見出し画像

32年振り円安なんて生前の話。

1ドル148円台後半に突入。

 先日、9月の米消費者物価指数(CPI)が予想を上回る結果となり、利上げが継続されるとの見方から、さらなるドル買い、円売りが進んだ格好となった。32年振りの円安水準と言われても、生まれる前の話だから実感もクソもなく、どのような形で影響が出るのかも、想像の範疇を超えている。

 とはいえ、バブル崩壊後の日本経済と今とでは、置かれている状況が異なるのは明白で、32年前当時は少子高齢化も深刻化していなければ、財政も今みたいな年金と医療費を捻出するために、どこを削るかと言った形態ではなかったのだと思う。諸外国との物価の差も、今ほど顕著ではなかったことだろう。

 ビッグマック指数やiPhoneの価格など、「安い国」がすっかり定着しつつある状況で、インバウンドでの爆買いが再燃しそうな空気感すら醸し出されており、そうなると今のような円安水準は、短期目線ではそう長くは続かない可能性もある。

 しかし、日本経済の構造上、経済力が安定した低空飛行であることは事実で、長期目線では徐々に円安方向にシフトしていく路線が、確率的に最も高いだろう。結局のところ、遅かれ早かれ円安で推移することには変わりないが、今年の円安はあまりにも急激に進んでいるため、この反動がどこかのタイミングで炸裂するのではないかと、警戒している状況である。

 年初の1ドル115円から2割強も円安に進んだ一方で、米国株式の指標であるS&P500は年初来で20%以上の下落を記録しているが、円建てで評価額を確認すると、為替差益で相殺されるか、むしろプラスに転じている状況で、一概に円安が悪いとも言えないのが、保有資産の半分を外貨で保有している個人投資家の悩ましいところでもある。

値上げは続くよ、どこまでも。

 とは言え、対外的に日本の価値が2割強も目減りしているのは紛れもない事実で、我々の賃金はそれに対応する形で上昇していない。日本はエネルギー資源を有していないのだから、諸外国からエネルギー資源を輸入しなければ、経済活動が滞ってしまう。

 原油を買うのに円安だとコストが嵩み、ありとあらゆる生活品の値段が上がっているのが、昨今のコストプッシュ型のインフレであり、企業側からしても、原材料費の高騰に対応する形で値上げしているため、売上高自体が増加しても、利益が増加する訳ではないため、人件費に還元するだけの余裕がないのが実情だろう。

 それにより、あらゆるものの値段はインフレするものの、賃金がそれに見合う形で上昇せず、生活が苦しくなるだけの悪いインフレ、いわゆるスタグフレーションと化しているのが現状である。

 これを某国の戦争による影響だと春先から嘯いていたマスメディアの責任は重い。8月頃までの値上げは昨年の原油高の影響によるもので、戦争の影響が顕著に出始めたのは9月に入ってからで、まだ始まったばかりである。半年遅れで影響し始めるため、今から少なくとも半年以上は、値上げが続くと覚悟しておいた方が良いだろう。

今までの経験則が通用しない可能性。

 賃金が上がらないのに次々に値上げされると、企業を恨みたくもなるが、企業側もコストカットなどの努力を行い、小売価格に転嫁しないように努めてくれている側面がある。電気料金なんかは典型例で、緩やかにしか料金が上がっていないため、諸外国のように突然数倍になっていない反面、電力会社は軒並み赤字に転落し、経営面で体力のない新電力ほど経営破綻に追い込まれる構図になっていたりする。

 裏を返すと、失われた30年でインフレ耐性のない消費者心理から、企業側も原価を抑える方向に努力の矛先が向かい、価格転嫁出来ていなかった時期が長かったことから、賃金にも反映できず、デフレ経済のまま規模がシュリンクしていった側面もあるのは事実で、こればかりは鶏が先か、卵が先か問題に通じる部分があり、賃上げによって需給バランスからインフレが発生するかは怪しいところでもある。

 とは言え、企業側が原価を切り詰めるのも、消費者側が値上げを受け入れるのも、どこかで限界が来るため、この状態が続くと厳しいのは間違いない。そうは言っても、大衆がどうこうできる問題とも思えないが、ひとつだけ言うならば、何事も今までの経験則が通用しない局面となる可能性が高いことである。

 最近になって外貨預金が人気だが、米国も現状、株安、債券安と、トリプル安のリーチが掛かっている状態で、何かの拍子に通貨安になる可能性も踏まえた上で検討すべきである。過去にドルを買って、既に持っている人が利確する分には結構だが、今焦ってドルを買うと、レートが年初の115円に戻っただけで2割強の為替差損を被るリスクがあり、得策とは言えない。

 だからと言って日本円のままでは資産が目減りして保全されない考えも理解している。通常の感覚なら、明らかにバーゲンセール状態の米国株式や米国債券が狙い目だが、円安によって旨味が半減しているから得策とは言えない。

 ベストとは言えないかも知れないが、インデックスファンドの長期、分散、積立を淡々と行う以外で出来ることなど、為替リスクのない日本株で割安感のあるものを、暴落が来ても死なない程度に保有すること位なのかも知れない。現金が目減りするのは勿体ない感覚があるものの、暴落の際に強いのは紛れもなくキャッシュで、今は市場経済が不安定故に、あらゆる事態を想定するべきである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?