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全世界株式か、それとも米国株式か'e


決着がつかない論争

 世界経済が右肩上がりであり続ける前提のもと、全ての上場企業に投資し、市場平均の上昇率に近い利益を手堅く得られるインデックスファンドが市民権を得るようになって久しい。

 しかし、そのインデックスファンドを愛する人々の中でも、きのこたけのこ戦争、カップ麺の赤緑合戦に次いで、永遠に決着がつかないのが、株式投資の対象が全世界か、米国か論争だ。

 因みに私は捻くれている性分なため、チョコレートスナック菓子は”きこりの切株”(もはやメーカーが違う)、カップ麺は”紺のきつねそば”を推す。

 だからといって、インデックスファンドも傍流なTOPIXや新興国を推すようなことはない。それは投資で遊び心を追求したら、自滅に至るからであり、おちゃらけは消費と浪費で満たせば良い。

 そのため、本記事は出来る限り中立的な視点から、全世界株式と米国株式を比較するが、結論から言えば、どちらが良い、悪いと言うことはなく、どちらも合格点であるため甲乙つけ難く、個人の好みで選択して頂きたいが主張となる。

運用リターンは米国の圧勝

 大前提として、投資の目的は自分のお金や時間、労力を投じて実利を得ることである。そのため、統計上どちらに投資したほうがリターンが高いかは重要な指標と言える。

 ここで比較するのは、二重課税調整対象ETFのMAXIS米国株式(2558)と、MAXIS全世界株式(2559)である。

 これは、とことんコストを追求する投資信託でおなじみのeMAXIS Slimの上場版と言える。2銘柄とも同じインデックス運用で2020年1月10日に時価10,000円でスタートしているため、比較しやすいと判断した。

 同じ1月10日から投資していた場合のトータルリターンは、米国株式が24年9月末時点で¥23,390(+134%)、全世界株式が¥19,915(+99%)と実に35%もの開きがある。

 これは米国一強時代の象徴とも言えるが、世界全体よりも米国単体の経済成長率の方が高いだけでなく、運用コストの面でも、投資対象が米国と全世界とでは、米国の方が地域が限定されている分だけ安い傾向にあることも要因のひとつだろう。

 確かに全世界株式は、日本株のように指標が30年以上横ばいだった国が、ポートフォリオに5%程度組み込まれていれば、米国100%のファンドと比べて、全体の足を引っ張るのは明白である。

 また、昨今の戦争に伴う経済制裁などの影響を考慮して、インデックスの指標から外された国は記憶に新しいが、運用会社目線では指標の変更が公表された場合、例えその国の通貨も株価も大幅に下落している最悪なタイミングで投げ売りとなることが分かりきっていても、銘柄を組み替えなければならない。その損失は、運用手数料としてファンド保有者が負担している事実は、あまり触れられていない。

インデックスファンドの隠れた欠点

 先述の弱点はインデックスファンド全般に言えることで、運用リターンの指標を市場平均としていることから、アクティブファンドと異なり、ポートフォリオの銘柄を選定するコストはゼロ故に運用手数料が安い。

 市場平均と言う黄金比のレシピに従い、機械的に指標の構成銘柄と同じ割合となるように売買していれば、必然的に同じ値動きとなる結果、手間を掛けずに平均的なリターンを出せるのである。

 これは平時なら理想的だが、もしも、なにかの拍子で構成銘柄が変更となった場合、先の例で挙げたように、同じ指標で運用している全ての運用会社が、同じ銘柄を同じタイミングで一斉に組み替えることになる。

 黄金比のレシピから脱落した銘柄は投げ売りされ、新たに組み込まれた銘柄はどんな高値でも、指標と同じ値動きとするためには保有しなければならないのである。

 もし、先見の明があって、構成銘柄の変更が発表されるより前から保有していた投資家からすれば、インデックス投信の運用会社が言い値で買ってくれるに等しいのだから、ぼったくり紛いな指値売りで大儲けしたくなることだろう。

 指標の構成銘柄が組み替えられる度に、インデックスファンドの運用会社はこのような茶番劇に付き合わされる羽目になる。自分たちでレシピを模索しているアクティブファンドであればそんな間抜けな売買はしない。

 ICT化が加速して企業の寿命が昔よりも短くなっているのは米国企業を見たら明らかで、今後も世界が目まぐるしく変化して、加速度的に企業の新陳代謝が発生するのであれば、インデックスファンドの運用手数料は今のコンマ数%の水準が維持できなくなる可能性は否定できない。

 その点で、世界に幅広く投資している全世界株の方が、銘柄組み換えに付き合わされる頻度が高くなり、結果として運用手数料も構造上、米国株式より高くなるのは必然と言える。

 投資の世界ではいかに無駄な手数料を支払わないかが勝敗を分ける。リターンは不確実だが、コストは確実に出ていくからだ。

いつまでも米国一強とは限らない

 投資の基本である、手堅く利益を得て、無駄な手数料を支払わない観点では、米国一強時代の前提が崩れない限り、米国株が合理的な選択のように思える。

 しかし、米国が世界一の経済大国と言う前提が崩れると、多少コストが掛かっても全世界株のパフォーマンスが上回る可能性が出てくる。

 現在、全世界株インデックスファンドの構成銘柄はざっくり60%が米国株、5%が日本株、25%が日米を除いた先進国株式、10%が新興国株式である。

 これは時価総額加重平均と言って、世界の時価総額ランキング上位の”旬”な企業の構成割合が高くなるように設定されているため、今をときめくマグニフィセントセブンを中心とした米国企業が軒を連ねている。

 つまり、1989年に遡れば、日本が米国と肩を並べていた時期であり、この頃は日本企業に投資をするのが旬であり、インデックスファンドであれば、日本株が44%、米国株が28%の比率で構成されるような状況だったと言える。

 仮に今後、現在進行系で人口増加中のインドや中国が経済成長によって、バブル期の日本のように、米国企業よりも時価総額が大きくなった場合でも、一貫して米国株を持ち続けられるだろうか。

 米国一強時代は終わったと、みんなが売りに出せばファンドの評価額は暴落し、利益が一瞬で吹き飛ぶリスクがある。その点で全世界株はコストは若干高くなるものの、世界中の幅広い投資対象の中から、旬な銘柄が多く保有される仕組みのため、取りこぼしがない。

 直近では中国のGDPが物凄い勢いで米国に迫ってきているものの、数年後には一人っ子政策が仇となって人口が伸び悩むことが、人口動態から予測されているため、個人的には米国が首位の座を奪われる事態は想定していない。

 しかし、GAFA(Google/Amazon/Facebook/Apple)に相当する、BATH(Baidu/Alibaba/Tencent/Huawei)は、検索エンジン、ECサイト、SNS、スマホを自前で揃えている点で、米国に依存する必要がない意味では、戦争の火種になりかねない脅威と捉えている。

 話が逸れてきたので本題に戻ると、向こう数十年、米国が最も投資家保護に関する制度が整備されていることから、中国やインドよりも投資マネーを呼び込みやすい点で、米国一強時代であり続けると思うなら、リスクを取ってでも地域を絞り込み、米国株にまるっと投資するのが最適解で、時代は変化して世界一の経済大国が移り変わると思うのであれば、全世界株にまるっと投資するのが賢明と言える。

 つまり、どちらが良い、悪いと言うことはなく、どちらも合格点であるため甲乙つけ難く、個人の好みで選択して頂きたいと言う結論に行き着くのだ。

 参考までに私は長期投資を前提にした際に、運用手数料が安いに越したことはないと考えるため、新NISAが始まる前に全世界株式の信託報酬が大幅に引き下げられたことを契機に、新規買付分からは、これまでの米国株式から全世界株式に変更している。

[増補]アメリカ株だけだとTSMCの恩恵を取りこぼす

 昨今、熊本ではTSMCを誘致したことで半導体バブルに沸いていることが、しばしば経済メディアでも取り上げられている印象がある。

 その中で印象的なのは、菊陽町の坪単価が東京23区並みの水準まで高騰している物件があったり、TSMCの食堂ではパートタイムの時給が3,000円と、TSMC界隈だけ極度なインフレが生じており、地域経済とのバランスが取れていないことで、既存の住民が普通に働いて、その土地で暮らすのが無理ゲー化する”金融の呪い”にも似た現象が見え隠れしている点だ。

 あくまでもTSMCは国際標準的な人件費を支払っているに過ぎないが、国際標準とは程遠かった田舎町で、いきなりそれを導入すると、二極化が加速し、熱りが冷めた10年、20年後に撤退することで、ゴーストタウン化するのが企業城下町の悲観シナリオである。

 そんな地方経済の生殺与奪権を、外資系企業に委ねるのは、結構なリスクを背負っている気もするが、だからこそ半導体”バブル”たる所以なのかもしれない。

 そんなTSMCは台湾企業であり、当たり前であるが、S&P 500を中心とした米国株式のみを投資対象としている方は、その恩恵を取りこぼしている。反対にACWI指数に連動する全世界株式(オルカン)を保有している方は、時価総額の1%弱分、TSMCの株式を持っている計算であり、保有分に応じた恩恵が受けられる可能性が高い。

eMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)の組み入れ上位銘柄

 この記事を記した2022年当初は、米国株式の方がリターンが高く、信託報酬も安かったため、敢えて全世界株式を選ぶ合理性がなかった。

 しかし、この2年間で半導体バブルはもとより、某国の戦争は未だ収束の兆しが見えず、その裏で日本株はバブルの最高値を更新するなど、想像もしなかった状況となっている。

 やはり世の中は諸行無常であることを踏まえると、目先のリターンではなく、投資対象の広さとコストの安さで全世界株式を選んだ方が、非裁量で投資する際の取りこぼしが少ないように思え、長期で資産形成をする上では、このような視点が大切ではないだろうか。


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