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2010菅 正樹(花園大学1年)

「新星」 

じつは「新星」ではない。
菅正樹は、全日本ジュニアにも2002年からずっと出場しており、中学生になってからは2004年が7位、2005年5位、そして中3になった2006年には優勝している。
高校時代にも3年間、インターハイに出場。2008、2009年と、2年連続準優勝している。押しも押されぬサラブレッド選手だ。

ただ、彼が所属していた高校、日出暘谷高校(大分県)は、今でこそインターハイ常連校だが、強豪校というほどではない。そんな高校だった。菅が在学していた3年間は、団体でも毎年インターハイに出場しているが、14位、8位、5位。着実に順位をあげてはきているが、優勝が宿命づけられている、というチームではなかったようだ。県立高校ということもあり、わりあいのびのびとした部活動で、菅は高校3年間を過ごしてきたのではないかと想像する。

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もちろん、能力は高い。技術もある。大学1年生としては驚異的な選手、だと言っていい。今年のインカレで、私は菅選手の演技を初めてちゃんと見た。そしてメモには、どの種目も「うまーい!すごーい!」「手具も体もよく動く~」と、感嘆のコメントがあふれていた。
じつは何年も前からすごい選手だった菅正樹だが、私にとってはまさに「新星」だったのだ。
菅の演技には、本当にスキがない。タンブリングのキレがよく、スピード感もあり、なによりも手具操作が巧みだ。ロープの動きの速いこと! リングの止まらないこと! 目を見張るばかりだった。あえて不足を見つけるならば、大学生としてはまだ「見せ方」へのこだわりが薄いかな、そのくらいだ。うまいことは間違いないが、個性というほどの際立ったものはまだ見えない、そんな気がしたのだ。
それでも、インカレは、落下はクラブだけ。1年生にして見事10位に入った。
そして迎えたオールジャパン。1種目目のスティックで、菅はいきなり素晴らしい演技を見せる。技術は文句なしで、ノーミス。さらに、バイオリンとギターの旋律が耳に残るかっこいい曲を、リズミカルに踊り感たっぷりに演じきったのだ。インカレで、最初に菅のスティックを見たときには「華やかさは今一歩」と私はメモしている。しかし、その3ヶ月後、彼はすでに別人のように、魅力的な選手に変身していた。
リングでは、落下場外があり、8.900と点を落としてしまったが、リングの足キャッチなど、手具操作の見どころも多い、濃い演技を見せた。1日目を終わった時点で21位。2009年のオールジャパンには、高校生で出場して17位だった菅にとっては、大学1年生のオールジャパンとしては不本意な順位だったのではないかと思う。

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しかし、この新星は、2日目に「超新星」ぶりを見せる。
ロープでは、まるで魔法のようなロープづかいで魅せた。Aさんメモには「うまい! うますぎる!」、Oさんも「タンブリング中にロープを持ち替えたり、多彩!」と書かれていた。とにかく彼のロープはすごい! 動きも操作も詰まっているのに、後半になるにつれてどんどんのってくるのだから、おそれいる。なんとも爽快感のある演技で、9.300をマーク。じりっと順位もあがってきた。


最終種目のクラブ。これも、なにもこわいものがないかのような思い切りのいい手具操作と、大きな動きで圧巻の演技。菅はわりあい小柄な選手なのだが、演技中は本当に大きく見える。それだけ、動きが大きく、フロアもめいっぱいに使っているのだろう。9.325をマークし、最終順位は8位まで上がった。2日目の種目はどちらも種目別決勝にも残った。おそるべし、1年生! である。

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Aさんメモにあったコメントが菅の魅力を言いえていると思う。「いい意味で花大ぽくない」・・・これだ。昔から個人の強い選手が多い花園大学には、現監督の野田光太郎を筆頭に、「表現力の花園」というイメージがある。もちろん、技術もあるのだが、それ以上に「表現」や「個性」にこだわる、そんなカラーがある気がするのだ。今年のジャパンで優勝した北村も、3位の谷本もそういう系統の「花園大学らしい」選手、という印象を私はもっている。
しかし、菅はちょっと違うような気がする。インカレからジャパンまでのほんの3ヶ月でも、表現力の向上はたしかに見られた。その点もこの先おそらくより開花していくだろうし、それは楽しみではある。
だが、一方で、タンブリングのキレのよさ、動きの大きさ、手具操作の巧みさなど、いわゆる「男子新体操らしい」能力にここまで恵まれている菅が、その能力をどこまで伸ばしていくのか、が楽しみでならないのだ。大学1年生の今でさえ、ここまでの技師ぶりを見せる彼なら、大学4年生になることは、とてつもないことができるようになっているんじゃないだろうか、と。そんな風に期待してしまう。

柴田翔平選手の例を挙げるまでもなく、じつは手具操作の巧みさは惜しみなく賞賛する傾向のある私にとって、菅正樹はまさにピカピカに輝く「新星」だった。少なくともあと3年は、彼の演技が見られるだろうと思うと嬉しくてたまらない。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。