「で、この学生の出身地は?」(小説の作法)
大学2年のときです。30枚の短編を書きました。大学に入ったばかりの女性が主人公です。
学生が集まって、先生から批評を聴く場でのこと。先生がその主人公の出身地を尋ねたんです。
「君みたいに自宅から通ってるわけ? 上京組? 一人暮らし? 寮?」
「え……」
焦る私。なんとなく浮かんだ人物、いってみれば自分に似た人物でしたが。
出身地はどこ、なんて考えもせず書いてました。
「決めてない?」
「はい。まったく考えてませんでした」
いやー、恥ずかしかったですねえ。他にも学生いたし。
(まあでも、みんなもギクリとしてた。仲間だったわ(笑)。)
そのとき言われたこと。
「同じ「東京の大学に入学したての女子」でも。関東在住、自宅から通ってきてるのか、上京組か」
「上京組でも、長崎で生まれて大阪で育ったか、生まれも育ちも北海道か」
「そういうので、人間、見える景色も考え方も感じ方も話すことも、全然違ってくるはずだ」
「別に『私はどこどこで生まれました』と文で明示しなくてもいいんだが、読んでいて、どうもキャラクターがはっきりしない……っていうのは良くない」
「キャラの伝え方以前の問題。そもそも作者が考えてないんであれば、伝え方も何もあるわけない」
「設定は、自分そのまま使ったっていい。友達を参考にしたっていい。自分あるいは身近な存在がモデルのほうが書きやすいだろう」
「いきなり想像で沖縄出身にしたって失敗する。設定で無理をすると嘘くさい人間になるからな、気をつけるように」
「とにかく人物の背景は大事だ。出身地に限らず、どういう家庭に生まれ育ったのか。両親の夫婦仲は、出身は、学歴は、家の経済状況は。本人の成績は。小さい頃はどんな子だったのか。趣味、嗜好は…」
「なぜなら、人はそういう要素から、今のその人になってるからだ」
「きちんと人間の肉付けをしておかないと、薄っぺらい人物になってしまう」
というような。
いやー、目から鱗でした。はあ、そうなんだー、言われてみればそうだよなあ、って。
ただし、自分をモデルにしたからって自伝を書けってことじゃないぞ、とも言われました。あくまでも人物像。
「自伝は偉人のものだから、読む価値がある。大抵、普通の人の過去をひたすら綴っても面白くないからな」
だそうです。
いや、自分の経験書くなってことじゃないですよ。
「やるなら自己の体験をもとに創作せよ」っていうこと。
(たまに新人賞の規定に「ただし自伝的小説は除く」と書いてあると、あー、あれだな、と思います。でも規定で示すってことは、自分史を書いてくる人も多いんでしょうねえ、きっと。)
というわけで、人物が描けてないと言われる、自覚している人は、人物を描こうとする前に、
「そもそも、自分は人物をちゃんと設定してるのか?」
と考えてみるといいと思います。
(1142字:無料 ※空白と改行は除く)
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