ざっくり法律解説・第07回 法律用語の「公共の福祉」ってどういう意味?

多分皆さん、公民や社会の授業などで初めて日本国憲法に触れたと思います。
そして、その条文の中に「公共の福祉」という不思議な言葉を目にしたことでしょう
この「公共の福祉」という、法律学としても、そして一人の人間としても大切な概念をわかりやすく法律用語なしで説明したいと思います
ちなみに、私は中学の時に、学校の先生から「公共の福祉」というのは、皆のためには時には我慢しなさいという意味だというような説明を受けましたが、全く違います。

法律的に言うと「公共の福祉」とは、人権相互の矛盾衝突を調節するための実質的公平の原理と言います。
ハイ、意味プーですね。
しかしこのnoteを読み終わった後に、再度この文章を読み返してみると、意味がすっと理解できます。


まず、憲法において保障されている、国民の権利についての条文において、いくつか「公共の福祉」という言葉が出てきます。

憲法

第12条この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第13条すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第22条何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

第29条財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

ハイ読みずらい!!
ということで法律用語を抜きにした条文の意味はこうです

第12条 憲法で国民に権利や自由を保障するけれど、権利があるからって放置しないでちゃんと自分で守ることも忘れないでね。必要に応じて権利侵害があった時は裁判所等適切な場所に申告したり、当人同士で話し合ったりして権利も自由も自分で守る努力はしようね
また、権利があるからって相手の人権や自由を侵害することはできないよ。常に「公共の福祉」を意識しようね

第13条、すべての国民は、1人の個人として尊重されることを憲法は保障します。みんなの命や体を守ることや、自由・幸福を追求する権利は、国会や政治の上でとても尊重されます。しかし、「公共の福祉」のことは意識してね

第22条、誰もが「公共の福祉」に反しない限り、住む場所を選んだり、住む場所を自由に選んで引っ越しすることができるし、職業も好きなものに就いていいよ

第29条 貴方が持っている現金・家・貴金属他、そういう財産といえるものはちゃんと権利を保障しますよ。だけど「公共の福祉」という目的で若干制限されることもありますよ

実は22条と29条の「公共の福祉」と、12条と13条の「公共の福祉」の意味は若干違います。
ざっくり言えばほぼ似たような意味です
しかし今回は、12条、13条の「公共の福祉」の意味を中心に解説していきたいと思います

わかりやすく法律用語なしで条文を書き直しても、「どうやら自分の権利や自由は、公共の福祉とやらの制限があるようだ」というのはなんとなくおわかりになったかと思います。
じゃあその「公共の福祉」とはなんなんだ、ということになりますね。
前述したように「みんなのために我慢しなきゃいけないこともあるよ」なんていう意味ではありません

実は、権利というのは主張することで、他人の権利を侵害してしまうという関係にあります。


具体的な例えで説明してみましょう
例えば、ある有名な俳優斉藤さんという方がいたとしましょう。ある日斉藤さんは恋人と一緒にいるところをパパラッチに写真に撮られ、雑誌に自分の意図しない形で恋人がいることを書かれてしまいました。

この時に、ぶつかりあう権利

●斉藤さんのプライバシー権

●出版社の表現の自由

になります。

誰もがプライバシー権=「自己の情報をコントロールする権利」を持っています。
それは芸能人でも同じです。ですのでこの場合も、斉藤さんは自分が恋人がいることを公表するかしないか決めたり、どのような形で公表するのかを決めたり、もしくは結婚した時にそれを公表するのか、どのような形で?FAXのみか、記者会見か、などを決めたり、もしくは結婚したことを公表しないと決める権利もあります
このように、自分の情報を自分でコントロールすることができる権利。それがプライバシー権です
今回の場合、斉藤さんは自分の意図しない形で、自分の情報を公開されているのでプライバシー権が侵害されていると考えることができます。

それに対して、雑誌社には自由に文章を書いて出版をする表現の自由が認められています。
中にはゴシップもあるかもしれませんが、政治家の不正を暴いて記事にするということができるのも雑誌社やマスメディアの権利であり自由であったりもするわけです。
今回はたまたま斉藤さんのプライベートなことを記事にしているので、表現の自由!?という風に感じられるかもしれませんが、雑誌社からしたら「ずっと清純派・独身と偽っていた斉藤さんが実は恋人がいた!ということを記事にしたい」と思って記事にしていること自体は、やはり表現の自由の範囲内ともいえると考えます

さて、これが裁判になった場合、

仮に斉藤さんのプライバシー権を尊重して、雑誌社に雑誌の自主回収を命じられた場合、雑誌社は雑誌社が持つ表現の自由を制限されることになります

仮に雑誌社の表現の自由を尊重するならば、斉藤さんの訴えは却下され、プライベートな情報を公開されてしまうことになり、斉藤さんのプライバシー権、自分の情報をコントロールする権利が制限されることになります

このように、誰かが権利を主張することは、誰かの権利を制限することになる、というが、権利の側面としてあります。

でも憲法では、人権や自由はできる限り尊重しますとあります。
じゃあこの場合どっちの権利を尊重するのさ?となった時に出てくるのが「公共の福祉」という考え方です。

「公共の福祉」という法律用語の意味は、このように権利というのは主張することで他の人の権利を制限することにもなるから、もし権利と権利がぶつかり合ってしまった場合には、どちらの権利を尊重すべきなのかはひとずつの事例・事件ごとに、具体的に考えていきましょうねという意味です

例えば上記の具体例の場合、もし斉藤さんが国会議員であったりした場合には、以降斉藤さんを政治家として信頼に足るかどうか、政治家としての資質を国民の皆さんに考えて欲しいという目的をもって雑誌社が書いたのだとすれば、これは雑誌社の表現の自由を、斉藤さんのプライバシー権より認めた方がいいんじゃないか、と考えた傾いたりしますよね
逆に斉藤さんがとても人気の俳優さんで、ただその恩恵にあずかって雑誌の売り上げをあげたいからと、あることないこと、それこそ恋人は既婚者であるかのようなでっちあげを書いて雑誌を出版していたりした場合であれば、いくら斉藤さんが清純派で売っていたとかであったとしても、斉藤さんのプライバシー権を、雑誌社の表現の自由より認めた方がいいんじゃないかって言う風に考えが傾きますよね

このように状況や事情、人物によってどちらの自由や権利をより尊重すべきなのかは、「絶対に表現の自由が大事!」「絶対にプライバシー権が大事!」というように一概には言えないので、ひとつずつ検討して、今回の場合はこちらの権利を尊重しましょう、今回の場合はこちらの権利がより尊重されるべきでしょう、と判断していきましょうということです

これが「公共の福祉」の意味です。
もうちょっと短く説明するならば、「公共の福祉とは、権利というのは主張するとその分他人の権利を侵害することもあるから、その時その時にどちらの権利がより守られるべきというのは、それぞれ事例ごとに検討していきますよ」という意味
最大限人権を尊重はするものの、その人権同士がぶつかりあうことを想定して「今回は相手の権利を尊重すべきなので、あなたの権利は今回だけ制限される」というようなこともありますよということです


さて、では冒頭にあった法律用語でいう「公共の福祉」の定義をもう一読んでみましょう

「公共の福祉」とは、
人権相互の矛盾衝突を調節するための実質的公平の原理

「人権相互の矛盾衝突」、というのは上記の具体例でなんとなくおわかりになりましたよね?
権利は時に他の人の権利とぶつかりあうことがあります。
そしてそうやって権利がぶつかりあった時には、
「実質的」=ひとつずつの事例ごとに検討していきましょう、
そして「公平」=国民の皆さんの権利ができるだけ公平に保障されるようにしましょう
という「原理」=考え方
のことを、「公共の福祉」といいます

だから、「公共の福祉」というのは、国民ひとりひとりの権利や自由が最大限保障されるように、ぶつかりあった時は、その時その時の事例ごとに判断していくという考え方で、より大きく、最大限保障されるようにしたいという理想を掲げているのが、憲法であるということになります

一概に「ゴシップ記事は全部プライバシー侵害」としてしまえば、公務員や国会議員などが不正をしたという記事ですらダメということになり、逆に国民のためになりません
また、「表現の自由は全て保障すべきだ」と決めつけてしまえば、今問題になっているヘイトスピーチ、そして主観的な悪口、罵詈雑言も何もかも憲法保障の範囲内ということになってしまい、なんだか言ったもん勝ちな社会になってしまいます
一概にどっちの権利が大事と、権利の優先順位をつけてしまった方が簡単です。いちいち権利がぶつかりあうごとに裁判だーこっちが勝ちだーあっちが負けだーだっていうことがありませんから
でもあえてそこを、具体的に、事例ごとに「今回の場合はどちらの権利をより尊重しましょう」と判断しようという「公共の福祉」の概念を採用したのかというと、それだけ、より沢山、広く、人権を保障するためなのです
そしてより、公平で、国民みんなが自由と権利を広く保障される国にしたいためです

ぱっと聞き「公共の福祉」というと「みんなの為には自分が我慢しなきゃいけない」という風にも聞こえちゃう言葉なのですが、全然違います
逆に、より国民の皆さんひとりひとりの権利をより広く尊重するために「公共の福祉」という考えが必要だよねということなのです

憲法というのはそうやって、より人権や自由を保障するためにはどうしたらいいか、どうしていきたいかというこを表明している法律です。
それがすべての法律の一番上にあり、最優先にされているのが、この国なのです。


憲法って、学べば学ぶほど、素敵な法律なんだなって思いませんか?
私はいつも「なるほどなぁ」と感動して勉強していました
人類が色々な人権侵害の歴史を重ねてきた上で、どうしたら誰もが幸せになれるのかを考えて作られているのが憲法です
人類の英知の結晶ともいえるのではないかと思います

もし心に響いたならば……投げ銭のひとつやふたつやみっつやよっつ!!よろしくお願い致す!(笑)