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『なぜ君は総理大臣になれないのか』ー東京で異例のヒットとなったドキュメンタリー。小川淳也議員の17年は、すなわち日本の17年だった。

トップの写真は、なぜ君公式ツイッターから拝借しました。

SNSツイッターで「なぜ君は総理大臣になれないのか」というタイトルを見かけたのは、もうかれこれ2ヶ月くらいは前になるのか。なにやら政治家を追ったドキュメンタリらしい。主人公は、小川淳也議員。大変に不勉強ながら、よく知らない方でした。

わたしは多分、普通一般よりは、ドキュメンタリ映画を見ている方だと思う。ごく若い頃に『さよならPC』(原一男監督)という障害者の社会解放運動を撮った映画を札幌のイメージ・ガリレオでたまたま見て、自分でもびっくりするくらいの衝撃を受けた。以来、ドキュメンタリ映画は、すごいもんだ見た方がいいんだ、と擦り込みになったらしい。

いろいろなドキュメンタリ映画を機会があるごとに見てきたが、内容はともかく、このジャンルに共通するのは、お客が少ないことである。滅多なことでは話題にもならないし、ましてや大ヒットなどしない。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』という文字列を見た時。すぐに良いタイトルだなと思った。キャッチーで内容はよくわからないのに、ツイッター上においては、見慣れている「総理大臣」という名詞と、それに「なれない」というひっかけフレーズで、どういう意味なんだろう?と興味がわく仕組み。どの業種でもSNSでの戦略が売り上げに直に結びつく昨今、タイトルはものすごく大事。

新型コロナの影響で、ネットを見ている人が通常よりもさらに増え、経済的不況と相まって政治的な関心が高まっていたのもタイムリー。#投票に行こう! とか#〜法案に反対します! とかツイッターデモも盛んになっていた。

複数の要因が重なって、この一見して地味な政治家を追ったドキュメンタリ映画は東京は東中野のミニシアターポレポレから火がつき、若者を中心に異例のヒットを広げ、ついに札幌までやってきた。

まあ札幌のサツゲキ!には、数人のお客さんしかおらず。いつもの通りではあったんだけど…。でもわたしの前の席に、10代かと見える、とても若い女の子が座っていた。誰もいない真ん中の席に。一人で。

ドキュメンタリ映画を見に来て、こういう現象は、体験したことはなかった。ましてや政治の映画である。通常は、白髪まじりの70代、60代の人たちで小さいシアターは埋まってしまう。劇映画の『新聞記者』だって札幌ではそうだった。わたしが見た時は、若い人など一人もいなかった。

今回は、情報の流れ方が、ツイッターを主としていたため、利用していない中高年にはいまいちピンとこなかったのかもしれないし、意識高い系の人たちには「小川淳也」というどちらかと言えば中道右派の地味な議員には、興味がわかなかったのかもしれない。

前置きが長くなっちゃった。そのようにして異例の小ヒットとなった『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、大変に面白い映画であり、そしてやっぱりタイトルがいいなと思った。

ーなぜ君は、総理大臣になれないのかーという問いは、2003年32歳、東大から総務省のエリートコースを捨て、香川1区、当時の民主党から出馬、得票数では強敵自民党平井議員に勝てることなく、比例枠で当選。衆議院議員となり、以来流浪する民主党とともにー民進党ー希望の党ー無所属ー立憲民主党会派ー自身も流浪しつづけることになった、小川淳也、個人に向けられ。

そして同時に、2003年小泉政権以来、民主党政権を経て、安倍自民党一強の時代を長い間過ごすーわたしたちの全てーすなわち、この社会全体へ向けられている。

小川淳也は、一見してはじめから「イケメン議員」である。なのに同じジャンルーカテゴリーに入るはずの小泉進次郎議員とは、世間的な認知度は雲泥の差というか天と地の差というか、全然全く違う。そういう売り方をしていないし、各メディアもとりあげないからだ。

小川淳也は、総務省官僚出身として、日本の経済、将来に対する見通しをしっかりと把握し論理的に解釈し、そのための法案を具体的に提示している。何にもしてないのに人気だけあって環境大臣とかになってる小泉進次郎とかとまた全然全く違う。なのにやっぱりなんら世間的には認知されていない。わたしも映画を見るまで知らなかったように。(統計王子と呼ばれていたのが、小川議員だったとわ!)そういう事実もまた、一般メディアはなんら取り上げないからだ。

ーなぜ君は総理大臣になれないのかー小川淳也が政治を志して17年。わたしたちの国=わたしたちは、彼のような政治家を「政治家だ」とは認めてこなかったのだろう。いや17年どころでない。はるかずっと前から、高い志を持ち、国民のために本当に働きたいという個人の情熱は、何かもっと冷淡で冷笑的な水を浴びせられ、消火されてきたのではなかったか。

映画の中で幾度も聞かれる「小川さんは政治家に向いてないのでは?」という問いは、即座にまた、では一体どんな人間が「政治家に向いているのか?」という問いになる。

小川淳也が政界に出た時代は、すでに2世議員が国会の総体を占めようとしていた。17年後には、国会の3分の2を占拠しようとする自公の議員は、ほぼほぼ二世三世でいっぱい。政界は「世襲議員のサークル活動」とすら揶揄され、実際その通りなのが現実だ。

そこに「政治家にむいている」もへったくれもない。個人の資質など、なんら無関係、はっきり言っても言わなくてもどうでもいい。地盤を引き継ぐ坊ちゃん嬢ちゃんであれば国会議員になれるし、そういう人間しか、なり手がいない状況でもあるのだろう。

そんな特殊で異常な特権意識と、世間を知らない上に、学歴があっても勉強しない無知無教養な人間ばかりの場所に、小川淳也は、たった一人で飛び込んだのである。香川の美容院の息子ー国会議員17年目になっても3LDK家賃47,000円のマンションに住んでいる。

まあなんていうか、一言で言えば「バカ」ってことになるんでしょう。バカな男だようって、そのまま官僚でいれば高級取りで、大きな家に住んでただろうにって。奥さん家族にだって苦労もさせなかっただろうにって。なんでわざわざ国会議員になんかなろうとしたんだって。

小川淳也は、答えるだろうー国民のため、日本が良くなるため、それだけです!

ーなぜ君は、総理大臣になれないのかー

その答えを、探し、現す役目があるのは、彼ではない。

わたしたちは、一体全体、どんな人間に総理大臣になってもらいたいのかー

多くの「日本国民」の人生の中で、おそらくは、一度たりとも考えたことのない問いを。問い直す時は、たった今しかない。















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