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【結の夢】ストーリー

春のうららかな日差しに包まれた午後。ここは高砂市高砂町戎町。昔から残る長屋の一室に白無垢姿の女性が静かに座っている。彼女の名前は結。結の周りには親類縁者が座っている。彼女はここから新たな一歩を踏み出すのだ。長屋ではお年寄りの世間話や笑い声。整体師さんのお話とコロッケのいい香りであふれている。子供たちも春の陽気に誘われて、元気に路地を駆け回っている。

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結は静かに外に出る。これから愛する人の待つ高砂神社に向かうのだ。高砂では昔から「出立ち式」といって、近所の人に見送られながら実家を出るしきたりがある。結は小さいころ母親から「出立ち式」の事を聞いていた。そしてかつて母親がそうであったように、自分もいつかは「出立ち式」でハレの日を迎えたいと「夢」みていた。

彼女がここまで来るにはさまざまな苦労があった。彼女はこの結婚が初めてではない。かつての結婚相手とは折り合いがつかず離婚をした。幸せな家庭を夢見た彼女であったが、シングルマザーとなり世間の荒波の中、一人で子供を育てなければならなくなった。いくら成熟した社会とはいえ、一人で子供を育てるのは大変な世の中だった。心の傷を負ったまま働くことの辛さ、頼るところも限られ仕事と育児を両立する辛さ。そんな彼女に同僚がそっと教えてくれたのが、高砂町戎町の一角にある「まちの保健室café」ここでは地域の人がいつでも出入りし、だれかれとなく子供たちの面倒を見ている。

結も他の母親と同じように子供を見てもらっている間に、整体師さんによる体と心のケアをしてもらう。ひとしきりすっきりした後に、整体師さんが作ってくれる料理は無農薬にこだわった体に優しいものばかり。

次第に彼女の心も癒され、このまちとまちの人たちが好きになり、このまちに住みたくなった。高砂市では古民家の橋渡しをしてくれる「アカシア不動産」がある。彼女もそこを頼り戎町に住まうことになった。
戎町の人たちは彼女と子供を温かく迎えくれた。子供が熱を出したときには近所のお年寄りが結に代り看病をしてくれることもあった。そんな日々を過ごす中、いつしか彼女は家庭の安らぎを求めるようになってきた。

「もう一度始めてみようか」

そう思えるようになった結は高砂の結婚相談所に相談してみた。親身になってくれるスタッフさん、そして高砂市内で働く男性とも数人出会った。その中でお互い惹かれあう男性と出会った。彼女の生い立ち、彼女の辛さ、そして彼女の強さ。すべてを包み込んでくれるような男性。そんな彼と結は歳をとっても一緒に寄り添いたいと思った。

そして、二人は今日「ハレの日」を迎えた。

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二人のための舞台を作ってくれるのはスウィートブライド。スウィートブライドは二人のための結婚式を一緒に考えてくれるプランナーさんが手掛ける会社。

二人のために用意された高砂神社で二人は永遠の愛を誓う。そしてその隣には「尉と姥」で有名な相生の松が春の日差しに照らされて青々と茂っている。

永遠の愛を誓った二人は神社のそばにある堀川の船着き場に向かう。二人は船に乗り船頭さんの櫓を頼りに川を下る。岸辺には満開の桜。二人は桜の祝福を受けながら海に出る。

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そして、海から向島公園の浜辺に降り立つ。浜辺には二人の到着を今や遅しと待つ友人、知人とご近所さん。二人の到着と共に、心躍る演奏が始まり、人々が二人の門出を祝う。抱きあって喜ぶ仲間、酒食にふける大人たち、浜辺を駆け回る子供たち。いろんな人たちが思い思いに二人を祝い、時を共にする。

ここまでこれたこと、共に歩んでくれたまちの人たちに感謝する結。そして、これから歩んでいく夫との未来に想いを馳せる結。結は「むこうじま」で新たな「夢」をもつ。

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「むこうじま」では月一回のマーケットが行われている。たくさんの笑顔に包まれた浜辺の一角に母と娘の姿が見える。母は娘に伝える。

相生の松が茂る高砂神社で結婚式をしたこと
桜に囲まれた堀川を下ったこと
むこうじまの白い浜辺で仲間たちに祝福されたこと

母親の名前は「結」
彼女は結婚し、娘を授かった。そして彼女はかつて母親が結に伝えてくれたように「出立ち式」を娘に伝える。

仲良くたたずむ二人の向こうにはキラキラ光る播磨灘。
波の音と共に「結の夢」は娘に受け継がれた。

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