揮発性メメント・モリ

昨日、よく行く喫茶店の金魚が死んだ。
不味い珈琲を入れる店で、いつまでたってもエスプレッソの言えないウエイトレスがいる。俺はそれでもエスプレッソを頼み、無愛想なウエイトレスはそれを置いていく「エソプレッソとなります」もう本当はエソプレッソなのかもしれない。金魚は死んだ。
こうしてエソプレッソを飲みに来るのもこれで最後になるだろう。窓からは外の冷気が染み出している。向かいの薬局に鎮座しているテトラちゃん人形は、昨日よりもわずかに右に傾いていた。世界は変化しているのだ、俺はここ三年ほどそのことをすっかり忘れていた。午後に雨が降り出したり、木の葉の色が変わったりってそういうのは変化ではないのだ。命あるものの揺らぎこそが変化なのだ!
部屋に帰って、コンピュータのスイッチを入れる。卒塔婆アクチュエータが回りだす。三途チャネルが開くのを待って、アクセス。俺は金魚に語りかける。
「死後の世界ってどんな感じ?」
【続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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