麦畑の中の心象風景

幼い頃住んでいた家の近くには一面に麦畑が広がっていました。小学校１年生の私は友達とその麦畑に入り込んで遊んでいました。麦は私の背丈よりずっと高くて空を覆い隠していました。

そんな麦畑の中で忘れられない記憶があります。いつものように友達と麦畑の中を歩いている時、突然目の前に上級生の女の子が現れました。びっくりしました。それまで麦畑の中で人に出会うことなどなかったからです。

上級生は私と友達に「〇〇のこと知ってる？」とクラスメートの名前を言って聞きました。「知ってる」と友達が答えたその時です。上級生は私たちそれぞれの頬に平手打ちを食らわせたかと思うと、私が手に持っていた箱を奪い取り、中のものを地面に撒き散らして無言で立ち去りました。箱の中には友達と私が作った紙の人形が入っていました。

何が起こったのかわからず呆然とする友達と私。麦の根元には人形が散らばっています。

あとで知ったことですが、上級生は私たちが名前を聞かれた子のお姉さんだったのです。仲良しのクラスメートでいつもは三人で遊んでいましたが、たまたま前日にちょっとした言い争いをしてその日は遊ぶのをやめていたのです。おそらくそれを知ったお姉さんが私たちに「制裁」を加えたのだと思います。

クラスメートとはその後すぐに仲直りをし、以前のように遊び始めました。お姉さんは妹思いだったのかもしれませんが、私にとっては強烈な出来事でした。何十年経った今も鮮明に記憶しています。