見出し画像

【リサーチに関する学術論文を読んでみよう!のコーナー】「Brand Concept Map」ってどんな技法だ!?

こんにちは、リサーチャーの牛尾です。

「リサーチに関する学術論文を読んでみよう!」のコーナー!!


▶本記事では、以下の論文を取り上げます

John, D.R., Loken, B., Kim, K., & Monga, A.B. (2006), "Brand concept maps: A methodology for identifying brand association networks," Journal of Marketing Research, 43, 549-563.


※補足1:英語の論文です(過去、公式に邦訳されたことはない論文です)。

※補足2:本論文のタイトルをGoogleなどで検索すると、PDFが見つかると思います。著者がアップロードした公式なもののようですので、本論文を読みたい方はこれを利用するといいと思います。

※補足3:以下、私のコメントを適宜加えつつ、論文の内容を大雑把に要約します。あくまでも簡易的なご紹介ですので、実務でご利用する場合にはご注意ください。


【前提1】ブランドの連想ネットワーク(brand association network)!!


【ブランド連想(brand association) = 人びとがそのブランドについて連想するもの。大雑把に言えば「ブランドイメージ」】は、人びとの頭の中にネットワーク状に存在していると言われています。


つまり、

画像12

画像12


「おいしい」「温かい」「安い」といった連想がバラバラと転がっているのではない。ネットワーク状につながって存在しているわけですね。


そしてこのネットワークを、【ブランドの連想ネットワーク(brand association network)】と言います。


【前提2】きみの頭の中をまるっと可視化したいんだ!!


で、ですね。

ブランド連想が人びとの頭の中にネットワーク状に存在している以上、そのネットワークをまるっと把握したいじゃないですか。

「おいしい」「温かい」「安い」といった連想をバラバラと把握するよりも、ネットワークをまるっと可視化する方がいいよなぁと思うのが人情でしょう。


では、どうすればまるっと可視化できるのか?

ここで登場するのが、本論文のテーマ【Brand Concept Map】なる技法です。


Brand Concept Mapの最終成果物は?


詳しい説明の前に……まずは、Brand Concept Mapの最終成果物を見ておきましょう。Brand Concept Mapでは、こんなものを作ることができます。


<1>

画像1

※補足:線の種類(一重線、二重線、三重線/実践、破線)の使い分けはきちっと定義されていますが、ひとつずつご説明していると煩雑になるのでここでは割愛します。


<2>

英語のままではちょっとわかりづらいと思いますので、大雑把に邦訳してみました。

画像2


<3>

さらに!

似た項目同士を線でくくり、グループ化してみました。

画像3


中央に配置されているのが今回の【ブランド】(Mayoはアメリカに実在する病院)。そしてその周辺に、【ブランド連想】がネットワーク状に描かれています。


Brand Concept Mapなる技法を使えば、私たちの頭の中をこんな具合にまるっと可視化できるわけですね。


Brand Concept Mapの3つの手順


ここからは、Brand Concept Mapの具体的な作業手順をご紹介します。


Brand Concept Mapは、以下の3つの手順に分かれます。

・第1段階:抽出(ブランド連想を抽出する/elicitation stage)

・第2段階:マッピング(抽出したブランド連想をマップに落とし込む/mapping stage)

・第3段階:集約(マップは調査参加者の人数分作成される。これを集約して1枚にまとめる/aggregation stage)


【第1段階:抽出】では何をするのか?


【第1段階:抽出】の目的は、特に顕著なブランド連想を特定することです。


▶Step1

まずは、定量調査のFA設問でブランド連想を聴取します。すなわち「○○(ブランド名)の名前を聞いたり、ロゴを見たりした時に何を思い浮かべますか?」などと質問するわけですね。

なお、過去取得したデータを流用してもOKです。


▶Step2

FA回答をアフターコーディングしてカウント。回答者の50%以上が言及している項目のみをピックアップして、一覧表を作ります。


▶Step3

続いて、一覧表を精査します。すなわち必要に応じて項目を追加したり、表現を修正したりする。

ここで一覧表が完成となります。


▶Step4

一覧表に掲載されたブランド連想を、1つ1つカードに落とし込んでいきます(トランプ大のカードを使うイメージ)。ブランド連想が25個あれば、カードは25枚できます。


以上の4つのステップで【第1段階:抽出】は完了です。


※補足1:論文内に掲載されている例を見ると、"What comes to mind when you think about the Mayo Clinic?"と質問しています。ストレートに訳せば「メイヨー・クリニックといえば何を思い浮かべますか?」ですね。

※補足2:「FA設問で50%以上が言及した項目のみをピックアップ」というのは、かなりハードルが高い印象です。これ、適宜緩める必要があるかと思います。なお論文に掲載されている例を見ると、一覧表には「expert in treating serious illnesses(重病の治療におけるエキスパート)」「latest medical equipment and technology(最新の医療機器・技術)」といった項目が25個並んでいます。つまり、<25項目ほどリストアップできるまで基準を緩める>のが目安になるかと思います。


【第2段階:マッピング】では何をするのか?


【第2段階:マッピング】では調査参加者をリクルーティングして、15-20分程度の簡易パーソナルインタビューを行います。ただし、一般的なインタビュー調査とは違って、目的は参加者自身にマップを作ってもらうこと

以下、具体的な作業をご紹介します。


▶Step5

まずは、「○○(ブランド名)の名前を聞いたり、ロゴを見たりした時に何を思い浮かべますか?」などと質問します。

そして上記ステップで作成したカードを提示して、「ご自身のイメージに該当するものを選んでください」と案内します。


▶Step6

続いて、マップの見本(前掲の最終成果物)を提示します。そして、「こんな風にカードを並べたり、カード同士を線で結んだりしてみてくださいね」とアナウンスします。


▶Step7

やがて参加者の作業が完了し、マップが完成します。

なお、マップは1人1枚ずつ作ってもらいます。つまり調査参加者が5人ならマップは5枚、参加者が10人ならマップは10枚できるわけですね。

画像11


以上の3つのステップで【第2段階:マッピング】は完了です。


※補足1:インタビュー時間が15-20分と短いことから、一般的なデプスインタビューよりも、CLTのスキームで運用するのがいいかと思います。

※補足2:本論文に掲載されている例を見ると、調査参加者は165人!つまりマップを165枚作っています。多いな……!!


【第3段階:集約】では何をするのか?


上記ステップで、調査参加者の人数分のマップが完成しました。【第3段階:集約】では、これを1枚のマップにまとめていきます

なお、集約は定量的な観点から行います。


▶Step8

<1>

すべてのマップを整理・集計し、以下のような表を作ります。

画像5

これは、「Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)」という病院の利用経験者90人のマップを整理した表です。


<2>

表側が「ブランド連想」、表頭が「指標」になっています。

画像6


<3>

ここでは、表の一番上の項目「expert in treating serious illnesses(重病の治療におけるエキスパート)」に注目してみましょう。

画像7


<4>

まず、「Frequency of mention(言及数):64」。これ、【調査参加者90人の内64人のマップに「expert in treating serious illnesses」が登場していること】を意味します。かなりの出現率ですよね。

画像8


<5>

続いて、「Number of interconnections(他の連想との接続数):75」。これは、【「expert in treating serious illnesses」が、90枚のマップを通じて75の項目と線でつながっていること】を意味します。

なお、多くの項目とつながっているほどにそれは重要な項目と考えられます。

画像9


……とまぁこのように、各指標について整理・集計を行い、表を作るのです。


▶Step9

続いて、上記ステップで完成した表をもとに<集約版のマップ(consensus brand map)>を作っていきます。

このステップにも厳密なルールがあって、例えば【「Frequency of mention(言及数)」が50%を上回る連想は<中核的なブランド連想(core brand association)>と定義し、集約版マップの中心部分に配置する。ただし、「Frequency of mention(言及数)」が45-49%といま一歩劣っていたとしても、「Number of interconnections(他の連想との接続数)」が目立って多い場合には<中核的なブランド連想>に含める】なんて具合です。


ひとつひとつ紹介すると長くなるので割愛しますが……論文内のルールに沿って進めていけば統計学やネットワーク論に関する特別な知識がなくても集約版マップを作ることができるでしょう。

画像10


分析も忘れずに!


以上が、Brand Concept Mapの作業工程です。

最終成果物は<集約版のマップ>。あとはこのマップを分析して完了となります。


マップをボーっと眺めているだけでもいろいろ発見があるかと思いますが、

・分析例1:<当該ブランドのユーザーのマップ>と<非ユーザーのマップ>を作成して、両者を比較する

・分析例2:<当該ブランドのマップ>と<競合ブランドのマップ>を作成して、両者を比較する

・分析例3:定期的にマップを作成して、時系列比較を行う

……なんて風に使うとさらなる発見が期待できそうです。


※補足:論文では「Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)」の利用経験者と非利用経験者のマップを比較、分析しています。かなりビビットに差が出ており、興味深い結果になっています。


まとめ


以上、Brand Concept Mapの概要をご紹介してきました。

最後に、ポイントを列挙します。


●Brand Concept Mapは……

・私たちの頭の中にある【ブランドの連想ネットワーク(brand association network)】をまるっと可視化するための技法です。


●Brand Concept Mapの作業は……

【抽出 → マッピング → 集約】と3段階で進行します。


●Brand Concept Mapの運用上の特徴は、手軽さです。具体的には……

全体的に手順がきちっと定められている点にご注目ください。手順が定まっているがゆえに特別なトレーニングは不要、一般的なリサーチ経験者なら実践可能なはずです。

・また、【第1段階:抽出】では過去調査結果を流用することも可能です。お金を節約できる技法と言えるでしょう。

・同時に、【抽出】を定量調査でさくっと終わらせるという点も興味深いですよね。だって、「抽出からマッピングまですべてインタビューで賄うべし」という場合と比べると、時間もお金もかなり節約になるはずですから。


※補足:Brand Concept Mapがいかに手軽で、そしていかに実践向きの技法か理解したいという方には、Brand Concept Mapの前身とも言える技法<ZMET>について調べることをお勧めします。

※補足の補足:ZMETについて知りたい方は以下の論文をご覧ください。ただし……この論文、前提知識がいろいろ必要な上、他の文献からの引用が多いため、なかなかどうして読みづらい!

Zaltman, G. & Coulter, R.H. (1995), "Seeing the voice of the customer: metaphor-based advertising research," Journal of Advertising Research, 35, 4, 35–51.


●Brand Concept Mapの分析時の特徴は……

・ブランド連想の<内容>と合わせて、<ネットワーク構造>にも注目するという点です。<ネットワーク構造>というのは、上述の「Frequency of mention(言及数)」などのこと。

・つまり、<内容(いわば定性データ)>と<ネットワークの構造(いわば定量データ)>の両面からブランドの特徴や個性を描くことができるというわけですね。

・また、属性間の比較が可能です。ゆえに、「ユーザーと非ユーザーを比較 → 非ユーザーに不足しているものを探す」といった使い方もできます。


●Brand Concept Mapの最終成果物は……

・複数の調査参加者のマップをまとめた<集約版のマップ>です。

・n=1のマップが10枚も100枚もあっても処理に困ってしまいますよね。だから、集約することに価値があります。

・また、マップ(= ネットワーク図)だからこそ、人びとの頭の中にある【ブランドの連想ネットワーク(brand association network)】を直観的に把握できるというメリットもあります。

・ただし、必要に応じて「n=1のマップ」や「マップ以外のもの(例えば前掲の表)」を最終成果物とすることももちろん可能でしょう。


▶メモ

論文内では、【第2段階:マッピング】は対面調査(一般的なパーソナルインタビューやCLT)で実施することが想定されています。

ただし、ある程度工夫をすればオンラインインタビューで代替することも可能だと思われます。



以上です!!

皆さん、ぜひ参考にしてみてくださいねー!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?