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オトナは変わるのか?企業人が「当事者意識」を取り戻す"越境"の作法

皆さん、こんにちは!
リディラバの清水と申します。

D061_草間彌生「花咲ける妻有」撮影中村脩_2160

突然ですが皆さんは、「俺、変わったな」、または「アイツ、変わったな」と感じた瞬間はありますか?
多分、あると思います。人は長く生きていれば、環境に応じて自然と変化していくものです。

では、「私、自分を変えることが出来たな」、または「アイツを変えることが出来た」と感じた瞬間はありますか?
こちら、めちゃくちゃ難しいことなのではないでしょうか。
特に、自分ではない誰かをあるべき方向に「変える」というのは、人の心の奥底に入り込むことでもあり、ただ難しいだけではなく「そんなことをして良いのか・・・?」という葛藤すらあると思います。

しかし、それを「仕事」としてやらなければならないのが、大企業の人材育成部門の方々です。
とんでもなく困難なミッションを突き付けられています。

今、社会は大きなうねりと共に変化し続けています。
右肩上がりの成長期はとっくに終わり、「人口縮小期の課題先進国」という未知の領域にこれから日本は突っ込んでいきます。
少子高齢化の歯止めは利かず、税収は減り、国内のマーケットは縮んでいくようにしか見えない。
昨日まで「正しい」とされていたことがガラガラと音を立てて崩れているのに、その中で企業は「成長」を宿命づけられている・・・

企業は今、社会の変容に応えられる人材、正解を誰かから貰うのではなく自ら「解」を生み出す人材を育てなければ、既存事業を守り抜くことも、新しい事業に勝ち筋を見出すことも出来ない。
その人材要件は、ほぼどの企業も

与えられた課題を決められた作法で解決する"改善型"から、自ら「課題を設定」して「周囲を巻き込む」ことのできる"変革型"へ

未知の領域に飛び込み熱量をもち続けて事業を推進できる「当事者意識」

未来社会の動向やニーズを機敏に感じ取って、社会起点で理想状態を想起し、意味ある価値を生み出すことのできる「ヴィジョン・メイキング」

といったような概念でまとめています。
ここまでは一定認識が揃いつつあるのが、ビジネスセクターの現状です。

では、どうやってその方向に社員を"変えて"いけば良いだろうか・・・
というのが、今、人材育成部門の人たちが「考えろ」と指示されていることです。改めて、本当に厳しい状況だと思います。

「オトナを変える」という無理難題

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私自身、新卒から数年間はゴリゴリの大企業ですくすくと育ってきました。

高度成長期を生き抜いてきた大企業には、勝ち抜くための作法が組織の隅々にまで染みわたっています。
いかに他社を出し抜く速さで、いかにコストを抑えながら、いかに決まった手順を正確にこなしていくか。マーケットの均一性が高い時代だからこそ、オートマチックに組織を動かすことこそ「勝ち筋」であり、そんな組織の一員になれる人が「望ましい社員像」でした。

そのような環境でずっと育ってきたオトナに、「社会が変わってきているので、皆さんも変わる必要があります。宜しくお願いします。」と伝えても、頭では理解できるかもしれませんが、なかなか普段の仕事には落とし込めないものです。
長年叩き込まれてきた「正解」がいきなり「明日からは不正解です」と言われても・・・というのが社員の偽らざる戸惑いなのではないかと思います。しかも、周囲の仲間たちも同じ状況なので、なかなか"変わらなければ…"という焦りも出てこない。

そのため、最近では「慣れ親しんだ会社の外に飛び出して、強烈な体験を得て、"変わらなければいかん"と自ら気づくような、『価値観の揺さぶり』をかける」という手法が注目されています。
同質性の高い集団にいるだけでは、社会という「外」に目を向けることも難しく、ましてや自分の所属している集団(=会社)を相対的に見ることもできない。お前、これから会社背負っていくんだから、一旦外に出て武者修行してきなさいよ。期待を込めて厳しい外界に送り出し、ボロボロになりながらも無事に帰ってくることを祈る・・・。
これが「越境」と呼ばれるものです。

社会の変容に伴う、求められる産業人材の変化・・・このままでは我が国の産業全体が危うい・・・経済産業省も大企業の人事と同じ焦りを抱えています。
そんな彼らが旗を振って打ち出したのが「未来の教室」実証事業です。
私たちリディラバも含めて、企業のオトナを社会課題の現場に叩き出して、深い気づきを得て帰ってきてもらう、というプログラム開発を推進してきました。

なぜ「社会課題」がオトナを変えるのか?

リディラバを代表して初めに断言させて頂きますと、社会課題はオトナを変えます。これは本当に断言できる。

私たちリディラバは、"社会課題をみんなのものに"をビジョンとして、2009年の団体発足以来、企業・学校・国・自治体といったあらゆる分野のステークホルダーと、全国あらゆる分野の社会課題の現場をつなぎながら、「関心」をベースとした社会課題解決の仕組み構築を推進している団体です。
一言で言うと「社会課題オタク」です。

今の世の中をもっと良い方向にしていくためには、まずは世の中の出来事に「関心」を持ってもらうことが極めて重要と考えています。
そのために、あれやこれやと社会課題をうまく「使い」ながら、事業に換えていくことにチャレンジし続けています。

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プログラムを作る時に拘っているプロセスは、どの事業でもほぼ共通しています。

① とにかく現場に触れ、実際の課題や当事者、そして何よりも「課題解決に向き合っている人たち」と接し続けること
② 問題が発生する複層的な要因や力関係といった「構造」と、ひとり一人がリアルに感じている「想い」を、どちらも欠けることなく往復して考え続けること
③ 往復しながらも、問題を「自分自身」にはね返して考えること
④ 「解決」まで拘り抜くこと

といったところです。
これが「越境」のポイントに、ダイレクトにつながっています。
少し回り道をしながら説明させて下さい。

ちょうど先日、内閣府事業として開催した社会人向けのリーダー育成プログラムで、参加者のお一人が最後の振り返りとしてとても印象的なことを仰っていました。

(このプログラムは)社会の課題について考えているようで、実は自分の課題に向き合っていた

この言葉がすべてだなあとしんみり思いつつ、無粋ながら私なりに考察してみます。

社会課題とは、日本や世界が本気で向き合うべき、しかし解決の道筋がついていないからこそ課題として残り続けている、「未知」・「未踏」の領域です。
企業の人たちにとっては、これまで身につけてきた仕事の手順・作法が通用しない、真っ裸のゼロベースで向き合うことになるフィールドです。業種も年齢も性別も、何もかもが関係なくなる状態で。

社会課題の現場を訪れると、そこには例えば、ただひたすらに自分の田んぼに向き合い続けながら「俺が死んだらこの田んぼはどうなるのか・・・」という困りごとを抱えている農家の方がいます。
そして、その状況を何とか打破したいと心から思い続け、誰も味方のいない状況からチャレンジを続けてきたプレイヤーがいます。そのプレイヤーを支えてきた人たちがいます。
このような「課題」や「人」との出会いが、社会課題に本気で向き合う最初のスイッチとなります。
(=①)

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そして、課題の現状を知れば知るほど、整理すればするほど、色んな要因や、色んな人の想いが複雑に絡み合っており、外から訪れた我々が一朝一夕に「ここをこうすれば良い」と、普段の仕事のようにテキパキと処理できる状況ではないことが、じわじわと見えてきます。
東京の、都会の、企業の論理を持ち出せるほど簡単な状況ではない。だからこそ「社会の課題」として残り続けているのだということに気づきます。
(=②)

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そして、これが一番困ったことですが、社会課題には正解が存在しません。どれだけ時間をかけて、どれだけ色んな人にヒアリングして、どれだけ過去の文献をあさっても、誰かが正解の方向を教えてくれるわけではない、ということに気づく瞬間があります。
(=③)

結局は、「"自分が"どういう社会にしたいのか?どのような信念を実現したいのか?何者になりたいのか?そのために何から脱却し、どのような壁を突破しなければならないのか?」といった、自分自身の深い想いを参照しなければならない・・・と気づく瞬間に、誰もが立ち会います。

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つまり、主語が「誰かのために」ではなく「自分がどうしたいのか?」に移り替わる瞬間があるということです。
これこそが、社会課題において最も重要な「当事者意識/自分ごと化」の発露で、リディラバが最も大切にしていることであり、企業人の「越境」において最も重要な瞬間です。

最初の話に戻ると、これからの時代は、「正解」を追い求めるだけで今まで通りの成長曲線をたどることはもう出来ません。
かといって、「正解がないから自分で"解"を生み出す人材になって下さい。お願いします。」と誰かに言われても、本当の意味で変わることにはならないのだと思います。結局、誰かを"思い通りに変える"ことは難しいのかもしれません。

しかし社会課題には、他の誰でもない"自分自身"と向き合うことを否応なく迫ってくる力があります。
それこそが、個人が自ら変わろうとする原動力であり、企業側が切望する「成長」の源泉であり、社会をもっと良い方向に変えていくきっかけです。

だからこそ、プログラムを終えた時のひとり一人の心に残っているものには違いがあります。
人それぞれ、当事者意識に目覚めるポイントは異なり、誰かに言われた訳ではない「自分の言葉」だからこそ、その後の真のコミットメントに繋がると私は考えています。

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以下は、昨年の多業種合同・人材育成プログラム「Field Academy」参加者の声です。
「プログラム参加前と比較して、あなたの普段の仕事に関して、心境・行動の変化等、気づいたこと・感じたことを自由にお書きください。」
という質問に対して、皆さんがそれぞれの角度で語っています。
(「原さん」というのは、参加者が3カ月伴走し続けた現場のパートナーの方です。)

 大手企業、且つ管理部門では、物事のやるやらないは合理的な根拠に基づいて判断されることが常で、その確からしさをいかに作り上げていくか、を毎日考えていたのですが、「弱者側に立つ」「誰もやりたがらないことやる」ということを“やる”と判断している原さんの話を聞いたり実際に取り組んでいる姿を見て、頭を殴られたような感覚を持ちました。
 課題に対して真っ直ぐに向き合い、前例もないしお金も人もいないしで難しいかもしれないけど、これが上手くいったら多分世の中が変わるんじゃないか?というようなことをやり続けていることに、物凄く価値を感じました。
 自分自身は世の中に対してちゃんと真摯に向き合っているのか?それをだれにとって何の価値をつくっているのか?本当にその価値は生まれているのか?と、日々の仕事で考えるようになりました。
(大手人材サービス・女性)
 リーダーの認識が変わった。目標設定時、なりたいリーダー像は”先導”していく人だったが、今は”先頭”を行く人がリーダーだと思っている。
 原さんの“僕がやらないと誰もやらないんですよね”という言葉は重く、誰もやらないことを先頭に立ってやっていける人になりたいと思う。
(大手電機メーカー・女性)
 CANではなくwillの視点で仕事に取り組むようになった。
 これまでは、この企画で何ができる?(CAN)という視点から仕事に当たっており、与えられた枠、自分の経験、世の中にすでにあるものという“既存の枠組み”の中でのボトムアップ型の思考だったように感じる。
 この研修参加後は、この企画で何がしたいのか?(wil)という考えで臨むようにしている。ボトムアップでなく、ある意味トップから考えることで、思考の枠を越え、何よりもそこに当事者意識や主体性が芽生えるため、課題設定も含めて自分ごととして取り組める。また現状の枠内を越えるため、自分も磨かなけば価値あるものにならないので、自己の成長にもつながる。
 社会課題だけでなく、これからのビジネスは正解がないと言われている中、現状の思考の枠を飛び越えるようなwillの発想で今後も取り組んでいきたい。
(大手小売業・男性)

その後に話すことも多いですが、みんなそれぞれ、プログラムを終えて時間が経っても、この時の自分の言葉を大切にしながら日々の仕事に驚くほど主体的・創発的に向き合い続けています。

誰かから教わることなく、"外で"自分のアンテナを使ってキャッチした感覚を、「自分の言葉」に落とし込んで"中に"持ち帰っている点こそ、後に残り続けるほどの価値があると感じています。
これこそが「越境」の本質であり、社会課題との相性の良さではないか、とリディラバは考えています。

最後に、企業人向けの長期プログラムでは、「体感・体験」だけでなく、実際に課題解決の提案をするという点までやり抜くことを徹底しています。
「社会の問題とは、自分の問題」でありつつ、社会を変えるためにはどんなに苦しくともアウトプットに拘らなければならない。つまり、社会に対して、自分が課題だと思うことを提起して、合意を取らなければならないということです。
(=④)
ここで成功した/失敗したという原体験もまた、本業に戻っても火をともし続けながら次につなげていく原動力になると考えています。

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もっと、オトナ"たち"を変えていくために

とはいえ、オトナという個人ではなく、「オトナたち」という集団を変えていくためには、もう1つ山を越える必要があるとリディラバは考えています。

社会課題への「越境」によって、オトナは自分の大切な信念を見出し、価値観をリフレームしながら日々の仕事を変革することが出来ます。
しかし、オトナたち(=企業)が「判断に悩むときに、厳しくとも本質的な方を選択できる」とは、まだ正直言えません。組織として意思決定する時に、今までの事業の論理から抜け出すことは相当厳しいと思います。

それは何故かといえば、「社会にとって本質的に"良い"と思えることが、事業の成長と繋がっていない」ためです。
企業の本質はやはり事業です。事業を通じて社会・市場に価値を示し、そこから適切なフィードバックが得られなければ、企業としての存在意義を失ってしまう。つまり儲からないとダメだ、ということです。

遠い目標に思えるかもしれませんが、リディラバは「社会課題に取組むことで儲かる社会」を本気で実現しようとしています。

例えば、一般の方向けにオンラインサロンや、社会課題特化のwebメディアを運営しています。

例えば、中学・高校の修学旅行の一環として、社会課題の現場を訪れるスタディツアー・プログラムを提供しています。

世の中に「社会にとってより良い選択肢を選び取れる人」を一人でも増やすことが、企業活動に直結すると考えています。

他にも例えば、企業・国・自治体と協働して事業開発・政策立案を行っています。

もっとダイレクトに、社会課題に取組むことが「得」になる仕組みを作ろうとしています。

私たちは、人材育成が専門の、いわゆる"研修屋"ではありません。
繰り返しますが「社会課題オタク」です。
社会課題オタクであり、社会課題の”価値”を愚直に信じ続けている集団です。

リディラバが設立以来つくってきた社会課題プログラムは、300種類・延べ参加人数1万人を超えています。
とにかく社会課題に拘って走り続けているうちに、いつの間にかこれほど多くの現場やプレイヤーの方々とつながりを持つことが出来ました。

そんな団体だからこそ、企業の人たちにとって本当に意味のある、会社に持ち帰る価値のある「越境」の機会をお届けすることが出来ると確信しています。

送り出し元キックオフ_写真 (1)

2020年度は、人事としても厳しい状況であることは知りつつ、オンラインとオフラインのハイブリッドでプログラムを敢行しました。
そのような中で、7社の大企業の皆さまに賛同いただきました。
今までの前例が何一つ通用しない中で、ああでもない、こうでもないと議論しながら、そして時にはプログラムの話も超えて人事の未来を語り合いながら、一緒にプログラムを創り上げることが出来ました。

2021年度もプログラムを立上げ、引き続き企業の皆さまと一緒に創り上げていく覚悟をスタッフ一同決め込んでいます。
是非、ご関心を持って頂いた企業の方からのお問合せをお待ちしています!

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