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岡本全勝さんという稀有な官僚の退任

 元復興次官だった、岡本全勝さんが、菅政権誕生にともない内閣府参与を退任されました。朝日新聞の秋山訓子記者が、全勝さんの退任を報じています。

 岡本全勝さんとはじめて「遭遇」したのは、2011年春。東日本大震災に関わる大臣が一同に会する会合を、全勝さんが完全に仕切っている現場においてでした。私は当時、内閣官房震災ボランティア連携室の一スタッフとして会合に陪席していたのですが、「こうした方が復興施策をリードしているのか」と衝撃を受けたことを今でもはっきりと覚えています。
 その後、様々な偶然でご縁を頂き、官と民のあり方について指導頂いています。私やRCFは行政と民間の連携をミッションとしていますが、この道を進むと決めたのは、全勝さんとの出会いがきっかけでした。

1.調整(コーディネイト)という仕事を教わる

「官邸が動く仕組みも知っているし、役人生活で交付税や分権の仕事をしていたので与野党の政治家ともネットワークがある。自治省出身だから、自治体の現場も知っている。霞が関の各省幹部も秘書官時代に知っていたし、福島、宮城、岩手の副知事も知り合いだった」

 RCFは、社会事業コーディネーターという仕事をしています。RCFによるコーディネイトは一般と異なります。根底にある社会課題に向き合い、関係者を調整というよりもむしろリードしながら、仕事を進めます。こうした視点を持てたのも、全勝さんの仕事を見たからでした。
 「復興」という言葉に答えはありません。基本は被災者に寄り添うことですが、寄り添いすぎても、その地域の復興にとってプラスにならないこともあります。被災自治体と県と国。民間と行政。復興にむけて連携が必須ですが、利害が一致しないことも多々あります。
 そうした中で全勝さんは常に仕事に哲学をもっていて、その世界観にあらゆる関係者を巻き込みながら、影響をあたえながら、新しい社会を創り続けていました。そうでなければ復興は進まなかったはずです。社会課題解決においても、そうしたビジョンとリーダーシップがあるコーディネーターが必要だと、全勝さんを通じて気づくことができました。

2.対等な官と民について教わる

「私の意識が間違っていた。行政がNPOを『使う』のではない。あくまでも対等で、社会を共に支える存在なんだとわかった」

 官民連携という言葉は以前からありますが、日本では行政予算で民間で事業を行うことを指していました。とくに施設管理などで、コスト削減のためにNPOが活用されてきました。
 近年あえてコレクティブインパクトという言葉を使うのは、受発注の関係ではなく、社会課題解決という共通目的のためにこそ、行政・NPO・企業が協働することが重要だからです。全勝さんはこうした考えを完全に理解し、復興庁の中にボランティア班や企業連携班を作りました。
 ただ、全勝さんはこの考えを私と会う以前から十分に理解されていました。「新・地方行政入門」(ぎょうせい)という本があります。2011年冬に全勝さんにプレゼンする機会を頂けて、慌てて読んだ本です。官僚のトップの方が、非営利組織の未来をくっきりと洞察できていることに衝撃を受けました。この本の書評をブログに書きましたが、当時の自分の興奮が伝わってきます。

 なんのことはない、私やRCFは、全勝さんが論理的に掴んでいた官と民のビジョンに動かされていたわけです。ただ一つ誇れることがあるとすれば、そうした官と民の協働の現場を全勝さんは評価をしてくれて、共著で本を出して頂けたことです。手前味噌ではありますが、行政・企業・NPOの連携を考える上で、理論と実践を押さえた稀有な一冊になっていると思います。(復興庁職員は必ず読まされるとか)

3.「自助公助共助」とは何かを教わる

 「NPOが担った役割に、たとえば仮設住宅の見守りがある。被災者の孤立を防ぐためには、ふだんからの見守りやこまめな声かけが重要だ。自治体職員にはそこまでの余裕はなく、ノウハウもない。そこでNPOに委託をした。これで失業した被災者に雇用も生み出すことができた」

 東日本大震災では、10万人以上が仕事を失いました。同時に、被災者支援のための膨大な仕事が生まれました。この2つを解決するためにNPOが努力し、失業者を受け入れながら被災者を支える仕事を進めました。
 このようなシステムが、コロナ禍でいよいよ必要になってきています。コロナの影響によってとりわけ生活弱者が仕事を失うケースが増えています。自殺者も増えつつあります。今回は東北に限らず日本全国で、仕事を失った方を雇い、新しい社会づくりを進める必要に迫られています。世界ではコロナ禍からの創造的復興(Build Back Better)やグリーンリカバリーが掛け声になっていますが、日本でも、非営利組織が率先して役割を果たしていく必要があります。
 「自助共助公助」と首相が言うと、「自己責任論だ」「公助を減らそうとしている」と言う人もいますが、私はそうは思いません。自助はもちろん、共助だけでも公助だけでもこの難曲は乗り切れない。ましてNPOの立場としては、次々と新しい共助/公共を生み出していく必要があるのです。そして、そのことは政府や行政も求めている。そう信じさせてくれたのは、全勝さんという存在でした。

全勝さんの発信

 全勝さん、あらためて長い間の官僚人生を有難うございました。数多くの行政官を指導されていましたが、同時に私たちのようなNPOにも、全勝さんの仕事と姿勢は大いに影響を与えました。しかしまだ日本社会は変わるべきことが多く、全勝さんの役割はまだ続きそうですね。
 全勝さんは、官僚ながら実名で毎日ウェブサイトから発信することでも有名な方です。次のサイトで、今日もまた、社会に言葉を発し続けています。ぜひお読み頂ければと思います。


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RCF代表。一橋大学卒業後、マッキンゼーを経て独立。社会事業コーディネイター集団として活動しています。著書に『社会のために働く』(講談社)『人生100年時代の国家戦略~小泉小委員会の500日』(東洋経済新報社)、共著に『東日本大震災 復興が日本を変える』(ぎょうせい)他
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