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「危機言語としての日本手話」

高嶋由布子(2020)「危機言語としての日本手話」国立国語研究所論集18, 121-148. http://doi.org/10.15084/00002544

論文が出ました。待ってても誰もこれを書いてくれないので書きました。

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この論文は,手話研究を始めて以来,上のような状況がずっと続いていて,毎回説明するのに疲れてきて,仕方ないので自分で書きました。落ち着け,とりあえずこれを読んでくれ,と言えるものが欲しかった。(とくに言語学者に)

日本手話が消滅危機言語なのではないか,ということは,この本に入っている,赤堀・岡「手話が言語だということは何を意味するか―手話言語学の立場から―」にも示されていますし,新しい見解ではありません。

ただ,それを言うためには,「日本手話」をそれ以外の手話使用から線引きして取り出さないといけません。そこで,論文では,それが誰に話されていて,どういうふうに線引きして取り出せるものなのかについて論じています。

私は,論文の中でも書いたように手話というコミュニケーションの形態自体は今後も残っていくだろうと考えています。けれども,発展した都市型手話としての「日本手話」は消滅の危機に瀕していると考えています。

日本手話を研究している人間としては,あんまり悲観的なことを書くのもためらわれたのですが,とりあえずこの「線を引いて取り出す」ことをしないと,研究対象が定義できないのです。またその研究対象がどうして重要なのかをしっかり書かねばなりません。「危機言語」として研究しないといけないのではないかといいたいので,「どうして日本手話は危機言語だと言えるのか」に答えました。

論文の中で触れ忘れてますが,これと連動した感じで考えています。

日本学術会議(2017)提言「音声言語及び手話言語の多様性の保存・活用とそのための環境整備」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t247-9.pdf

また,松岡和美先生が,2015年に「日本手話で学ぶ手話言語学の基礎」という本を出版しています。言語学者は母語話者の文法を研究対象にするものだから,ネイティブサイナーの日本手話を研究対象にする。手話の使用にはいくつかのタイプがあってどういう特徴があるかということまでは書いてあります。ただ,それらは「ほかのものを研究対象にしない」ことの説明で,「それ以外」のものがなんなのか,それらと日本手話の関係はどういうものなのか。ネイティブサイナーを特別視するのはなぜなのかは,理論がわかっていないとわからないでしょう。

すると,理論がわからない,言語学者でない人たちからは「他の人たちが使っているものを無視するのか」みたいな感じでこうなります。

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あと,意外と説明するのが厄介なのが同様にマイノリティの消滅危機言語をやっている人たち。本当に瀕死状態の言語は,バイリンガル状態で主流派言語と混ざって使用されてることもあるけれど,「年配のモノリンガル話者」に絞っていたらにっちもさっちもいかなくなるし,その人たちも話者だからね,と調査対象にしてます。これと対応手話の話者はどこが共通していて何が違うのかも気にしなければなりません。

今回の論文がどこまでこれらに答えられてるかはわかりませんが。

……

この論文を「書ける」と思えるまでは,言語発達の話を一応まとめておくという布石を打っています(そして去年はその話を書いてしまったがゆえに,東奔西走していました)。

↓この本に「手話と聴覚障害児のコミュニケーションの発達」という章を書いてます。我ながら,短い字数にものすごい情報量が詰まってます。

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雑にまとめると,これはこういう感じのレビュー。(詳しく知りたい方は読んでください)

……

なんかいつもこんな感じで戦ってます。3月にまた共著論文が出ます。そっちのほうがだいぶ戦ってる感じなので,こうご期待。

「危機言語としての日本手話」はこちらから無料で誰でもダウンロードできます。よろしくお願いします。

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