンがこんなポップでキラキラした曲を作るとは!と驚くこと必至の名曲。ちなみにアルバム全体のテーマは「拒絶/依存/究極の孤独」だそうな。全然暗くはないんだけど、アートワーク同様に、薄明るい空間にポツンと独り漂ってるかのような孤独な心持ちにはさせられますね。
 9位は、ノルウェーの国民的ロックバンドKvelertakの4th。Voはチェンジしたものの違和感は全くなし。基本は小気味良いロックンロール。そこにハードコアパンク、様式美メタル、ブラックメタル、ドゥームメタルなどの要素をぶちまけて大暴れしたかのような、とにかく威勢の良いサウンド。Rise Records移籍の影響が吉に出ているようで、リフやコーラスが耳に残るキャッチーなメジャー級サウンドに仕立て上げています。ライヴが楽しそう。
 10位は、Kemelotで活躍していた実力派ハイトーンVoのロイ・カーンが復帰したConception23年振りの5th。彼等にメロパワ路線を期待した人(Conceptionの本質的魅力はそこじゃないのに…)には肩透かしの作品かもしれないですが、彼等ならではの「暗く妖しい風変りなメロディ」と「緊張感漲るヘヴィでテクニカルな演奏」の妙味がじっくりと味わえる快作だと思いますね。Queensryche ”Rage for Order”やDream Theater "Awake”あたりの「素直に展開しないメロディと緊張感漲る雰囲気」が好きな人にお勧め。

 続いて、11位~20位まで。

 11. Primal Fear / Metal Commando
 12. Trivium / What the Dead Men Say
 13. Paradise Lost / Obsidian
 14. Heathen / Empire of the Blind
 15. Imperial Triumphant / Alphaville
 16. Katatonia / City Burials
 17. Elder / Omens
 18. Loathe / I Let it in and It Took Everything
 19. Pain of Salvation / Panther
 20. Hum / Inlet

 11位は、いま最も信頼できるパワーメタルバンドPrimal Fearの13th。創作能力、パフォーマンスのいずれも今がバンド最盛期であることを感じさせる会心の1枚。
 12位は、メタルコアのベテランTriviumの9th。メロディ、楽曲構築力、演奏のどこを取っても、凡百のメタルコアバンドとの格の違いをこれでもかと見せつけてくれてます。
 13位は、ゴシックメタルの重鎮Paradise Lostの16th。ウルトラヘヴィなドゥームメタルに歴史的名盤”Doraconian Times"期を彷彿とさせる耽美性が見事に融合
 14位は、ベイエリア・スラッシュのベテランHeathenの4th。クラーゲン・ラム(G)が全曲作曲を担当してるせいか、クランチーなリフで押し切る曲が減り、より展開が滑らかになりエピックなフィーリングが強くなってます。
 15位は、NYの前衛ブラック・メタル・バンドImperial Triumphantの4th。全世界で大絶賛されてるのも納得の芸術性・前衛性の高い変態メタルサウンドが楽しめます。
 16位は、スウェーデンのゴシック/プログレメタルバンドKatatoniaの11th。「都市の埋葬」というタイトル通りの、メランコリックなのに都会的な洗練を感じさせる作品です。
 17位は、アメリカのドゥーム/ストーナーバンド・Elderの5th。もはや鳴らしてる音のジャンルとしてはサイケ/プログレのオルタナティブな解釈といった趣き。凄い進化っぷりですね。
 18位は、UKのDeftonesチルドレンLoatheの2nd。やたらとエモいのに混沌と狂暴性を感じさせる新時代のメタルで、1位のCode Orangeとも共振性あり。本家の新譜より全然良いんじゃないですかねえ。
 19位は、スウェーデンのプログレメタルのベテランPain of Salvationの11th。昨年登場した大名盤Leprous”Pitfalls”にも通じる雑多な要素を取り込んだコンテンポラリーなサウンドテクスチャーの中で、プログレ的情緒性とオルタナ的変態性を炸裂させています。
 20位は、アメリカのポストハードコア/シューゲイザーバンドHumの22年振りの5th。当時自分の触手に引っ掛からず本作が初対面ですが、シューゲイザー的イディオムだけでなく、ポストロック、ニューウェーヴ、オルタナと多彩な音楽的引き出しが味わえます。

 そして最後に21~25位の紹介。

 21. Uniform / Shame
 22. The Ghost Inside / The Ghost Inside
 23. Vader / Solitude in Madness
 24. Raven / Metal City
 25. Hjelvik / Welcome to Hel

 21位は、NYのノイズ/インダストリアルバンドUniformの4th。90年代前半のUnsaneやJesus Lizardを彷彿とさせる殺伐とした轟音が心地良いです。
 22位は、LAのメタルコアバンドThe Ghost Insideの5th。叙情的なメロや分かり易いシンガロングパートの入れ方が抜群に巧い。人によってはハードコア色が強く聴こえるかもしれないですね。
 23位は、ポーランドのデスラッシュの重鎮Vaderの14th。11曲29分。潔いまでの猪突猛進作。でも全曲同じに聴こえない工夫が素晴らしい。爽快!
 24位は、元祖スピードメタルの大ベテランRavenの14th。マイク・ヘラー(Dr/元Fear Factory)の加入は大正解。手数の多いモダンなリズムによって、楽曲の「ハッチャけ感」が明らかに増していると思います。
 25位は、元KvelertakのVoアーランド・イェルヴィックのソロユニットHjelvikの1st。Kvelertakにメロデスやバイキングメタル的要素を入れて濃厚にした感じ。ギターフレーズの叙情性にEdge of Sanityの懐かしい空気を感じましたね。

 長々と書いてしまいましたが、百聞は一見に如かずですので、25枚の各アルバムから1曲ずつピックアップしたYouTubeプレイリストも作ってみました。良かったら聴いてみてください。


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