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2月21日発売『吉田健一ふたたび』内容紹介

2月21日に冨山房インターナショナルから発売される川本直・樫原辰郎編『吉田健一ふたたび』の内容を目次にそって紹介します。

https://www.amazon.co.jp/dp/4866000570/

巻頭は樫原辰郎の撮影による、今は人手に渡ってしまった吉田健一邸の写真の数々が飾っています。市ヶ谷の鬱蒼とした森に囲まれた吉田健一邸の外観、ご息女・吉田暁子さんが吉田健一の生前のまま保存していた書斎(なんと煙草の吸い殻までそのまま!)の写真が満載です。

「文学の楽しみ」を生涯にわたって唱え続けた吉田健一。川本直による「はじめに」は吉田健一に倣って、原点に立ち帰ろう、文学を楽しむことからふたたび始めよう、というマニフェストです。

「Ⅰ対談」川本直樫原辰郎が2017年1月6日にサロンド冨山房Folioにて行った対談「健坊、文士になる――吉田健一の生涯」です。吉田健一の生涯を初学者にもわかりやすくざっくばらんに辿り、解説しています。樫原辰郎によるユーモアたっぷりの文学史の薀蓄に注目。

「Ⅱ 批評1(随筆)」は随筆を論じた宮崎智之白石純太郎の批評を収録しています。
宮崎智之による「吉田健一の執着と自己表現の地平」には「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」という吉田健一の言葉が引かれています。故国喪失者・吉田健一が如何に自己表現にたどり着いたかを初期の随筆を中心に論じた重厚な批評です。
白石純太郎による「交遊する精神の軌跡」は『書架記』、『交遊録』、『文明に就て』、『思い出すままに』という後期の随筆を「一九九一年生まれ」という若き吉田健一読者の視点から論じた清新な、しかし若さに似合わず骨太な批評です。白石は本書がデビュー作となります。

「Ⅲ エッセイ1」は宮崎智之が珠玉の随筆「或る田舎町の魅力」の舞台・児玉への珍道中を綴った抱腹絶倒のエッセイ「「或る田舎町の魅力」に導かれて――吉田健一が愛した児玉という町」を収録しています。『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』でファンになった方は必読です。

「Ⅳ 批評2(批評)」は吉田健一の批評を論じた渡邊利道渡邉大輔の批評を収録しています。
渡邊利道による「孤独な場所で――吉田健一と日本文学」は孤独な先行者だった吉田健一と日本文学の関係をつぶさに論じた批評です。いち早く大衆文学を擁護した吉田の姿勢に注目したのは、SF出身の渡邊ならではと言えます。吉田の思想の根本にあるヴァレリーやヒュームの影響も紹介されています。
渡邉大輔「『時間』の窪地に」は吉田健一の批評の中で最も難解とされた『時間』論です。これほどわかりやすく『時間』を論じたものは後にも先にもありません。渡邉は吉田の批評を「肯定の知性」と位置づけ、小林秀雄から柄谷行人・蓮實重彦に至るまでの「批判的知性」と対置させています。

「Ⅴ エッセイ2」には川本直が『文學界』2017年3月号に発表したものを改稿し、自らの批評観を交え、売却寸前の吉田健一の邸宅を訪ねた顛末を綴った「吉田健一邸を訪ねて」が収録されています。吉田健一のご遺族の証言によって明らかになった吉田健一と三島由紀夫の最後の邂逅についても触れています。

「Ⅵ 批評3(小説・翻訳)」は吉田健一の長編小説、短編小説と翻訳を論じた批評が三編収録されています。
樫原辰郎による「吉田健一の長編小説に就て」は吉田の六篇の長編小説をヌーヴォー・ロマン、マルセル・プルースト、ジェイムズ・ジョイスと比較した批評で、タイトルも文体も吉田健一へのオマージュで、吉田の「実存主義的」ではなく、「唯物論的な」歴史観を明らかにしています。
仙田学による「こういう積み重ねがなくて人間はどこにもいることにならない」は連作短編『旅の時間』を詳細に分析しています。『ツルツルちゃん』、『盗まれた遺書』、「愛と愛と愛」といった著作で知られる異能の小説家、仙田学自身の小説の方法論を語った批評でもあります。仙田学ファンは必読です。
川本直「楽園からの逃亡」は吉田健一の名訳で知られるイーヴリン・ウォーの『ブライヅヘッドふたたび』を論じ、吉田の翻訳の特殊性とその限界をも指摘した評論になっています。『新潮』2016年12月号に発表したものを大幅に改稿しています。

「Ⅶ 講演『吉田健一と文学の未来』」は2017年7月17日、東京大学駒場キャンパス十八号館ホールで行われた武田将明さん、富士川義之さん、柴崎友香さんによるシンポジウム「吉田健一と文学の未来」を収録しています。序文にあたる「イントロダクション」は武田さんによるものです。
富士川義之さんは「吉田健一という生き方」で、「英国」と「文学」をキーワードに、吉田健一の謦咳に接した者として、その生き方を畏敬の念を込めて語っています。アンソロジー『吉田健一 饗宴 (日本幻想文学集成)』を編んだ碩学による王道の吉田健一論です。
柴崎友香さんの「吉田健一の東京、小説の中の場所」は「場所」をキーワードにした圧巻の小説論です。「いまは失われたけれども、またいずれ失われるけれども書くことによってだけそこに蘇らせることが可能になったその場所」=東京を描いた小説として、『東京の昔』が読み解かれていくさまは見事です。柴崎さんご自身の小説論でもあるこのエッセイは、柴崎さんファンならずとも必読です。
そして、本編の最後を飾るのは武田将明さんの「吉田健一と「英国」と文学」です「記号としての「吉田健一」の呪縛」から冷静に距離を取り、その「英国」観をアカデミックに検討しつつ、最後は批評的に跳躍して吉田健一の文学観の本質に迫る堂々たる評論です。

巻末の「Ⅷブックガイド」樫原辰郎仙田学渡邉大輔武田将明宮崎智之渡邊利道白石純太郎興梠旦川本直が担当。現在新刊で入手できる吉田健一の著作37冊を書評しています。急遽ピンチヒッターで参加して戴いた興梠旦は本書がデビュー作となります。

「おわりに」樫原辰郎によるあとがきです。この本の成立とコンセプトについて書かれています。なお、本書『吉田健一ふたたび』は企画段階から編集者の竹田純さんがお手伝いして下さいました。記して感謝します。ありがとうございました。

『吉田健一ふたたび』は対談、批評、エッセイ、講演、ブックガイドのどこから読んで戴いても構いません。著者一同「吉田健一の著作に触れたことがない読者にもわかるように」という方針に基づいて執筆しました。高校生でも大学生でも理解できます。本書ほど吉田健一入門にうってつけの本はありません。
Amazonでの予約は既に開始されています。是非ご予約ください。よろしくお願いいたします。


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