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擬似相関に惑わされない適切なKPIを設定する方法


ゲームアーキテクトの米元です。
今回は、社内メンバーが執筆した記事を公開させていただこうと思います。



擬似相関に惑わされない適切なKPIを設定する方法


リリース中のゲームを改善する際、改善に必要なKPIはどのように設定していますか?

KPIを設定するにあたって、データ分析の結果見つかった数値を、マジックナンバーとして設定することもあると思います。

《補足》
マジックナンバーとは、アプリの運営における(継続利用や収益などの)重要指標が飛躍的に向上するカギとなる条件のこと。Twitterの「30人以上をフォロー、10人以上からフォローバック」や、Facebookの「10日間で7人と友達になる」などの例。

マジックナンバーは、一見、アプリの運営に大きな飛躍をもたらすようなカギに見えます。しかしながら、KPIにマジックナンバーを安易に設定することは非常に危険です。なぜなら、そこに強い相関関係が見られたとしても、実は因果関係の全く無い擬似相関である可能性があるからです。

つまり、それらしい示唆が出たからといって、その数値をマジックナンバーとしてKPIに置いてしまうと、いくらそのKPIの改善に取り組んでも、アプリ自体の目標の達成のためには全く効果が無いということになってしまいます。

 

擬似相関に陥らないためには


KPIを設定する上で、そのような擬似相関に陥らないためにはどうすればいいでしょうか。
「ユーザーの継続率を高める」という指標を達成目標として考えてみましょう。
ユーザーの継続率を高めるためには、現在ゲームを継続してプレイしていないユーザー、あるいはゲームの継続を途中でやめてしまいそうなユーザーに、ゲームをプレイし続けてもらわなければなりません。ですので、その点を念頭にKPIを設定していきます。

ここで、適切なKPIの設定が分かりやすいよう、先に誤ったKPIの設定の例を紹介します。
ゲームのデータを分析した結果、DLから7日以内にギルドに加入したユーザーの継続率が高いという結果が得られたとします。
それを踏まえて、全体の継続率を高めるために、「DL直後からギルドへの加入を積極的に勧めるミッションを作る」というKPIを設定するとします。しかし、このKPIは擬似相関に設定されているため、目標である継続率上昇を達成するような効果は出ません
では、なぜこの関係は擬似相関なのでしょうか。


疑似相関に陥ってしまう理由


一般に、擬似相関に陥ってしまう原因には、交絡因子という第三の変数の存在があります。
交絡因子は、要因と結果の両方に影響を及ぼすものであるため、本来は全く関係の無い要因と結果に妥当性があるように見えてしまう原因になります。
そして、相関関係にある2つの変数に、交絡因子が絡むことにより、交絡因子とそれぞれの変数間には因果関係があるため、交絡因子を除いた時にもその2つの変数間で因果関係があるように見えてしまうのです。これが擬似相関です。

つまり、先程のギルド加入の例が擬似相関である理由は、「DLから7日以内でのギルドへの加入」と「継続してプレイすること」のどちらにも、「ユーザーのやる気」が交絡因子として存在しているからです。

やる気があるユーザーはDLから7日以内でギルドに加入するし、継続してプレイもする。
そのため、ギルド加入と継続したプレイの間に因果関係があるように見えてしまいがちですが、そこには相関関係はなく、擬似相関を信じ込んだ結果、間違った施策を行ってしまう……そのようなカラクリでした。

そして、「やる気がある」というのは、当たり前ですが、一人ひとりのユーザーで度合いが異なるものです。そのため「ユーザーの継続率を高める」というユーザー全体に向けた目標の達成には、上手く影響してくれません。

それではこの場合、どうすればいいのでしょうか。

それには、この「ユーザーの継続率を高める」というKPIを捉え直すことが大事です。ユーザーがどうすれば継続的にプレイしてくれるのかではなく、継続してプレイしないユーザーがいる原因を特定することの方が、より重要になります。 

ユーザーが継続的なプレイをしない原因を分析した例


では、継続してプレイしないユーザーがいる原因を特定できた場合のKPIの設定、そしてKPI達成のための行動指標の設定までの流れを考えてみましょう。

例)ユーザーの継続率を高めるため、分析を進めた結果、クエストでの離脱が多いことがわかった。そこでユーザーの離脱が多いクエストを特定する。
①まずクエストプレイUUを調べる
②調べたクエストプレイUUを、直前に挑戦したクエストのクエストプレイUUで割り、クエスト継続率を算出する
③クエスト継続率を算出した結果、クエスト2の継続率が悪いことが判明した

例 クエスト継続率の算出結果

④この結果から、クエスト2を一度プレイした時点からクエスト3をプレイするまでの過程に、ユーザーが離脱する何らかの原因があることが推測できる。

このような流れで、ユーザーの離脱が多いクエストを特定することができました。
ここで考えられる、ユーザーがクエスト2で離脱してしまう原因としては、
・クエスト2が難しくて、プレイするのを断念してしまった。
・クエスト2はクリアしたが、その次のクエスト3への誘導が適切でなかった。
・クエスト3の情報を見たユーザーがプレイする気を失くしてしまった。
などが考えられます。

これらの分析で、「ユーザーの継続率を高める」という達成目標に対して、「クエスト2の継続率を高める」というKPIが設定できました。そしてそこから、先程挙げたような、離脱する原因として考えられる項目を、KPI達成のための行動指標に設定しました。
こうすることで、業績達成指標から行動指標まで落とし込むことのできた、非常にロジカルな指標を設定することができました。




目標達成に向けてKPIを設定することは非常に重要ではありますが、きちんと目標に効果のあるKPIかどうかに注意して設定しないと、改善に向けた取り組みが全く無意味なものになってしまうということもあります。

特に、既にリリースしているアプリゲームの場合は、改善に必要なデータがたくさん揃っているはずです。そのため、そのデータを目的を持って分析し、意味のある示唆出しをして、KPI・行動指標に反映させることを意識していただければ、擬似相関に惑わされず、ゲームの改善がより適切に行えるかと思います。


《参照した記事》

【事例】安易なマジックナンバー分析で疑似相関に陥らないよう注意! - YuRAN-HIKO (hatenablog.com)



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