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Spotify様が全てを支配する明確で適切なプレイリストピアに死ぬ

Photo by UnsplashMartin Sanchez

Spotifyの公式プレイリストの話。

Hyperpop。この2020年に生まれたムーヴメントは、Spotify公式プレイリストが牽引した。

Spotifyは、ある特定の音楽をラベリングして、新たなムーヴメントを公式プレイリストを通して提示できる。その力は、ほかのメディアよりはるかに強い。サブスク・サービスのシェア率トップ。その公式プレイリストは、その他のメディアや個人のプレイリストよりも上位に表示され、優遇される。

プレイリストの世界では、Spotifyはただの音楽配信プラットフォームではなく、ムーヴメントを牽引するメディアである。Hyperpopがそれを証明した。

Spotifyの公式プレイリストはどのように作られるか?

Spotifyの公式プレイリストの背景には、膨大なデータがある。

グレン・マクドナルドは機械学習を使って曲を分析する。テンポといった譜面的な内容のほかに、「ダンサブルか」「エネルギッシュか」「ハッピーか」「悲しいか」といった主観を数値にする(1)。それに、アーティストの情報や、リスナーの属性や行動を用いて音楽を分類する。その一部はSpotify APIで提供されている(2)。そのデータの集大成がEvery Noise at Onceだ(3)。Every Noise at Onceには5000を超えるジャンルがのっている(Oshare keiというヴィジュアル系のスラングまである(4))(5)。Every Noise at Onceでは、ジャンル同士・アーティスト同士の音楽的共通点が距離で示されている。ある特定のデータ傾向を持つアーティストに、共通したリスナー群がついていればそれはシーンとみなされる。場合によってはジャンル名がつけられ、プレイリストとなる(1)。

プレイリストは随時更新される。初週はエディターがピックアップするようだが、その後は随時リスナーの反応データによって変化していく(6)。リスナーが何度も聴いてくれればプレイリストの上位に来る。人気プレイリストの上位に名前が来れば、一晩で数十万回のストリーム、すなわち数千ドルの収入が生まれる(7)。にもかかわらず、広告費を払ってこのプレイリストの上位になることはできない。数多くのストリームを生むには、リスナーにスキップをさせず、次の曲を聴かせ、長くSpotifyに釘付けになってもらい、広告の再生回数を増やし、広告がうざすぎてプレミアム会員になりたいと思わせる魅力的な作品を作るしかない。

公式プレイリストは上位に表示される。データに基づいたプレイリストは、そのジャンルのリファレンスとして、認識をコード化し、調整しつづける。

すばらしい世界である。

明確な指標による適切なプレイリスト以後の世界

Spotifyが提示するジャンル観は、いままでのライター個人ないし各種メディアが打ち出してきたジャンル観よりも、はるかに客観的で、確かだ。だから、今後EMOのようなジャンルが生まれたとき、真のEMO議論に巻き込まれることもない。Pg 99とマイケミじゃあ主観的特性もリスナークラスタも違うからだ。この世界では、マイケミやその類似アーティストには適切なジャンル名が与えられ、プレイリストとしてまとめられる。プレイリストは共通認識として共有できる。どれがエモで、どれがそうじゃないかなんて、プレイリストをみれば一発だ。その明確な認識のもと、リスナーの反応によってアーティストは民主的な手続きで適切に評価され、再生回数という明確な指標をもとにストリーミング代が支払われる。アーティストの継続的な活動に繋がる。Spotifyは全てのアーティストのファンベースが拡大することを望んでいる。だから、Spotifyは、イギリスの皮肉屋が新興シーンを「シューゲイザー」という音楽とまったく関係ない言葉で揶揄したり、聖飢魔Ⅱに0点がつけられたり、みたいなことはしない。アーティストも、リスナーも、Spotifyも、まさに三方よしだ。

何が問題だ?

たしかに、PanopticonとConvergeが同じPost-Doom Metalに押し込められてるなんて何かが狂ってるとしか思えない。Visual keiタグの最初にONE OK ROCKが出てくるのも噴飯モノだ。だが、それは全てSpotifyがこの世になかったからなんだ。PanopticonとConvergeは近い存在。これはデータが導きだした確かな事実なんだ。彼らが出てきた背景や、一聴した音楽形式が違っても、だ。だから、ONE OK ROCKはヴィジュアル系なんだ。リズム隊の二人がGLAYが好きだとか、化粧がどうとかは関係ない。主観的データとリスナークラスタがそう示している。それがすべてだ。Spotify以後の世界では、それが真実なんだ。

何が問題だ?

人間関係がない?いや、違うね。人間関係は必ずBPMや主観的特性に反映される。リスナークラスタにもだ。さっきメンバーの好みや見た目が関係ないといったのも訂正しよう。そうした要素も間接的にデータに反映されるだろう。 文脈がない? 何の文脈だ? もしかして一部の雑誌の一部のライターが描いた? それともリスナー個人が勝手に導きだした? それはSpotifyの膨大なデータよりも確かなのか? 自信をもって言えるか? そんな文脈は破棄して新しい適切な文脈を採用したほうがいいんじゃないのか? Arch Enemyをアーク・エネミーと長くまちがった読み方をしていたとして「それが日本の文化だから」とそのままにしておくのは正しいのか? それに、A.G.CookがHyperpopに文脈を持ち込もうとしたら、批判を受けたことは?(7)

仮にSpotifyが間違っているとすれば、それは適切なデータがないからだ。つまり、もっとSpotifyを使えばいい。みながストリーミングすればするほど、Spotifyはデータを手に入れられる。そのデータは適切なジャンル認識をもたらす。ああ、A.G.Cookだって、データに従っていればあんなことにはならなかった!

公式プレイリストに従っていれば、リスナーは自分の好みに基づいた適切な体験を得られる。もし物足りなかったらEvery Noise at Onceをみてくれればいい。隣のジャンルだって、もっとも遠いジャンルだって、選びたい放題だ。そうして君が回遊すればするほど、アーティストへもお金がいく。シーンも潤う。当然、Spotifyも。

プレイリストピア。ここはプレイリストの楽園だ。

で、何が問題だ?

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