性欲の不条理

こんにちは、シンヤナオです。

突然だが私には結婚を前提にお付き合いしている女性がいる。私よりもひとつ歳上の女性だ。

まだ付き合ってそう長くない彼女と過ごす上で思い出した、あるいは再確認する羽目になった“不条理”をここに書き連ねることにする。

これは私から男性に対してでなく、まして女性に対してでもない。言わば『神』への文句であり、生物学的に言うのであれば、ここまで研鑽を積んで研ぎ澄まされて来たはずの人体遺伝子への決して届かぬ異議申し立てだ。



【交錯する欲求】

私と私の妻になるかもしれない女性の間に起こった問題は『性交渉意欲の不一致』である。

一応、念を押しておくと、私は人並みにセックスが好きである。しかし、それが災いして彼女にしたくもないセックスを強要することによって問題が起きているわけではない。

むしろ逆なのだ。まずはこれを見てほしい。


私がこのグラフを初めて目にしたのは20代前半だった。その時は信じなかった。

脳から常に発せられる『セックスをせよ』という至上命令によって猛り狂う情熱の炎は消えることはないと信じた。しかし盛者必衰、大火は徐々にその威容を失いつつある​────

そう、恐らくだが現在の私は彼女の要求に対して十全に応えることが出来ていないのである。



【不条理】


30代半ば、未だに私はセックスが好きではある。したいかと訊ねられればへらへら笑って『したい』と答えるだろう。しかし欲求の衰えは『優先順位』に現れた。

何もかもを犠牲にしてもセックスがしたかった20代。睡眠不足になろうが、疲労でヘトヘトになろうが、時と場所を選ばず機会さえあればそれに臨んだ。正確に言えば臨む準備があった。実際は自分の部屋の布団の中でモゾモゾしているだけだったかもしれないが。

ところが今は『疲れるくらいならセックスなんてしたくない』『睡眠不足になるくらいならセックスなんてしたくない』と、こうなってしまった。セックスをするのに翌日が仕事かどうかを気にする、実に嘆かわしい男になってしまった。

たとえるなら、2km先にあるラーメンを食べるために歩みを始められるマインドはもう私にはないということだ。ラーメンがとびきり美味しいことは分かっている。2km歩いてラーメンにありつきたい欲求の強さよりも、往復4km歩かなければならないという現実が私の足を凍りつかせるのだ。

30代女性の性欲、それは私達男性が20代の頃に求めた積極性そのものだったはず。


なぜ今なのだ。なぜ交錯する?


遺伝子は種に最も繁栄をもたらす進化を自動的に選択し、更新し続けた設計図のはずだ。男女をより効率的にセックスさせる設計になっていないのはおかしいじゃないか。

男性の性欲が隆盛を極める頃、同じ年頃の女性もまた同じように性欲が高まる、単純にそれでよいではないか。

男女の性欲が交差する一点を除いては、常に男女どちらかが欲求不満になってしまう人体の仕組みを、不条理を私は許せない。



【性欲減衰の意図】


今になって私は女性の卵子が経年によって質を落とすことを思い出した。

そうだ、数え切れない程の生命を紡いで来たDNAが生存戦略に反する選択をするはずがない。

もしかすると男性の精子も30代半ば以降で劣化を始めるために、奇形児等のリスクを下げる目的で意図的に性欲を減衰させられているのではないかと思ったのだ。

そしてそれはどうやら当たっているようだった。


医療法人オーク会 不妊ブログより

これは17000人の不妊治療患者を検査したデータだ。DFIが損傷精子の割合、OSAが酸化による影響を受けた精子の割合、HDSが未熟精子の割合となっている。

端的に言えば、これは加齢によって精子の質も低下していくということを示唆している。

なんだ、不条理でもなんでもないじゃないか。男性の性欲減退は一種の安全装置として働いているわけだ。

意地の悪いストーリーテラーが気まぐれに紡いだものではなく、きちんと意図してデザインされたものだった。前言を撤回しようじゃないか。





​────は?やっぱりおかしいだろ


前言撤回を撤回する。

男性の性欲減衰については納得した。それなら女性の性欲が30代を境に上昇傾向にあるのはどう説明する?

母体が年齢を重ねれば重ねるほど奇形児や先天的障害を持つ子供が生まれるリスクが高まることは広く知られている。ならば何故遺伝子は男女共に20代を発情期とし、妊娠と出産をするための期間とする設計にしなかったのかだろうか。



【文化に追いつかない進化】

私はこう推理する。

人間の男性は浮気をする前提で設計されている


つまり男性1人に対して女性1人が番になり子孫を残すと考えるから非効率に感じるのだ。

若い雄は出来るだけ多くの雌と交尾をして種をばら撒き、若い雌は自分から要求せずとも寄ってくる雄を厳選して受胎する。

ピークを過ぎた雄は質が落ちた種をばら撒くのを控えるべく欲求を減衰させ、逆にピークを過ぎた雌は集客力が落ちるため欲求を高めて積極性を増すことによって補完しようとする。

こう考えれば実に優れたシステムなのかもしれない。ただし、このシステムは現代社会においては効率的に機能していない。

人間の雌は何万年も前から1人の雄を選ぶ設計図になっているが、男性は未だに不特定多数の女性と関係を持つことを是とした設計になっている。

結婚や交際などのパートナーシップはせいぜいここ千年程度のごく短い時の流れに生じた文化であり、人間の男性の進化はまだそれに対応出来てはいない。だから男性は愚かにも浮気をし、本能は気に入った雌を見かければとにかくセックスをすれば良いというメカニズムのままなのだ。女性の方は遠い昔から交わる雄を一人に絞るやり方をしてきたので進化は必要ないのだから、結婚や交際は女性のための制度であることは疑いようもない。

人間の男性が現代社会に則した進化するためには一体どれだけの時間が必要なのか​─────

水辺に生息域を移した両生類の手足に水掻きが現れるのは一体いつなのか。案外数千年程度でそのように分岐した生物が生まれるのかもしれない。

しかし、そういった小型の生物とは違って人間は子孫を残すライフサイクルに最低でも20年はかかる。これでは進化の速度も相当遅いだろう。昆虫などがいい例だ。彼らは1年程度で代替わりするため進化のための試行回数を短い時間で稼ぐことができ、種に反映させられるが人間ではそうはいかない。



【総括】


遺伝子が連綿と引き継いできた設計は間違ってはいないが、結婚や交際といった女性には進化を要求せずに、男性だけに進化を要求する制度がつい最近の人間社会に登場し、その摩擦を男性は受けている。

性欲の交錯は『男性は不特定多数とセックスをせよ』という古い設計図に基づいたもので、直近千年の人間社会にそれは当てはまらないため、現代人男性にとっては不条理に感じられる。

以上のように私は結論づけた。

つまり私が文句を言うべきは神でも遺伝子でもなく『制度』ということになる。

一応述べておくが、私は男性が浮気をして良いという免罪符のつもりでこれを綴っているわけではない。私は浮気を憎んでいる。

結局のところ、私が不条理と断じた『性欲の交錯』とは、私自身の望む現代社会の実現によって生じた歪みであり、受容すべき痛みでなのかもしれない​────

と、このように考えて男性の性欲が過大だった時分に親切心で股を開いてくれる20代の女性はどこにも存在しなかったし、今も存在しないだろう。

つまり立場が逆になっただけで、私は彼女の欲求に対して無理をしてまで応える道理は無い。若い女性が、気分が乗らない時にセックスの誘いを拒むように当然の行いなのだと理解したことをもって結びとしよう。

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